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第1章 新しい世界と出会い
第48話 アルとトーマ
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「覚悟……」
「そうじゃ。もちろん今までの薬とて、やり方次第では人を傷つけることも可能じゃろう。しかし、今回の件はそれとは全く異なる。……薬本来の使用目的が、何かを傷つけるものだからじゃ」
――僕は実際のところ、覚悟はどうかと聞かれても、よくわからないとしか答えられない。
今の今まで、人を傷つけようとか……そういった状況になったこともないし、もちろんそんな状況になりたくもない。
けれど、そのことと、僕が戦える力が欲しいってことは、全然違う話だ。
仮に僕が[風化薬]を持っていれば、作れていれば――きっと、もっと楽に茶毛狼を倒せたのかもしれない。
「……覚悟なんてほとんど持ってないです。だって、そんな思いでお薬を作りたくないから」
「アキ……」
「けど、それとは別に、そのお薬を僕が作れれば、きっと傷つく人の数を減らすことだって、同じようにあるはずなんだ。だから……」
「――アキちゃん」
気付かぬ内に俯いていた僕へと、優しげな声が降りかかる。
その声に不思議と思考を乱された僕は、顔を上げて、優しく微笑むジェルビンさんの顔を見た。
「それで良いのじゃよ、アキちゃん。調薬士として人を助けたいと思うこと、それがなによりも大事なことじゃ。それにの、もしなにか迷ったときは儂でも良い、隣のトーマさんでも良い。誰かを頼る事じゃ。アキちゃんが芯を曲げず人のことを思い続けておるならば、きっとアキちゃんを助けてくれるじゃろう」
そう言われて、ふと隣のトーマ君へと顔を向ければ、彼は僕に気付いて頷いてくれる。
ただそれだけのことなのに、なんだか少しだけ気が楽になった気がして、僕の顔は自然と笑みを作っていた。
「ほっほっほ。それじゃあ[風化薬]の件じゃったの――」
◇
「なるほど。それで俺に声が掛かったわけだな?」
「すみません……。わ、私とトーマ君だけだと厳しいかと思って……」
ジェルビンさんの家で色々な話を聞き、僕らはおばちゃんの雑貨屋へと戻ってきていた。
それはジェルビンさんに出された条件――[風化薬]のことを教えるための条件――を突破するための作戦会議をするためでもあった。
内容が内容なだけに、僕とトーマ君だけでは厳しいと、アルさんも呼んだんだけど……。
「いや、別に大丈夫だ。……それで、君がそのトーマとやらで合ってるか?」
「ああ、俺がトーマや。そいで、あんたはなんなんや?」
「おっと、すまない。俺はアストラル。周りからはアルと呼ばれている」
なぜか2人はお互いに向き合ったまま、顔に笑顔を張り付けて……妙な空気をこの場に作り上げていた。
チリチリと肌が少し痛いような……そんな空気。
2人は初対面のはずなんだけどなぁ。
「で、そのアストラルさんは、なんでそないに俺に敵意を向けてくるんや?」
「敵意だと……? そんなもの、人に向けるわけがないだろう?」
あわわ、あわわわわ……。
シルフに視界の清涼剤になってもらおうと思って辺りを見まわしても……いない?
もしかして、この空気が怖くなって早々に逃げた?
僕が頑張るしかない、か。
「あ、あの……2人とも!」
「「ああ、すまない。トーマが妙に突っかかってくるのでな」」
「息ぴったりじゃないですか……2人とも」
どうにも気が合わないというわけではなさそう?
初対面だからかな?
緊張してるとか?
「……はぁ。ま、ええわ。アル、すまんかったな。よろしく頼むで?」
「あ、ああ。こっちこそ、すまなかった」
なぜか僕の方を見て、盛大に溜息を吐いたトーマ君と、それに毒気を抜けれたのか少し反応が遅れたアルさんが手を出し握手する。
溜息の理由はよくわからないけど、2人の雰囲気が柔らかくなったんだし、とりあえず気にしないでおこう。
「それで、森へ行くのはいいんだが……蜘蛛のエリアはどうやって抜けるつもりだ?」と、最後に椅子に座ったアルさんが口火を切った。
「それに関してはトーマ君が知ってるみたいです。だよね?」
「ああ、そうやな。プレイヤーやない冒険者からの情報やけど、どうやら蜘蛛は雨の日は巣を張らんらしいわ。そんで、木の穴なんかに隠れるらしい」
「なっ!? そんな情報、聞いた事もないぞ!?」
「ま、そうやろな。けどな、こんなんこの世界の冒険者からすりゃ、知ってて当たり前の常識みたいなもんらしいぜ?」
トーマ君の情報に、アルさんが椅子を倒すほどの勢いで立ち上がり、トーマ君へとその顔を近づける。
でも、トーマ君はそんなアルさんを鼻で笑うように腕を組んだまま、常識みたいなものだと、突き返した。
「つまり、いろんな所に話を聞いていれば、蜘蛛に足止めされることもなかったと」
「そういうことやな。ま、俺にはその辺に流れてる情報以上の情報かて揃ってるんやけどな。あんたには言う義理もないが」
「と、トーマ君!?」
「情報はある意味、俺の武器や。やから、話す相手はこっちで決めさせてもらう。ま、もっとも……あんたの得意そうな戦いに関しても、負ける気はないんやけど」
僕の声も聞かずに、アルさんの方を見ながらトーマ君はそう叩きつける。
まるで煽っているような……いや、むしろ煽っているんだろうか?
でも、なんで?
「……ふむ」
「言われっぱなしで悔しくはないんか?」
「それもそうだな。なら、どうする?」
「そんな目向けといて、わからんわけやないやろ?」
あ、これ……危険な感じ?
「しょうがない、乗ってやろう。俺としても、実力もわからない相手に背中は任せられないからな」
「はっ、元からやる気やった癖によう言うわ。……訓練所でも行こか。あそこなら思う存分やれるやろ」
言いながら、トーマ君は椅子から立ち上がり、窓から外へと出ていく。
それを見てアルさんも椅子から立ち上がると、お店側に繋がる扉から外へと出ていった。
「え、えーっと……」
「アキ様、その」
「と、とりあえず追いかけるよ!」
「は、はい!」
僕の声に反応してか、逃げていたシルフが戻ってきた。
そんな彼女と一緒に、アルさんが出て行った扉から外へと出るが、アルさんの姿はもうどこにもない。
訓練所って言ってたよね……急がないと!
「そうじゃ。もちろん今までの薬とて、やり方次第では人を傷つけることも可能じゃろう。しかし、今回の件はそれとは全く異なる。……薬本来の使用目的が、何かを傷つけるものだからじゃ」
――僕は実際のところ、覚悟はどうかと聞かれても、よくわからないとしか答えられない。
今の今まで、人を傷つけようとか……そういった状況になったこともないし、もちろんそんな状況になりたくもない。
けれど、そのことと、僕が戦える力が欲しいってことは、全然違う話だ。
仮に僕が[風化薬]を持っていれば、作れていれば――きっと、もっと楽に茶毛狼を倒せたのかもしれない。
「……覚悟なんてほとんど持ってないです。だって、そんな思いでお薬を作りたくないから」
「アキ……」
「けど、それとは別に、そのお薬を僕が作れれば、きっと傷つく人の数を減らすことだって、同じようにあるはずなんだ。だから……」
「――アキちゃん」
気付かぬ内に俯いていた僕へと、優しげな声が降りかかる。
その声に不思議と思考を乱された僕は、顔を上げて、優しく微笑むジェルビンさんの顔を見た。
「それで良いのじゃよ、アキちゃん。調薬士として人を助けたいと思うこと、それがなによりも大事なことじゃ。それにの、もしなにか迷ったときは儂でも良い、隣のトーマさんでも良い。誰かを頼る事じゃ。アキちゃんが芯を曲げず人のことを思い続けておるならば、きっとアキちゃんを助けてくれるじゃろう」
そう言われて、ふと隣のトーマ君へと顔を向ければ、彼は僕に気付いて頷いてくれる。
ただそれだけのことなのに、なんだか少しだけ気が楽になった気がして、僕の顔は自然と笑みを作っていた。
「ほっほっほ。それじゃあ[風化薬]の件じゃったの――」
◇
「なるほど。それで俺に声が掛かったわけだな?」
「すみません……。わ、私とトーマ君だけだと厳しいかと思って……」
ジェルビンさんの家で色々な話を聞き、僕らはおばちゃんの雑貨屋へと戻ってきていた。
それはジェルビンさんに出された条件――[風化薬]のことを教えるための条件――を突破するための作戦会議をするためでもあった。
内容が内容なだけに、僕とトーマ君だけでは厳しいと、アルさんも呼んだんだけど……。
「いや、別に大丈夫だ。……それで、君がそのトーマとやらで合ってるか?」
「ああ、俺がトーマや。そいで、あんたはなんなんや?」
「おっと、すまない。俺はアストラル。周りからはアルと呼ばれている」
なぜか2人はお互いに向き合ったまま、顔に笑顔を張り付けて……妙な空気をこの場に作り上げていた。
チリチリと肌が少し痛いような……そんな空気。
2人は初対面のはずなんだけどなぁ。
「で、そのアストラルさんは、なんでそないに俺に敵意を向けてくるんや?」
「敵意だと……? そんなもの、人に向けるわけがないだろう?」
あわわ、あわわわわ……。
シルフに視界の清涼剤になってもらおうと思って辺りを見まわしても……いない?
もしかして、この空気が怖くなって早々に逃げた?
僕が頑張るしかない、か。
「あ、あの……2人とも!」
「「ああ、すまない。トーマが妙に突っかかってくるのでな」」
「息ぴったりじゃないですか……2人とも」
どうにも気が合わないというわけではなさそう?
初対面だからかな?
緊張してるとか?
「……はぁ。ま、ええわ。アル、すまんかったな。よろしく頼むで?」
「あ、ああ。こっちこそ、すまなかった」
なぜか僕の方を見て、盛大に溜息を吐いたトーマ君と、それに毒気を抜けれたのか少し反応が遅れたアルさんが手を出し握手する。
溜息の理由はよくわからないけど、2人の雰囲気が柔らかくなったんだし、とりあえず気にしないでおこう。
「それで、森へ行くのはいいんだが……蜘蛛のエリアはどうやって抜けるつもりだ?」と、最後に椅子に座ったアルさんが口火を切った。
「それに関してはトーマ君が知ってるみたいです。だよね?」
「ああ、そうやな。プレイヤーやない冒険者からの情報やけど、どうやら蜘蛛は雨の日は巣を張らんらしいわ。そんで、木の穴なんかに隠れるらしい」
「なっ!? そんな情報、聞いた事もないぞ!?」
「ま、そうやろな。けどな、こんなんこの世界の冒険者からすりゃ、知ってて当たり前の常識みたいなもんらしいぜ?」
トーマ君の情報に、アルさんが椅子を倒すほどの勢いで立ち上がり、トーマ君へとその顔を近づける。
でも、トーマ君はそんなアルさんを鼻で笑うように腕を組んだまま、常識みたいなものだと、突き返した。
「つまり、いろんな所に話を聞いていれば、蜘蛛に足止めされることもなかったと」
「そういうことやな。ま、俺にはその辺に流れてる情報以上の情報かて揃ってるんやけどな。あんたには言う義理もないが」
「と、トーマ君!?」
「情報はある意味、俺の武器や。やから、話す相手はこっちで決めさせてもらう。ま、もっとも……あんたの得意そうな戦いに関しても、負ける気はないんやけど」
僕の声も聞かずに、アルさんの方を見ながらトーマ君はそう叩きつける。
まるで煽っているような……いや、むしろ煽っているんだろうか?
でも、なんで?
「……ふむ」
「言われっぱなしで悔しくはないんか?」
「それもそうだな。なら、どうする?」
「そんな目向けといて、わからんわけやないやろ?」
あ、これ……危険な感じ?
「しょうがない、乗ってやろう。俺としても、実力もわからない相手に背中は任せられないからな」
「はっ、元からやる気やった癖によう言うわ。……訓練所でも行こか。あそこなら思う存分やれるやろ」
言いながら、トーマ君は椅子から立ち上がり、窓から外へと出ていく。
それを見てアルさんも椅子から立ち上がると、お店側に繋がる扉から外へと出ていった。
「え、えーっと……」
「アキ様、その」
「と、とりあえず追いかけるよ!」
「は、はい!」
僕の声に反応してか、逃げていたシルフが戻ってきた。
そんな彼女と一緒に、アルさんが出て行った扉から外へと出るが、アルさんの姿はもうどこにもない。
訓練所って言ってたよね……急がないと!
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