上 下
61 / 345
第1章 新しい世界と出会い

第58話 3人パーティー?

しおりを挟む
 リアさんと買い物に行った日から、1日が経って……今日は森に向かう当日。
 僕はシルフと一緒に、おばちゃんの作業場を借りて、持っていく荷物のチェックをしていた。
 今まではインベントリで良かったんだけど、ウエストポーチに入れる道具を考えないといけないしね。

「えーっと、たしかリアさんが言ってたのは……」

 ウエストポーチには、咄嗟のときに使えるものを入れておく、だったっけ?
 となると、戦闘中とかに使わないといけないものになるから……。

「ポーションと粉末と、あと粉末用の水と……錠剤は小さいから入りそうだし、これも入れておこう」
「思ったよりも入りますね」
「だね。ただ、ポーションも粉末用の水も見た目以上に重いから、入れる量には気を付けないとダメみたいだけど」

 そうして、シルフと一緒に数の調整や、入れ方の確認をしていく。
 なんだかんだで最終的には、<下級ポーション(良)>、<薬草(粉末)>、<回復錠>に加え、即効性を作るための水を入れた瓶も入れておいた。

「ひとまずこれでいいとして、問題は……雨が降るかどうか、かな」
「そうですね」
「まぁでも、降ることを信じて、おばちゃんのお店で雨具を買っていこうか」
「はい!」

 作業場の窓から見える空は、いつもより多少暗く感じる程度。
 トーマ君のスキルを疑ってるわけじゃないけど、こればっかりはちょっとね。
 そんなことを思いながら、シルフに服装を含め全ての最終チェックをお願いする。
 キャロさんのお店みたいに、全身鏡があるわけじゃないから、もしかすると僕には気付かないところで変なところがあるかもしれないし。

「アキ様、大丈夫だと思います」
「そっか。ありがとう」

 初めて着たわけじゃないけど、この新しい装備を着て探索に行くのは初めてだ。
 そんな日が雨っていうのはなんとも言えない気持ちになるけど、こればっかりは元々予定されてたことだし、仕方ないよね。

「よし、それじゃ行こうか!」
「はい!」

 僕の言葉に頷いたシルフを確認してから、僕はおばちゃんのお店へ続く扉を開いた。



「お、アルさん発見」

 待ち合わせ場所に来てみれば、先に到着していたアルさんの姿が目に入る。
 背も高いし、肌も色黒でわかりやすいし、それに大きな武器を背負ってるから、探す方としてはありがたい限り。
 1人で頷きながらも、声をかけようと右手を挙げて、口を開いた。
 その瞬間――

「アルのやつ、よう目立ってわかりやすいな」
「うわっ!? トーマ君!?」
「おはよーさん。少し前からずっとおったで?」
「そ、そうなの!?」

 シルフの方へと視線を向ければ、シルフも気付いてなかったみたいで、驚いた顔を見せていた。
 相変わらずトーマ君は……よくわからないなぁ……。
 こうやって隣りにいると、存在感もあるし、結構目立つ印象もあるんだけど、少し目を離すだけでその存在が消えてしまう。
 まるで……そこにあるのに掴めない、霧みたいな存在。

「しかし、新しい装備やんか。似合ってるで」
「あ、ありがとう」

 僕の装備を見たトーマ君が、照れを全く顔に出すこともなく、そう言ってのける。
 顔色ひとつも変えないなんて、ホント手慣れてるというか……。

「そういえば、トーマ君」
「ん? なんや」
「今日雨が降るって言ってたけど、降りそう?」
「あー……」

 唸るような声を上げつつ、彼は目を細め空を見上げる。
 そして数秒ほど、その姿勢を続けた後、「2時間弱」と呟いた。

「なんでわかるの?」

 何か空が違うのかと思って、僕も見上げてみるけど……少し暗い気がする程度で、時間まではわからない。

「まぁ、対応するスキルと、あとはコツやな」
「コツ?」
「その辺は、まぁ企業秘密や」

 聞き返した僕に対して、彼はおどけるように両手を肩の高さにあげて首を振る。
 それから少しだけ、彼が普段やっていることを教えてくれたけど、やっぱり少し変わってるみたいだ。
 例えば、情報収集の名目で屋根の上にいたりとか、戦うのが面倒でダガーを投げてたら、それなりに投げられるようになったとか。

「うん。やっぱりトーマ君って……少し変?」

 ぼそりと呟いた言葉が聞こえたのか、トーマ君は呆気にとられたような顔を僕に晒した後、口を大きく開いて笑い始めた。
 「そうか、変か! そうやな……!」なんて、ツボに入ったのか、なかなか笑いがおさまらない。
 中々見ることが出来ない姿だけど……僕、そんなに変なこと言ったっけ?

「……来たか。なにやら楽しそうだな」
「アルさん! これは……その、」
「いや、なんでもない。俺とアキの秘密やで。な?」

 笑いすぎて涙が出てきたのか、目尻の涙を指で取りつつ、彼は僕にそう訊いてくる。
 それになんて答えれば良いのか分からなくて、僕はわざとらしく咳をして、話を進めた。

「時間なくなるかもしれないし、パーティー組みましょう!」
「あ、ああ」
「りょーかい」

 無理矢理話を進めた僕に、2人は頷いてくれる。
 その流れを止めないように、僕はすぐさまパーティーの申請を送った。
 ……そういえば何気に初めて僕からパーティーに誘った気がするなぁ。
 いつもはアルさんが申請を出してくれるし。

「そんじゃ、遅くなる前に行こか」
「うん。出来れば降り出す前に森にはついてたいしね」

 言いながら2人にポーションなんかのセットを渡していく。
 アルさんにはそのついでに、さっきトーマ君から聞いた、雨の降り出す予想時間も伝えておいたので、問題はないだろう。
 そうして準備のできた僕らは、3人揃って門をくぐった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

処理中です...