110 / 345
第2章 現実と仮想現実
第111話 お礼と勧誘
しおりを挟む
カランと軽い鐘の音を鳴らしながら、お店の中に入る。
ゆったりとした空気に、少し混ざるハーブの香り……街の東側にあるオリオンさんのお店Auroraだ。
お店の中に入って店内を見まわせば、数人のお客さんが見える。
そんな中に混ざって、青い髪の人が見えた。
これは少し待たせちゃったかなぁ……。
「すいません。お待たせしました」
声をかけながらその人が座るカウンターの隣に腰掛ければ、その人はゆっくりとこっちを向いて笑顔を返してくれる。
そのたびに、長い髪が動き、その綺麗さに少しだけ目を奪われてしまった。
「いえいえ、オリオンさんとお話をしていましたので、全然大丈夫ですよ」
「すみません、カナエさん……。オリオンさんも、わざわざ営業中に……」
「いえ、私も構いません。アキさんから何かお話をしたいということでしたので、こちらの方こそわざわざお店まで来ていただいて……」
なんだか3人が3人とも頭を下げる、変な状態になってしまった……。
とりあえず、話を戻さないと……。
「あ、えーっと……。ひとまず何か飲み物をいただいても良いですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。前回と同じ、アルペティーにしましょうか」
「あ、はい。それでお願いします」
場所を借りてるんだし、何か注文くらいはしないと……。
そんな僕の気持ちも分かっているのか、オリオンさんは優しく微笑んで、お店の奥に入っていった。
「アキさんは、あの……お薬は完成しましたか?」
「あ、はい! おかげさまで上手くいきました!」
「わぁ、それは良かったです!」
自分の事みたいに喜んでくれるカナエさんに、成功して良かった、と改めて思う。
今回の件は、僕とシルフだけだったらきっとたどり着けなかったから。
「カナエさんやオリオンさんが教えてくれたから出来たんですよ」
「そんなことないですよー。それは、アキさんが頑張ってたから、出来たんですよ」
「ええ、そうですね。私たちは少しばかり知恵をお貸ししただけです。……お待たせしました、アルペティーになります。熱いのでお気を付けください」
「あ、はい……。ありがとうございます」
オリオンさんからアルペティーを受け取り、少しだけ香りを楽しむ。
湯気と一緒に出ているからか、アルペの香りが普通に実を切ったときより強く感じられた。
少し息を当てて冷ましたあと、ゆっくり口の中に含めば、アルペ特有のさっぱりとした甘さが口の中に広がる。
楽しむようにゆっくりと飲み込むと、その優しい味が体中に広がっていくような、そんな不思議な感覚を覚えた。
「んー、甘くて美味しいです」
カウンターの中で椅子に座り、静かに紅茶を飲むオリオンさんは、僕の感想に満足したのか嬉しそうに顔をほころばせる。
アルさんよりも少しだけ年上に見えるオリオンさんだけど、笑うとなんだか幼くも見えた。
「それで、アキさん。本日はどのようなご用件でしたか?」
各々がのんびりと紅茶を飲むだけの、穏やかな時間を過ごしていると、オリオンさんが唐突に口を開く。
その声で思い出したのか、カナエさんもカップをお皿の上に置き、僕の方へと身体を向けた。
「あ、えっとですね……。おふたりは今度のイベントはどうされるのかな、と」
「イベント……、イベントって今度の週末でした?」
「それに本日から新規の方がログイン開始でしたね。確か時間的にはそろそろのはずですが……」
オリオンさんの言葉につられて時間を確認すれば、現実時間ではもうすぐ17時。
予定では17時からキャラメイク開始で、17時半から順次ログイン開始だったはず。
となると、ログイン開始直後は広場の辺りが混雑するはず……。
んー……、それまでにおばちゃんの雑貨屋に戻っておきたいなぁ……。
「カナエさんの言う通り、週末のイベントの件なんですけど。おふたりは参加されるのかなーって」
「私は特に考えてなかったですね。参加するとしても固定パーティーに所属しているわけではないので、1人で参加になりそうです」
「その点は私もカナエさんと同じです。ただ1人であれば参加せず、お店を開けておこうかと」
「なるほど……」
2人とも特に予定がなさそうなら、誘ってみても大丈夫そうかな?
カナエさんはアルさんとトーマ君の2人が顔見知りだけど……、オリオンさんは……。
「あのですね……。おふたりが良ければなんですが……。もし良ければ一緒に参加しませんか?」
「アキさんと、ですか?」
「えぇ、と言っても他にもメンバーがいるので、それでも良ければ……ですが」
「なるほど……。失礼ですが、どのような方がおられるのでしょうか?」
オリオンさんの質問に、僕は指を折りながら説明していく。
もちろん、すごく簡単な説明も加えながら。
「という風に、アルさんの固定パーティーに、服飾系生産プレイヤーのキャロさんを加えたチームと……」
「アキさんをリーダーに、ソロプレイヤーを一緒にしたパーティー、という訳ですか」
「ぁ、はい。オリオンさんの言うとおりです」
「私としては特に問題は無いのですが……、オリオンさんはどうですか?」
カナエさんの言葉に、オリオンさんは少し考えるような仕草を見せる。
技術に対する警戒心が強いオリオンさんのことだから、きっとそのメンバーが信頼に当たるメンバーなのかどうかで悩んでいるのかもしれない。
ただ、こればっかりは僕がなんて伝えても、信じてもらえるかわからないし……。
「オリオンさん、あの……出来れば一緒に参加したいです」
だから僕は、ただ率直に想いを伝えた。
多分、これが一番いいはずだから……。
「ふむ……。分かりました」
「え、えっと……?」
「アキさんと一緒に参加しましょう。この世界での初めてのイベントですからね」
そう言って、オリオンさんは手に持ったカップを口へと運んだ。
ゆったりとした空気に、少し混ざるハーブの香り……街の東側にあるオリオンさんのお店Auroraだ。
お店の中に入って店内を見まわせば、数人のお客さんが見える。
そんな中に混ざって、青い髪の人が見えた。
これは少し待たせちゃったかなぁ……。
「すいません。お待たせしました」
声をかけながらその人が座るカウンターの隣に腰掛ければ、その人はゆっくりとこっちを向いて笑顔を返してくれる。
そのたびに、長い髪が動き、その綺麗さに少しだけ目を奪われてしまった。
「いえいえ、オリオンさんとお話をしていましたので、全然大丈夫ですよ」
「すみません、カナエさん……。オリオンさんも、わざわざ営業中に……」
「いえ、私も構いません。アキさんから何かお話をしたいということでしたので、こちらの方こそわざわざお店まで来ていただいて……」
なんだか3人が3人とも頭を下げる、変な状態になってしまった……。
とりあえず、話を戻さないと……。
「あ、えーっと……。ひとまず何か飲み物をいただいても良いですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。前回と同じ、アルペティーにしましょうか」
「あ、はい。それでお願いします」
場所を借りてるんだし、何か注文くらいはしないと……。
そんな僕の気持ちも分かっているのか、オリオンさんは優しく微笑んで、お店の奥に入っていった。
「アキさんは、あの……お薬は完成しましたか?」
「あ、はい! おかげさまで上手くいきました!」
「わぁ、それは良かったです!」
自分の事みたいに喜んでくれるカナエさんに、成功して良かった、と改めて思う。
今回の件は、僕とシルフだけだったらきっとたどり着けなかったから。
「カナエさんやオリオンさんが教えてくれたから出来たんですよ」
「そんなことないですよー。それは、アキさんが頑張ってたから、出来たんですよ」
「ええ、そうですね。私たちは少しばかり知恵をお貸ししただけです。……お待たせしました、アルペティーになります。熱いのでお気を付けください」
「あ、はい……。ありがとうございます」
オリオンさんからアルペティーを受け取り、少しだけ香りを楽しむ。
湯気と一緒に出ているからか、アルペの香りが普通に実を切ったときより強く感じられた。
少し息を当てて冷ましたあと、ゆっくり口の中に含めば、アルペ特有のさっぱりとした甘さが口の中に広がる。
楽しむようにゆっくりと飲み込むと、その優しい味が体中に広がっていくような、そんな不思議な感覚を覚えた。
「んー、甘くて美味しいです」
カウンターの中で椅子に座り、静かに紅茶を飲むオリオンさんは、僕の感想に満足したのか嬉しそうに顔をほころばせる。
アルさんよりも少しだけ年上に見えるオリオンさんだけど、笑うとなんだか幼くも見えた。
「それで、アキさん。本日はどのようなご用件でしたか?」
各々がのんびりと紅茶を飲むだけの、穏やかな時間を過ごしていると、オリオンさんが唐突に口を開く。
その声で思い出したのか、カナエさんもカップをお皿の上に置き、僕の方へと身体を向けた。
「あ、えっとですね……。おふたりは今度のイベントはどうされるのかな、と」
「イベント……、イベントって今度の週末でした?」
「それに本日から新規の方がログイン開始でしたね。確か時間的にはそろそろのはずですが……」
オリオンさんの言葉につられて時間を確認すれば、現実時間ではもうすぐ17時。
予定では17時からキャラメイク開始で、17時半から順次ログイン開始だったはず。
となると、ログイン開始直後は広場の辺りが混雑するはず……。
んー……、それまでにおばちゃんの雑貨屋に戻っておきたいなぁ……。
「カナエさんの言う通り、週末のイベントの件なんですけど。おふたりは参加されるのかなーって」
「私は特に考えてなかったですね。参加するとしても固定パーティーに所属しているわけではないので、1人で参加になりそうです」
「その点は私もカナエさんと同じです。ただ1人であれば参加せず、お店を開けておこうかと」
「なるほど……」
2人とも特に予定がなさそうなら、誘ってみても大丈夫そうかな?
カナエさんはアルさんとトーマ君の2人が顔見知りだけど……、オリオンさんは……。
「あのですね……。おふたりが良ければなんですが……。もし良ければ一緒に参加しませんか?」
「アキさんと、ですか?」
「えぇ、と言っても他にもメンバーがいるので、それでも良ければ……ですが」
「なるほど……。失礼ですが、どのような方がおられるのでしょうか?」
オリオンさんの質問に、僕は指を折りながら説明していく。
もちろん、すごく簡単な説明も加えながら。
「という風に、アルさんの固定パーティーに、服飾系生産プレイヤーのキャロさんを加えたチームと……」
「アキさんをリーダーに、ソロプレイヤーを一緒にしたパーティー、という訳ですか」
「ぁ、はい。オリオンさんの言うとおりです」
「私としては特に問題は無いのですが……、オリオンさんはどうですか?」
カナエさんの言葉に、オリオンさんは少し考えるような仕草を見せる。
技術に対する警戒心が強いオリオンさんのことだから、きっとそのメンバーが信頼に当たるメンバーなのかどうかで悩んでいるのかもしれない。
ただ、こればっかりは僕がなんて伝えても、信じてもらえるかわからないし……。
「オリオンさん、あの……出来れば一緒に参加したいです」
だから僕は、ただ率直に想いを伝えた。
多分、これが一番いいはずだから……。
「ふむ……。分かりました」
「え、えっと……?」
「アキさんと一緒に参加しましょう。この世界での初めてのイベントですからね」
そう言って、オリオンさんは手に持ったカップを口へと運んだ。
0
お気に入りに追加
1,627
あなたにおすすめの小説
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
生産職から始まる初めてのVRMMO
結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。
そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。
そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。
そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。
最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。
最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。
そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
けもみみ幼女、始めました。
暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。
*旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。
チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!
しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。
βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。
そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。
そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する!
※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。
※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください!
※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです
こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。
大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。
生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す!
更新頻度は不定期です。
思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる