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第2章 現実と仮想現実

第88話 カフェと執事

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 カナエさんと一緒に、東の区画へと並んで歩く。
 街の大通りを抜けていけば、おばちゃんの雑貨屋からはほぼ一直線。
 カナエさんと話ながら、しばらく歩くと、僕の視界からは建物が減り、代わりに耕された田畑が目に付くようになっていった。

「この辺りは、結構好きなんです」

 隣を歩くカナエさんが、唐突にそんなことを口にする。
 横目でカナエさんを見れば、少し目を細めて、慈しむように辺りを見渡していた。
 それに習うように、辺りを見渡せば、何度か見た屋根が見える。
 相変わらず、屋根に鍬が刺さってる意味はわからないけど……。

「なんだか街の喧騒から少し離れて、ゆっくりと過ごせるといいますか……」
「カナエさんは、この辺りによく来るんですか?」
「そう、ですね……。なんだかんだでよく来てるかもしれません」

 そう言って少し笑う。

「ぼ、僕でよければ、いっぱいお話してください!」

 笑顔を見せたカナエさんに、とっさにそう返してしまった。
 きっと笑っていたはずの顔に、どこか寂しさを感じてしまったからだと思う。

「え、えっと……?」
「あ、いえ、あの……。せっかくフレンドになったので、色々お話しできたらなって……」

 カナエさんは、僕の言葉に少し戸惑った顔を見せて、取り繕ったようにぎこちなく笑う。
 だから僕もそれ以上はなにも言えなくて、合わせるように少しだけ笑顔を作った。



「見えてきました。あそこのお店です」

 カナエさんが指差した先を見れば、周りの風景から浮いたような、小さな木造の家が見えた。
 焦げ茶色に見える壁や白い屋根は、何かで塗装でもしてるのかな……?
 屋根の上から伸びる煙突からは、白い煙が立ち上っているのが、少し離れたここからでもよくわかった。

「なんだか小さくて、可愛いお店ですね」
「えぇ、そうなんです。でも、マスターは男性なんですよ?」
「えっ、そうなんですか!?」

 別に男性でもいいんだけど、お店の見た目が可愛らしくておしゃれだったから……。
 近づいていけばいくほどに、カフェとして作られているのがよくわかる。
 お店の横にくっついているテラスには、テーブルやイスも置かれてるし、お店のドアの近くには、立て看板のようなもので、メニューが書いてあったり……。

「えっと、お店の名前が……、あう、ろーら……?」
「あ、それでAuroraオーロラと読むそうですよ」
「これでオーロラって読むんですね……知らなかった……。なんだか、現実の世界のお店みたいですね」
「そうですね……。こっちの世界では、珍しいかもしれませんね」

 そう言いながら、お店のドアを開けて僕を中へと入れてくれる。
 お店の中に入った瞬間、甘い香りが感じられて、全然別の場所に来たみたいだ。

「いい香りですね……。なんだか甘い感じで」
「えぇ、そうなんです。焼き菓子に果物を使っているみたいで、その香りがこうやって出迎えてくれるんですよ」

 ということは、さっき煙突から上がっていた煙は、お菓子を焼いていた煙なのかな?
 すごい本格的だなぁ……。

「いらっしゃいませ」

 店内を眺めていると、お店の奥の方から声が聞こえた。
 その声に少し遅れて、細い男性が姿を見せ、頭を下げる。
 その男性は、鈍い銀髪を少し荒くオールバックにしていて、黒いスーツに白いシャツを着ていた。
 見た感じは、執事っぽい人……かな?

「ぁ、オリオンさん。こんにちは」
「あぁ、カナエさんでしたか。いつもありがとうございます」

 僕がそんな風に、男性……オリオンさんを見ているうちに、二人は軽く挨拶を交わす。
 その後、僕の方を見たオリオンさんの目は右が黒、左が赤と、左右で色の違う輝きをしていた。

「あ、こちらの方はアキさん。私のフレンドの方ですよ」
「ぁ、はい! アキって言います。よろしくお願いします」
「いえいえ、ご丁寧にありがとうございます。オリオンと申します。本日はご来店いただき、ありがとうございます」

 お互いに頭を下げたあと、オリオンさんが背を向け僕らを中へと導いてくれる。
 オリオンさんに続いて店の中へと進むと、広めのカウンターや、丸いテーブルなんかが見えてきた。
 外観は可愛らしい感じだったけど、なかは結構おしゃれで……なんていうか、大人っぽい感じがする。
 僕らは、カウンターの席へと座り、オリオンさんはカウンターの内側に入った。

「さて、今日はどうしましょうか?」
「そうですね……。アキさんは紅茶、飲めますか?」
「ぁ、はい。たぶん、大丈夫です」

 といっても、僕が飲んだことのある紅茶って、市販のペットボトルのやつくらいだ。
 だから、こんなおしゃれなお店で飲んだこともないし、わからないっていうのが正直なところ……。

「他のご注文はいかがなさいますか?」
「そうですね……。本日のおすすめのお菓子を」
「かしこまりました。少々、お待ちください」

 そう言って、オリオンさんはお店の奥に消えていく。
 その歩く姿も綺麗で、一瞬だけ見惚れてしまった。

「オリオンさんのお菓子と紅茶は、とても美味しいんですよ」
「そうなんですね。楽しみです!」
「私もです。今日のお菓子は何か、私もわからないので、楽しみなんですよ」

 それから、二人でどんなお菓子が出てくるか予想しながら、笑いあう。
 そんな僕らの前に、オリオンさんがお菓子と紅茶を持ってきてくれたのは、それから数分後のことだった。
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