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第2章 現実と仮想現実

第124話 ごめんなさい

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「――!」

 ん……?
 なんだろ……なんだか周りが騒がしい……?
 てか、僕なんで寝て……ッ!

「――ったぁ……」

 直前のことを思いだした僕は、倒れていた身体を一気に起こした。
 その結果、僕の上にあった何かに頭が直撃。
 ゴッと鈍い音がして、思わず両手で頭を押さえた。

「一体何……」
「……いたい」

 聞き覚えのあるその声に顔を横に向ければ、今日一日で何度も見た青い髪。
 痛いって言いながらも、まったく変わらない表情は、間違いなくラミナさんだった。

「……なんで」
「ん?」
「なんでいるの? 逃げてって言ったよね?」
「遅かったから。……待ってたのに」
「っ……、それはその……」
「別にいい。……ごめんなさい」

 言葉に詰まった僕から見えないように顔をそらして、彼女は小さく呟いた。
 その言葉と雰囲気に、僕は余計何も言えなくて、体を彼女の方に向けて頭の上に手を伸ばした。

「その……」
「ふん、ようやく起きおったか」
「あらあら。アキちゃん、大丈夫?」

 俯いたラミナさんを撫でつつ、声を掛けようとした直後、僕の後ろから不機嫌そうな声が聞こえた。
 そして、それに続くようにもう1人……聞き覚えのある声がして……。

「な、なんでここにいるんですか……?」
「はん。ずいぶんな言いぐさじゃのう、助けてやったと言うのに」

 僕が振り返ると、そこには……なぜかリュンさんがいた。
 彼女は街で見かけた時と同じ着物を着ていて、可憐ではあるのだけど……、森に似合わない……。
 そして、その後ろには、やっぱりフェンさんの姿も見える。

「……え?」
「じゃから、助けてやっ「リュン。ありがとう」……ふん、お主が言うてどうする」
「お願いしたの、ラミナ達だから」

 ラミナさんは顔を上げて、リュンさんの方へ目を向けながら、言葉と一緒に少しだけ頭を下げる。
 その言葉に僕は、なぜ2人がここにいるのかが、理解でき……そうでやっぱりできなかった。
 いや、ラミナさん達が2人に助けを求めた、のはわかるんだけど……。

「って、考えてる場合じゃなくて、あの4人は!?」
「殺ったわ」
「そうね。ミーが1人。リュンが2人。あと……」
「姉さん」
「……え?」
「姉さんが1人。でも……」

 そこで言葉を切ると、ラミナさんはまた下を向く。
 そういえば、あの元気な女の子の声がしない。
 彼女の性格なら、僕が起きたのを見て落ち着かないくらいに騒ぎそうなのに……。

「……ラミナさん。ハスタさんは?」

 僕の問いかけに、彼女はゆっくりと顔を上げて……口を開いた。

「姉さん……」

 まっすぐ僕の方を見て、少しずつ言葉を紡ぐ。
 言いづらそうなその様子に、みんな無言で彼女を見つめる。
 雰囲気が……重い……。

「姉さん、は……」
「おっ! アキちゃん起きたー? あっちに大きい熊がいたよー! くま、熊! リュンちゃん、やりにいかない!?」

 重くなった雰囲気を粉々に砕くほどの軽い声が、僕の耳に届く。
 その声の方へ振り返れば、槍を片手に走ってくるハスタさん……。

「……大成功」
「……ラミナさん?」
「ラミナ、何もしてない。悪くない」

 小さく聞こえた声に反応すれば、彼女は顔の前で両手を振りはじめた。
 おかしいなぁ……僕、特に怒ってないんだけどなぁ……。

「……ごめんなさい。許してください……」

 怒ってないよ、と笑った僕の顔を見た瞬間、ラミナさんは地面に頭を付ける勢いで、土下座と謝罪を始めた。
 まさかの逆効果だったらしい……。

「……そろそろミーの話をしてもいいかしら?」
「あ、はい」
「ふん。フェン、説明は任す。儂はこやつと、熊をやってくるわ」
「おー! リュンちゃんとなら負けないね! ドスッとやっちゃうよー!」
「2人とも気をつけてね。……フェンさんお願いします」
「えぇ……。それじゃ、話すわねぇ」

 槍を持って突撃していくハスタさんの後ろを、無骨な大斧を2つ持ったリュンさんが、ゆったりと追っていく。
 そんな2人を目だけで見送った後、僕はフェンさんへと目を合わせた。
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