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第2章 現実と仮想現実

第107話 職人と見習い

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 あれからいろいろと話し合ったり、サンプルを振ったりして、草刈鎌の刃の大きさや木槌の重さを決めた。
 こっちの世界での僕の体は、本来の僕よりひとまわり以上小さい。
 だから、コツをつかめていたとしても、道具が合っていなければ無意識的に余計な力が入ってしまい、道具本来の力が出せないらしい。
 というか、体が違うっていうのを説明していないのに、見ただけで日々の癖が分かっちゃうなんて……。
 これが積み重ねてきた経験の力なんだ……。

「ふむ、そんくらいが良さそうじゃな」
「ほんと、です……か……?」

 ぜぇはぁと肩で息をしながら、道具を置いて壁に寄りかかる。
 本気なのはわかるんだけど、まさか休みなしで一時間以上道具を振ることになるとは……。
 ただその甲斐あってか、ちょうどいい重さやサイズで作ってもらえそうだ。

「こんくらいの大きさなら、アルの取ってきた素材の余りで作れそうじゃが……」
「あぁ、使ってくれて構わない。どうせ俺の武器に使った後はガラッドさんに渡すか、売るくらいの予定しかなかったからな」
「えっと……アルさん、良いんですか?」
「あぁ、構わない。その分、イロを付けてくれれば」

 アルさんは僕の方を見て、いつもと少し違う……にやりとした顔で笑った。
 なるほど、そういうことなら。

「じゃあ、依頼を受けていた苦くないポーションの数を少し多めに」
「よし、それで手を打とう」
「ひとまずイベントまでにはある程度渡しますね」
「あぁ、頼む」

 アルさんと目を合わせて、右手でがっちりと握手をする。
 まぁ、森への採取とかでお世話になったし、元々少し多めに渡すつもりだったんだけどね?

「話がついたようじゃな。アルもアキさんも、完成には3日ほど待ってくれ。そんくらいすりゃ良いもん渡せるじゃろう」

 僕らを見てそう言うガラッドさんに、僕もアルさんもそれぞれに返事をして頷いた。
 それを見た彼は満足げに笑い、奥の扉へと歩いて行く。
 その背中が頼もしく見えて……、まるで『任せておけ』と書いてあるみたいだった。
 だからこそ、いつか僕もガラッドさんのように『頼れる存在になりたい』と強く思った。



「すまんな。時間割いてもろて」
「いや、構わない」
「僕も予定なかったし大丈夫だよ。それにトーマ君からお願いされるのってあんまりないしね」

「そういやそうやな」と笑いながら、トーマ君が隣の人に視線を送る。
そんな彼の視線を追いかけるように、僕も隣の人へ顔を向けた。

「……えっと?」
「こいつはスミス。名前通りの鍛冶系プレイヤーや」
「ほう、鍛冶系のプレイヤーは珍しいな。兼任ならよく聞くが……」
「こいつは、ゲーム開始から鍛冶をメインにやってるちょっとした変わり者やで」
「へー……」
「……」

 まるで、鍛冶版の僕みたいなプレイだ。
 しかし、僕らがそんな話をしていても、スミスという名の彼は僕の方を見たまま全く動かない。

「……トーマくん。名前教えてくれてから結構経つけど、スミスさん大丈夫なの……?」
「んー、こんなん俺も初めてやなぁ」
「……トーマ」
「あん? やっと動きやがったか」
「あぁ、ちょっと衝撃を感じてな……」
「衝撃て……、なんや?」
「その……誰だ。この、とても可愛らしいお嬢さんは!」

 ……、はい!?
 いきなり動き出したかと思ったら、いきなり何言ってるんですか!?
 突然そんなことを言い出したスミスさんに、僕は驚くことしかできない。
 けれど、アルさんは彼の言葉が面白かったのか、僕の隣で口を押さえながら笑っていた。

「へー……お前、あいつみたいなんがタイプなんか?」

 トーマ君はトーマ君で、意地悪げな顔をしながらスミスさんに話しかける。
 というか、さっきまで固まってた原因ってそれなの!?

「あぁ……! あの可愛らしい顔に、薄紅の髪……! それにそんなに大きくない胸もいいな!」

 ……なんだろう、微妙にイラッとした気がする。
 いや、別に……胸がどうのってそんなのは別に気にしてないし……。

(アキ様、これからですよ!)
(べ、別にそんなものいらないから!)

「それを本人の前で言うなや……。まぁ、アキ。どうも、そうらしいぜ?」
「えぇー……」
「アキさんと言うのですね! 俺はスミス、しがない鍛冶職人見習いですが、よろしければよろしくしていただければ!」

 彼は僕の前で片膝を地面に付け、まるで物語の騎士のように僕の手を取った。
 その瞬間、僕の背中に寒気が走り、咄嗟に取られた手を払い、後ずさる。

「あっ、すいません」
「いえ、いきなり女性の手を取っちゃダメですね。すみません」
「あ、えっとー……」

 僕はアバターは女だけど、実際は男だし……。
 でもそれを他の人には言うなって、以前トーマ君にも言われてるし……。

 そんなことを考えてるとはつゆ知らず、手を払われたというのに気にしたそぶりも見せず笑いかけてくるスミスさん。
 僕はそんな彼に対して、引きつったような苦笑いを浮かべることしかできなかった。
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