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第2章 現実と仮想現実
第108話 ありえた可能性
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「それでトーマ君、なんでスミスさんを僕に?」
あの後、空気を感じ取ってくれたのか、トーマ君がとりなしてくれたおかげで、僕とスミスさんの関係は見た目上は普通になった。
というか、普通になっていて欲しい……。
まぁ、そんなこんなで工房から場所を移し、今はあの兎肉を出してくれる食堂に来ている。
「ん? あぁ、まあ……ほら、今度のイベントにやな?」
「イベント? そういえば聞こうと思ってたんだけど、トーマ君は参加する予定なの?」
問いかけつつ、こんがりと焼かれた兎の肉へかぶりいた。
少し焦げ目がつく程度にパリッと焼けた表面を破れば、ジューシーな肉汁があふれ出てくる。
それを少しでも堪能するように、大きく噛み千切り、咀嚼していく。
ちょっと行儀は悪いけど……、いいよね?
周りを見ても、みんな同じような食べ方してるし……。
「俺は一応参加する気やで。つーてもこいつと一緒に組む予定やけど」
「スミスさんと?」
「えぇ、俺だけじゃ戦闘になった時に心許ないんで、トーマに手伝って貰おうかと。アキさんも一緒にどうですか?」
トーマ君の説明をスミスさんが引きつぎ、さらに僕を誘ってくれる。
嬉しいんだけど、その……先約があるから……。
「えっと、僕はアルさんのパーティーメンバーの方に一緒にやろうって誘われてるんだけど……」
「あぁ、ジンから聞いたぞ。俺としては別に構わない」
僕がアルさんに視線を送ると、それに気づいてくれたアルさんが言葉を引きついでくれる。
ジンさん……、ちゃんと伝えておいてくれたんだ……。
「ただ、もしトーマ達が良ければなんだが……。同盟を組まないか?」
「あ、そういえばジンさんがそっちでも良いよって言ってましたね」
「あぁ。同盟なら合計で10人まで一緒にイベントに参加できるからな。俺のパーティーが俺含めて4人、アキさん、トーマ、それにスミスさんを含めても7人だ」
アルさんがみんなにわかりやすく、指を折りながら数えてくれる。
トーマ君もスミスさんも、数に含まれるのを特に気にしてないってことは、一緒で良いってことなんだろう。
「ほぅ……そんなら、あと3人までいけるってことやな? 他に誘いたいやつ、誰かおるか?」
多分このメンバーで一番顔が広いのはトーマ君。
けど、その彼がこうやって振ってくるってことは、彼は特にいないってことなんだろうな……。
「スミスさんは誰かいます?」
「いえ、俺は特に。基本的に工房に籠もってばっかりで、そんなに知り合いがいないんですよ」
「ま、やから今回は俺がサポートしたろうかと思ってな」
「なるほど……」
確かに……。
僕も、初めてログインした日にアルさんが話しかけてくれなかったら、ジンさんやリアさん、ティキさんとは出会ってなかっただろうし……。
トーマ君に関しても、兎の時に話しかけてくれなかったら……。
こうやって考えると、僕から話しかけた人っていないんじゃないかな?
シルフだってシルフからアプローチがあったわけだし……。
「あれ? そういう事なら、トーマ君とスミスさんは何で知り合いになったの?」
「あー……、それは……何と言いますか……」
「また今度話すわ。それで、アキは誰かおらんのか? 誘いたいやつ」
む、これは誤魔化されたぞ……。
でもまぁ、今度教えてくれるって事だし、気にしなくていいかな。
「僕は何人か……。カナエさんとキャロさんと……、あとオリオンさんって人かな?」
「ふむ、それでちょうど10人だな……。キャロさんは、キャロラインさんか?」
「あ、ですです」
「なら、彼女はこっちで誘おう。リアにでも頼んでみるよ」
そっか……、リアさんに教えてもらった人だし、アルさんが知っててもおかしくないよね。
それなら、僕の方でカナエさんとオリオンさんかな?
「カナエさんと、オリオンさんはちょうどお伝えしたい事もあったので、僕が誘ってみてもいいですか?」
「あぁ、頼む。それで誘い終わったらまた連絡をくれ。そのときに同盟の設定をしようか」
あれ?
それって僕がもう一つのパーティーのリーダーをやるってこと?
さすがにそれは……。
「えっと……、トーマ君……あの」
「アキなら大丈夫やろ。任せるわー」
「え、えぇ……」
「ということは、俺もアキさんのパーティーに入れば良いと言うことですね! アキさん、よろしくお願いします!」
「ちょ、スミスさんまで! まって、僕リーダーなんて!」
うろたえる僕に、トーマ君は意地悪そうな笑みを見せ、フォークを置いて席を立つ。
気付いてお皿を見てみれば、すでに食べ終わってたみたいだ。
「んじゃ、俺はこの後いくところあっから」
「ぇ、ちょっと! トーマ君!?」
「勘定は置いとるから。そんじゃ、またパーティー組む時はよろしゅう!」
有無を言わさない流れでするりと、店の中を抜けていく。
それから数秒もしないうちに、僕の視界から彼の姿は消えてしまっていた。
「あいつは相変わらずだな……」
「はぁ……。トーマ君らしいと言えばトーマ君らしいんですけどね……」
「あはは……」
スミスさんの乾いた笑いを聞いていれば、彼も同意見なのがよく分かった。
仕方ない……、半ばムリヤリだけど、リーダー……やってみるかなぁ……。
あの後、空気を感じ取ってくれたのか、トーマ君がとりなしてくれたおかげで、僕とスミスさんの関係は見た目上は普通になった。
というか、普通になっていて欲しい……。
まぁ、そんなこんなで工房から場所を移し、今はあの兎肉を出してくれる食堂に来ている。
「ん? あぁ、まあ……ほら、今度のイベントにやな?」
「イベント? そういえば聞こうと思ってたんだけど、トーマ君は参加する予定なの?」
問いかけつつ、こんがりと焼かれた兎の肉へかぶりいた。
少し焦げ目がつく程度にパリッと焼けた表面を破れば、ジューシーな肉汁があふれ出てくる。
それを少しでも堪能するように、大きく噛み千切り、咀嚼していく。
ちょっと行儀は悪いけど……、いいよね?
周りを見ても、みんな同じような食べ方してるし……。
「俺は一応参加する気やで。つーてもこいつと一緒に組む予定やけど」
「スミスさんと?」
「えぇ、俺だけじゃ戦闘になった時に心許ないんで、トーマに手伝って貰おうかと。アキさんも一緒にどうですか?」
トーマ君の説明をスミスさんが引きつぎ、さらに僕を誘ってくれる。
嬉しいんだけど、その……先約があるから……。
「えっと、僕はアルさんのパーティーメンバーの方に一緒にやろうって誘われてるんだけど……」
「あぁ、ジンから聞いたぞ。俺としては別に構わない」
僕がアルさんに視線を送ると、それに気づいてくれたアルさんが言葉を引きついでくれる。
ジンさん……、ちゃんと伝えておいてくれたんだ……。
「ただ、もしトーマ達が良ければなんだが……。同盟を組まないか?」
「あ、そういえばジンさんがそっちでも良いよって言ってましたね」
「あぁ。同盟なら合計で10人まで一緒にイベントに参加できるからな。俺のパーティーが俺含めて4人、アキさん、トーマ、それにスミスさんを含めても7人だ」
アルさんがみんなにわかりやすく、指を折りながら数えてくれる。
トーマ君もスミスさんも、数に含まれるのを特に気にしてないってことは、一緒で良いってことなんだろう。
「ほぅ……そんなら、あと3人までいけるってことやな? 他に誘いたいやつ、誰かおるか?」
多分このメンバーで一番顔が広いのはトーマ君。
けど、その彼がこうやって振ってくるってことは、彼は特にいないってことなんだろうな……。
「スミスさんは誰かいます?」
「いえ、俺は特に。基本的に工房に籠もってばっかりで、そんなに知り合いがいないんですよ」
「ま、やから今回は俺がサポートしたろうかと思ってな」
「なるほど……」
確かに……。
僕も、初めてログインした日にアルさんが話しかけてくれなかったら、ジンさんやリアさん、ティキさんとは出会ってなかっただろうし……。
トーマ君に関しても、兎の時に話しかけてくれなかったら……。
こうやって考えると、僕から話しかけた人っていないんじゃないかな?
シルフだってシルフからアプローチがあったわけだし……。
「あれ? そういう事なら、トーマ君とスミスさんは何で知り合いになったの?」
「あー……、それは……何と言いますか……」
「また今度話すわ。それで、アキは誰かおらんのか? 誘いたいやつ」
む、これは誤魔化されたぞ……。
でもまぁ、今度教えてくれるって事だし、気にしなくていいかな。
「僕は何人か……。カナエさんとキャロさんと……、あとオリオンさんって人かな?」
「ふむ、それでちょうど10人だな……。キャロさんは、キャロラインさんか?」
「あ、ですです」
「なら、彼女はこっちで誘おう。リアにでも頼んでみるよ」
そっか……、リアさんに教えてもらった人だし、アルさんが知っててもおかしくないよね。
それなら、僕の方でカナエさんとオリオンさんかな?
「カナエさんと、オリオンさんはちょうどお伝えしたい事もあったので、僕が誘ってみてもいいですか?」
「あぁ、頼む。それで誘い終わったらまた連絡をくれ。そのときに同盟の設定をしようか」
あれ?
それって僕がもう一つのパーティーのリーダーをやるってこと?
さすがにそれは……。
「えっと……、トーマ君……あの」
「アキなら大丈夫やろ。任せるわー」
「え、えぇ……」
「ということは、俺もアキさんのパーティーに入れば良いと言うことですね! アキさん、よろしくお願いします!」
「ちょ、スミスさんまで! まって、僕リーダーなんて!」
うろたえる僕に、トーマ君は意地悪そうな笑みを見せ、フォークを置いて席を立つ。
気付いてお皿を見てみれば、すでに食べ終わってたみたいだ。
「んじゃ、俺はこの後いくところあっから」
「ぇ、ちょっと! トーマ君!?」
「勘定は置いとるから。そんじゃ、またパーティー組む時はよろしゅう!」
有無を言わさない流れでするりと、店の中を抜けていく。
それから数秒もしないうちに、僕の視界から彼の姿は消えてしまっていた。
「あいつは相変わらずだな……」
「はぁ……。トーマ君らしいと言えばトーマ君らしいんですけどね……」
「あはは……」
スミスさんの乾いた笑いを聞いていれば、彼も同意見なのがよく分かった。
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