採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥

文字の大きさ
上 下
127 / 345
第2章 現実と仮想現実

第128話 縁を切るとか

しおりを挟む
「そういえば、トーマ君。なにか用事があったんじゃないの?」
「そういやそうだったわ。薬作ってんのが何気に面白おもろくて、忘れとったわ」

 粉末にした薬草を、小さい革袋にまとめて入れていく。
 そんな僕の横で、トーマ君は何やら布でくるまれた、棒のような物を取り出した。

「これやこれ」
「なに、これ?」
「スミスに渡しといてくれって言われたんよ。あいつ今、イベント準備で来る客の対応に忙しいみたいでな」
「あー……。鍛冶士さん達はそうかもね……」

 布にくるまれたままのそれをトーマ君から受け取り、ゆっくりと布を開いていく。
 あー、もしかしてこれって……。

「ナイフ?」
「みたいやな。なんか聞いとるか?」
「……たぶん。僕の目の前で打ってたやつだと思う。スミスさんを同盟に入れる時に、アルさんが実力を確かめたいからって」

 あの日、確か「アキさんにお渡しする予定」って言ってたような……。
 柄が付いてなかったから、あの日は貰ってなかったけど、今はちゃんとした形になってる。

「あー……、アルならやりそうやなぁ……」
「あはは……」

 アルさんは、結構固い面もあるからね……。
 特に、仲間を守るとか、そういった面に関しては妥協しない感じがする。

「たしか、その時はコレを包丁って言ってたはず」
「あー、言われてみりゃ、武器としてのナイフよりは多少柄や刃渡りがでかいな」
「うん。……というか普通の包丁より少し大きい気がする」

 武器に使う鉄と同じ材料だからか、持ってみると少し重い……。
 鑑定してみたらわかるかな?

[牛刀:肉の塊を捌くためにプレイヤー スミス に作られた包丁。
プレイヤー アキ 専用]

「牛刀……」
「牛刀か。本来は肉捌き用やけど、確か万能包丁とも言われとるな」
「そうなの?」
「三徳包丁って知っとるか? アレも万能包丁なんやけど、アレの肉主体版って思っといたらええわ」
「そ、そうなんだ……?」

 なんだか聞き覚えはあるんだけど……。
 ログアウトしたら調べておこう、うん。

「なんや分かってなさそうやけど……まぁええわ。試しに使ってみたらどないや」
「それもそうだね!」

 布を片付けて、包丁を少し濡らす。
 それを綺麗な布で軽く拭いてから、まな板の上の薬草に落とせば……。

「わぉ……」
「ほー、なかなかええ切れ味やん」

 サクッとも、ザクッとも違う……、スッと入る感じ……。
 抵抗がないというか、なんだろう伝えにくいんだけどスッと入る感じ。

「トーマ君これすごいよ! スッと入る!」
「お、おぉ……かったやん」
「でもこの、僕……じゃなくて、私専用って何か効果あるのかな?」
「あー。専用装備や専用道具ってのは、当人しか使えんのやなくて、当人以外やったら性能が著しく下がるってやつやな」
「んー? てことは、この包丁をトーマ君が使ったら、切れ味が落ちるってこと?」

 「そういうことや」と、トーマ君は僕が机に置いた牛刀を持って、薬草へ落とす。
 するとそこからは、さっきと違う、ザクッっと無理やり切ったような音が聞こえた。
 なるほど、これが専用道具ってことなのか……。

「な?」
「みたいだね」
「ま、今んとこ専用道具なんかは、プレイヤーメイドか、ガラッドのおっさんくらいからしか見てへんけどな」
「そんなに浸透してるわけじゃないんだね……」
「俺みたいなやつは、逆に汎用性が利く方が値段も抑えれるしな。アルの大剣は一応専用武器やったで」

 まぁ、アルさんの武器はガラッドさんに直接お願いして作って貰ってるオーダーメイドみたいだしね。
 なんだったっけ……黒鉄クロガネだったっけ?
 そういえば、アルさんのは完成したのかな?
 確か、僕の採取道具がアルさんの武器の余りから出来てるはずだし、多分出来てると思うんだけど。
 そんなことを思いながら、僕は付属で付いてた革の包丁入れに牛刀をしまう。

「しっかし、包丁が贈り物……ねぇ……」
「ん? どうかした?」
「いや、包丁を贈るってのは色々と意味があってな。まぁ一般的には切るって事で、縁を切るとかな」
「え!? 僕、縁切られちゃうの!?」

 まさかそんな意味で贈ってきたとは思いたくないんだけど……。
 でも、スミスさん……いや、そんな……。

「まぁ、それもあるんやけど」
「そ、それ以外もあるよね? ね?」
「アキ、必死すぎや」

 知らず知らず近づけてた頭を、笑いながらはたかれる。
 「あたっ」とか言いながら後ろに下がるけど、軽くだから痛みは全然ない。
 むしろ、ちょっと楽しい。

「まぁ、それで縁を切る以外の意味なんやけどな」
「うん」
「新しい未来を切り開くって意味もあるんやで。多分あいつのことやから、こっちやろな」
「新しい未来を切り開く……」
「その意味やったら、アキ……どないや?」

 トーマ君の言葉に、手に持った牛刀へもう一度視線を落とす。
 この包丁で、僕の新しい未来を……切り開けるんだろうか……。
 相変わらずこういう時に限って、僕の<予見>は全く働いてくれない。
 けど……。

「みんなと一緒なら、多分出来る気がするよ」なんて、トーマ君と一緒に笑い合った。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...