上 下
86 / 345
第2章 現実と仮想現実

第87話 成功という失敗

しおりを挟む
「ん……? もしかすると、上書きで消すんじゃなくて……」
「アキ様……?」
「たしか前に……。おばちゃんが、飲みにくいのは悪い部分が出てるからって……」
 
 だとすると、苦みは……、悪い部分なのかな……?
 でも、いったい何をすれば、それが消せるんだろう……。

「んー……、わかんないなぁ……」
「えっと……、アキ様……?」
「ぁ、ごめん。もしかすると、味を足すのは後なんじゃないかなって」
「後、ですか?」
「うん。ただの思い付きでしかないんだけど、薬草の苦みと、アルペの甘みがぶつかり合ってるのかなって」

 飲んでからすぐに、アルペの味はした。
 けど、薬草の味も消えてなかった。
 すごく不味かったけど、アイテムとしては[最下級ポーション(良)]、つまり成功品という扱いになっていたんだ。

「それで、アキ様はなにがわからないのでしょうか?」
「んー……、薬草の苦みの消し方、かなぁ?」
「なるほど……」
「おばちゃんとかには、極力頼らないで頑張りたいんだよね……」

 そう思って、知り合いに詳しそうな人がいないか考えてみたけど、思い付かない……。
 そもそも、調薬とか生産活動をしている知り合いが、あまりいないし……。

「こんにちは。アキさん、おられますか?」

 腕を組みつつ唸っていた僕の耳に、僕を呼ぶ声が聞こえた気がする。
 頭を上げてみても顔は見えない……、聞いたことがある声だった気がするんだけど……。
 気のせいかと思ったけど、お店の方で対応するおばちゃんの声が聞こえて来たから、まだお店の方にいるんだろう。

「誰だろ……?」
(お声は女性でしたけど……)

 見えないように、姿を消したシルフの声が、頭の中に響く。
 それと同時にお店の方から、人が歩くような音が近づいてきた。

「アキさん、おられますか?」
「あ、はい」

 戸を開けて、一人の女性が僕の前に姿を見せる。
 少し会釈をするだけで、ウェーブのかかった青く長い髪が、彼女の顔の回りに流れ落ちた。

「すみません、いきなりの訪問で……」
「大丈夫ですけど……。カナエさん、なにかご用がありました?」
「いえ、もしよろしければご一緒にお菓子でも、と思いまして……」

 お菓子……?
 そう思って、ゲーム内の時間を確認すれば、時間的にはちょうど15時を過ぎた辺り。
 まぁ、これ以上考えてても進まなさそうだし……、ちょっと休憩するのもありかなぁ……?

(アキ様、休憩も大事ですよ)

 まぁ、シルフもそう言ってるし、今日はとりあえず切り上げてしまおうかな!

「わかりました! 片付けますので、ちょっとだけ待っててくださいね!」
「はい、ありがとうございます」

 カナエさんの返事を聞きつつ、使っていた鍋や包丁なんかを水で綺麗に洗っていく。
 そういえば、もし街を出て次の場所にいくとしたら……、設備どうしようかなぁ……。
 今は、おばちゃんが貸してくれてるから、気にしなくていいんだけど……

「よしっと……。お待たせしました」
「いえいえ、急に来た私が悪いですので、気にしないでください。それにしても……」

 カナエさんが、物珍しそうに部屋のなかを見回していく。
 僕はもう慣れてしまったけど、生産しない人からすれば、こんな風に作業場に入ることもないだろうし、なんとなく気持ちはわかるかもしれない。

「なんだか、懐かしいようで……。でも、所々にゲームっぽさが感じられて……。いいですね」
「そう、ですか?」
「えぇ、とても」

 そう言って微笑むカナエさんに、少し首を傾げながら近づいていく。
 たしかお菓子って言ってたけど……?

「えっと……、それで、どこに行くんですか?」
「街の東側って行ったことがありますか?」
「たしか、建物の少ない田畑とかのエリアでしたよね?」
「そうですね。先日、そこの一角に、プレイヤーの喫茶店がオープンしまして……」

 なるほど……、たしかにあのエリアなら土地も空いてるから新しい建物を建てるなら良いのかも。
 でも、人があまり近づかない場所だけど、経営は大丈夫なのかな……?

「とりあえず、東側に向かいます?」
「ですね、お店の場所はわかりますので、ひとまず大通りをまっすぐですね」

 そう言って、カナエさんは入ってきた戸を抜けて、お店の方へと歩き出す。
 僕もシルフと頷きあって、カナエさんの後を追いかけた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~

黄舞
SF
 無数にあるゲームの中でもβ版の完成度、自由度の高さから瞬く間に話題を総ナメにした「インフィニティ・オンライン」。  貧乏学生だった商山人志はゲームの中だけでも大金持ちになることを夢みてネタ職「商人」を選んでしまう。  攻撃スキルはゲーム内通貨を投げつける「銭投げ」だけ。  他の戦闘職のように強力なスキルや生産職のように戦闘に役立つアイテムや武具を作るスキルも無い。  見た目はせっかくゲームだからと選んだもふもふワンコの獣人姿。  これもモンスターと間違えられやすいため、PK回避で選ぶやつは少ない!  そんな中、人志は半ばやけくそ気味にこう言い放った。 「くそっ! 完全に騙された!! もういっその事お前らがバカにした『商人』で天下取ってやんよ!! 金の力を思い知れ!!」 一度完結させて頂きましたが、勝手ながら2章を始めさせていただきました 毎日更新は難しく、最長一週間に一回の更新頻度になると思います また、1章でも試みた、読者参加型の物語としたいと思っています 具体的にはあとがき等で都度告知を行いますので奮ってご参加いただけたらと思います イベントの有無によらず、ゲーム内(物語内)のシステムなどにご指摘を頂けましたら、運営チームの判断により緊急メンテナンスを実施させていただくことも考えています 皆様が楽しんで頂けるゲーム作りに邁進していきますので、変わらぬご愛顧をよろしくお願いしますm(*_ _)m 吉日 運営チーム 大変申し訳ありませんが、諸事情により、キリが一応いいということでここで再度完結にさせていただきます。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

処理中です...