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第1章 新しい世界と出会い

第56話 作る人と使う人

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「り、リアさん……」

 更衣室の扉を開き、扉の前でリアさんを呼ぶ。
 しかし、不思議なほど感じる恥ずかしさに……さっきまで着ていたワンピースで体を隠すように壁を作ってしまう。
 けれどリアさんはそんな僕の抵抗をものともせず、勢いよく僕の腕をどけ、その姿を眼前へと晒した。

「ひゃ!?」
「うんうん、可愛いじゃない」

 じっくりと、細部までみるようにゆっくりと、彼女は僕の身体を上から下まで見ていく。
 その目に映っているだろう僕の姿が、やっぱりなんだか恥ずかしくて逃げてしまいたくなった。

「リア、あんまり見ないように。はたから見てると変態みたいよ?」
「あっ、ごめんごめん! すっごい可愛いよ、似合ってる」
「うぅ……。ありがとうございます」

 キャロさんにたしなめられ、佇まいを直したリアさんから、目を逸らしつつ小さく呟く。
 なんというか……恥ずかしさが強すぎて、素直に喜べない。
 しかし、彼女はそんな僕を見て何かを思ったのか、キャロさんに向けて口を開いた。

「ねえ、キャロ。ポーチとかないかな? 腰に付けるウエストポーチみたいなの」
「ウエストポーチですか? ありますけど……アキさんに合う物となると難しいですね」
「今から作れたりはしない?」
「一応、型はあるので材料が揃えば作れますよ」

 今、さらっと凄いことを言ってた気がするんだけど……。
 型があるから材料さえ揃えば作れるって、もしかして今僕が着てる服とかも全部キャロさん作?
 縫い目とか綺麗すぎて、僕がシルフにあげたリボンとは、比べるのも失礼なくらいにレベルが……。

「材料ね。何が必要なの?」
「そうですね。装備と合わせるなら、軽さを重視しつつ丈夫さも必要でしょうし、出来れば魔物の皮ですね。玉兎でも十分なのですが……」
「玉兎の皮かぁ。ちょうど換金しちゃってて手元にないわね。他には?」
「あとは、色を染めるための染色液ですね。そちらは雑貨屋などで手に入ると思います」
「染色液? ちょっと待ってね、その道具って……アキちゃん?」
「……はい?」

 服の縫い目を見たり、試しに動いてみての確認なんかを繰り返していた僕に、リアさんから声がかかる。
 けれど、全然違うことをしていただけに、僕が出した咄嗟の返事はうわずるような声だった。

「アキちゃん、ちゃんと話聞いてた?」
「あ、えっと……すいません。動きにくさとかを調べてました……」
「それも大事だけど、自分の装備のことなんだから、積極的に話に入ってきてほしいかな?」
「あ、はい!」

 あまりにも正論すぎる言葉に、頷くことしかできない。
 そうだった……一応、僕の装備の話なんだった。

「それで、アキちゃん。確か念話で染色液がどうとか言ってなかった?」
「染色液ですか? そうですね、今だと赤色があるんですけど、どうしようかなって」

 僕は言いながらインベントリを開いて、右手で[染色液(赤)]を取り出す。
 その直後、キャロさんが凄い勢いで僕の左手を取った。

「アキさん! その色、その色です!」
「な、なにがですか!?」
「その色が必要なのです!」
「え、はい。では、どうぞ?」

 凄い剣幕でまくし立てるキャロさんに、気圧されるように僕は右手の[染色液(赤)]を差し出した。
 キャロさんはその染色液を受け取りつつ「この液のお代は、今回の請求から差し引きさせていただきますね」と笑う。
 どうやらちょうど良く必要なアイテムだったみたいだ。

「あとは材料ですね。魔物の皮なんかが良いんですが、どうされます? 狩ってきますか?」
「材料……そういえば以前リアさん達と狩ったボスの素材がそのまま残ってるんですが、これって使えますか?」

 キャロさんに机の上を空けてもらい、インベントリから茶毛狼ブラウンウォルフの皮や、毛、爪を取り出す。
 それらを拾い上げ、確認するように眼前へと持っていったキャロさんの口が、見て分かるほどに三日月型へと歪んでいった。

「ふ、ふふふ……」
「きゃ、キャロ……?」
「素晴らしい、素晴らしいですよ! ええ、完璧です! これで作りましょう!」

 急に笑い出したキャロさんに、恐る恐る近づいたリアさん。
 しかし、そんなリアさんの言葉も聞こえないみたいに、興奮して言葉を解き放つキャロさんの姿は……なんだろう、ちょっと怖い。
 でも、同じ物作りとしては、なんとなくその気持ちも分かる気がした。

「では、3時間ほど頂きます!」
「あ、はい」
「お代は、その時に!」
「あ、はい」
「では!」

 もはや興奮しているからか、僕らに伝えるだけ伝えて、キャロさんはお店の奥……きっと作業場になっているであろう部屋へと駆け込んでいった。
 まるで嵐みたいな人だなぁ……。
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