91 / 345
第2章 現実と仮想現実
第92話 露店街
しおりを挟む
おばちゃんが教えてくれたのは、種のような黒っぽい小さな実。
ルコという名前の花が付ける実で、僕がやりたいことに使える実らしい。
なんでも、潰してから水に浸すと、水の中に成分が出るみたい。
「普段から露店には並んでるって、おばちゃんは言ってたけど……」
どうも、こっちの世界の人はよく使うみたいで、大体のお家には常備してるほどらしい。
もちろんおばちゃんの雑貨屋にも置いてはいたんだけど、在庫が心許なくて……。
「んー、でも見当たらないなぁ……」
「おや、アキさん。おはようございます」
「ぁ、オリオンさん。おはようございます!」
流すように露店を見ていると、僕の進行方向からオリオンさんが歩いてくる。
その姿は、黒いスーツに白いシャツ、荒めにオールバックにされた鈍い銀髪と、お店で見た時とまったく変わっていない。
……もしかすると、基本的に服はその服しかないのかもしれない……?
「アキさんも何かお探しですか?」
「あ、はい。ルコの花の実なんですが……」
「あぁ、なるほど……。そちらでしたら、いくつか置いているお店がありましたので大丈夫かと」
「そうなんですね! ありがとうございます!」
「いえいえ。お礼を言われるほどのことはしてませんよ」
「そうですが……」
「っとと……。人が多いので、申し訳ございませんがお先に失礼しますね」
「はい。またお店に行かせてもらいますね!」
「えぇ、お待ちしております。それでは」
軽く会釈を交わしながら、すれ違うように歩き出す。
ふと後ろを振り向けば、行き交う人の中にオリオンさんは紛れてしまっていて、すでに見えなくなっていた。
あの服装と髪型なら、結構目立ちそうな気がしたんだけど……。
まぁ、いいか、と気持ちを切り替えて、再度立ち並ぶ露店へと目を運ぶ。
けれど、やっぱりというべきか、ルコの実はまったく見つからない……。
知らないモノはいっぱいあるんだけど……、目的のモノが見つからない……。
「んー……。オリオンさんはあるって言ってたし、もっと先にあるのかなぁ……」
先にあるなら、シルフが見つけてくれるだろうし……。
僕は僕で、しっかり見ておかないと……。
「あれ、お嬢ちゃん。今日も買い物?」
聞き覚えのある声に頭を上げて、お店の向こうを見れば、見覚えのある顔。
というか、アルペを売ってくれたお店のお姉さんがそこにいた。
「えっと、その……。探し物というか……」
「そうなの? なにを探してるの?」
「ルコの花の実なんですけど……」
「あー、それならうちじゃ扱ってないけど、出してるお店いっぱいあるから大丈夫だよ」
「さっき、知り合いの人にも、同じこと言われました」
扱ってないのは見てたからわかるんだけど、オリオンさんとほとんど同じことを言ってて、少し笑ってしまう。
「そっかー……。そういえば、この間買ってくれたやつ、どうだった?」
「美味しかったです! 搾って果汁を飲み物みたいにしましたけど、甘くて美味しかったです」
「そっかそっか。また入り用な時は、是非ごひいきに……ね?」
「はい! その時はよろしくおねがいします!」
笑いながら話すお姉さんに頭を下げて、露店から離れる。
すると、さすがと言うべきか、少し離れてからお姉さんの方を見れば、忙しそうに次のお客さんの相手をしていた。
ただ、お姉さんと話をした人がみんな笑顔になっていくのは、なんだか魔法みたい……。
(アキ様、見つけました!)
お姉さんを見ながらそんなことを考えていると、突然、脳内に声が響く。
驚いて思わず出てしまいそうになる声を抑えつつ、シルフに返事を返した。
(露店の列の、真ん中より先ですね。今も他のところを確認してますが、数か所あるみたいです)
(値段はどこも変わらない?)
(大きくは変わらないのですが、少しずつの差はありそうです。品質とかはわからないのですが……)
(なるほど……)
多分どこで買っても、違いはあんまりないと思うけど……。
でも、変に悪いのとか混ざってるのも嫌だしなぁ……。
(値段が平均的なところで買おっか。どこかわかる?)
(あ、はい! もう少しで全て見終わりますので、分かるかと)
(ん、ありがとう。僕もそっちの方に向かうから、終わったら合流しよっか)
(わかりました!)
すれ違う人にぶつからないように気を付けつつ、少しだけ歩幅を大きくして、先へ急ぐ。
シルフと合流したのは、それから数分後のことだった。
ルコという名前の花が付ける実で、僕がやりたいことに使える実らしい。
なんでも、潰してから水に浸すと、水の中に成分が出るみたい。
「普段から露店には並んでるって、おばちゃんは言ってたけど……」
どうも、こっちの世界の人はよく使うみたいで、大体のお家には常備してるほどらしい。
もちろんおばちゃんの雑貨屋にも置いてはいたんだけど、在庫が心許なくて……。
「んー、でも見当たらないなぁ……」
「おや、アキさん。おはようございます」
「ぁ、オリオンさん。おはようございます!」
流すように露店を見ていると、僕の進行方向からオリオンさんが歩いてくる。
その姿は、黒いスーツに白いシャツ、荒めにオールバックにされた鈍い銀髪と、お店で見た時とまったく変わっていない。
……もしかすると、基本的に服はその服しかないのかもしれない……?
「アキさんも何かお探しですか?」
「あ、はい。ルコの花の実なんですが……」
「あぁ、なるほど……。そちらでしたら、いくつか置いているお店がありましたので大丈夫かと」
「そうなんですね! ありがとうございます!」
「いえいえ。お礼を言われるほどのことはしてませんよ」
「そうですが……」
「っとと……。人が多いので、申し訳ございませんがお先に失礼しますね」
「はい。またお店に行かせてもらいますね!」
「えぇ、お待ちしております。それでは」
軽く会釈を交わしながら、すれ違うように歩き出す。
ふと後ろを振り向けば、行き交う人の中にオリオンさんは紛れてしまっていて、すでに見えなくなっていた。
あの服装と髪型なら、結構目立ちそうな気がしたんだけど……。
まぁ、いいか、と気持ちを切り替えて、再度立ち並ぶ露店へと目を運ぶ。
けれど、やっぱりというべきか、ルコの実はまったく見つからない……。
知らないモノはいっぱいあるんだけど……、目的のモノが見つからない……。
「んー……。オリオンさんはあるって言ってたし、もっと先にあるのかなぁ……」
先にあるなら、シルフが見つけてくれるだろうし……。
僕は僕で、しっかり見ておかないと……。
「あれ、お嬢ちゃん。今日も買い物?」
聞き覚えのある声に頭を上げて、お店の向こうを見れば、見覚えのある顔。
というか、アルペを売ってくれたお店のお姉さんがそこにいた。
「えっと、その……。探し物というか……」
「そうなの? なにを探してるの?」
「ルコの花の実なんですけど……」
「あー、それならうちじゃ扱ってないけど、出してるお店いっぱいあるから大丈夫だよ」
「さっき、知り合いの人にも、同じこと言われました」
扱ってないのは見てたからわかるんだけど、オリオンさんとほとんど同じことを言ってて、少し笑ってしまう。
「そっかー……。そういえば、この間買ってくれたやつ、どうだった?」
「美味しかったです! 搾って果汁を飲み物みたいにしましたけど、甘くて美味しかったです」
「そっかそっか。また入り用な時は、是非ごひいきに……ね?」
「はい! その時はよろしくおねがいします!」
笑いながら話すお姉さんに頭を下げて、露店から離れる。
すると、さすがと言うべきか、少し離れてからお姉さんの方を見れば、忙しそうに次のお客さんの相手をしていた。
ただ、お姉さんと話をした人がみんな笑顔になっていくのは、なんだか魔法みたい……。
(アキ様、見つけました!)
お姉さんを見ながらそんなことを考えていると、突然、脳内に声が響く。
驚いて思わず出てしまいそうになる声を抑えつつ、シルフに返事を返した。
(露店の列の、真ん中より先ですね。今も他のところを確認してますが、数か所あるみたいです)
(値段はどこも変わらない?)
(大きくは変わらないのですが、少しずつの差はありそうです。品質とかはわからないのですが……)
(なるほど……)
多分どこで買っても、違いはあんまりないと思うけど……。
でも、変に悪いのとか混ざってるのも嫌だしなぁ……。
(値段が平均的なところで買おっか。どこかわかる?)
(あ、はい! もう少しで全て見終わりますので、分かるかと)
(ん、ありがとう。僕もそっちの方に向かうから、終わったら合流しよっか)
(わかりました!)
すれ違う人にぶつからないように気を付けつつ、少しだけ歩幅を大きくして、先へ急ぐ。
シルフと合流したのは、それから数分後のことだった。
0
お気に入りに追加
1,629
あなたにおすすめの小説
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。
運極さんが通る
スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。
そして、今日、新作『Live Online』が発売された。
主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
New Life
basi
SF
なろうに掲載したものをカクヨム・アルファポにて掲載しています。改稿バージョンです。
待ちに待ったVRMMO《new life》
自分の行動でステータスの変化するアビリティシステム。追求されるリアリティ。そんなゲームの中の『新しい人生』に惹かれていくユルと仲間たち。
ゲームを進め、ある条件を満たしたために行われたアップデート。しかし、それは一部の人々にゲームを終わらせ、新たな人生を歩ませた。
第二部? むしろ本編? 始まりそうです。
主人公は美少女風美青年?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる