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第1章 新しい世界と出会い
第37話 おじいちゃんと
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目を疑うとは、このことなのかも知れない。
僕の視界に飛び込んできた屋根は、話に聞いていた緑色の屋根で――そして、鍬の刺さった屋根だった。
しかも、3本も。
「って、1本じゃないんだ!?」
(そ、そうみたいですね……)
無造作に刺さっている鍬は、なぜかどれも違う形で、オーソドックスな鍬、爪みたいになっている鍬、そしてツルハシのように背に突起がある鍬……うん、まったく理由が分からない。
「ま、まぁおじさんが言ってた家ってここだよね?」
(こちら以外に条件の合うお家はありませんので、そうかと……)
「よし、一旦鍬については忘れよう」
言葉と一緒に視界から鍬を外して、眼前に見える玄関らしきドアへと近づく。
ノックをすれば、コンコンと硬い木の音が響くが……他の音はなにも返ってこない。
「ん? いないのかな?」
(アキ様。もしかすると、畑などのお世話をされているのではないでしょうか?)
「ふむ。なら近くの畑にいるかもね」
シルフの考えに頷きつつ、家の裏手側へと移動すれば、ザクザクと小気味良い音が聞こえてくる。
その音に導かれるように顔を向ければ、少し痩せ型のお爺ちゃんが力強く鍬を地面に突き刺し、耕していた。
「あの人かな?」
その呟きが聞こえたのか、お爺ちゃんがくるりとこちらへ振り返る。
そしてそのまま鍬を肩に背負い、僕の方へと歩いてきた。
――隠居してると聞いていたけれど、歩いてくる姿勢も、さっきの鍬を振る姿勢も、すごく力強い……。
「ふむ。なんじゃ、君は?」
「初めまして。僕はアキといいます。少し調べていることがありまして。そこで、訓練所の兵士さんに聞いたところ、ジェルビンさんという方を紹介されまして……」
「ふむ。確かに儂がジェルビンじゃが……誰から聞いたのじゃ?」
誰から……?
兵士のおじさん……って名前なんだっけ?
いや、そもそも聞いてない気がするぞ!?
「え、えーっと……名前を聞いてないんですが。訓練所の門の所に立たれている方です」
「……グランのやつじゃな。なるほど、なら続きは儂の家で話そう」
「あ、はい。ありがとうございます」
僕の返事よりも先に、お爺ちゃん――もとい、ジェルビンさんは家の方へと歩いて行く。
とりあえず遅れるわけにもいかないとその後を追い、ジェルビンさんが開けてくれた扉をくぐり抜けた。
◇
「それでアキさんとやらは……調薬士じゃな?」
「え!? なんで分かったんですか!?」
「なんとなくの勘じゃよ。こうして隠居する前は、人前に立つことも多かったのでの。人を見る目はあるつもりじゃよ」
案内されて椅子に座り、対面した直後だっただけに、勘と言われても信じる他ない。
人を見る目……だからこうして家の中に招いてくれたのだろうか?
「それで、どの程度作れるんじゃ?」
「僕はまだまだです。作れるのは最下級と下級のポーション、その良品くらいです」
一応他にも、軟膏とか作ったけど……。
そうだ、軟膏も量産してみて、アルさん達とパーティーを組む時に見せてみよう。
大丈夫そうだったらメンバーの方に使って貰ったりしてもいいし……それに、ボスの時は使えそうだしね。
「なんじゃ、それ以外はまだ作れぬのか?」
「はい。材料や方法が全然わからなくて……」
「ふむ、ちょっと待っておれ」
僕の言葉に少し頷き、ジェルビンさんは家から出ていく。
その行動に、シルフと目を合わせ首を傾げていると、ジェルビンさんは手に何かを持って帰ってきた。
「ほれ、この2つがポーション以外でよく見る一般的な薬じゃ」
「ちょっと失礼します……。片方は[興奮剤]。もう片方が……[解毒ポーション(微)]? こっちは初めて見るお薬ですね」
[解毒ポーション(微):軽い毒を直せるポーション、ただし猛毒など強い毒に対しては効果がない。
軽い解毒作用を持つポーション。]
「軽い毒? それに、猛毒って?」
「ふむ、そこからか。仕方ないのぅ」
ジェルビンさんは軽く笑いながら、右手の人差し指を立てる。
「まず、毒というのは大きく3つに分けられるのじゃ。軽い毒、猛毒、そして特殊な毒じゃ」
人差し指、次いで中指、最後に薬指。
なるほど……大きく分けて3つ。
「まず軽い毒というのは、すぐに命に関わるものではない毒じゃ。めまいや頭痛、ふらつきなどから始まり、悪化すれば吐き気や発熱などが起きる。体力も少しずつ奪われていくのじゃが、動かず休むか、[解毒ポーション(微)]を使うのが一般的じゃな」
「ふむ……。おば、あーアルジェリアさんに教えてもらいましたが……[ポルの微毒薬]もそうなんですか?」
「そうじゃな。[ポルの微毒薬]は服用すると眠りを誘うものじゃが、毒としては軽い毒になるのぅ。量さえ間違わなければ、安全に使うことができるぞ」
「なるほど……」
ゲーム的にいえば、体調が悪くなることで、じわじわとHPが減る。
でも、休んでいれば治る毒が軽い毒ってことかな?
「次は猛毒じゃが……これはあまりかかることはない。ないが……かかると最悪、死に至る」
死に至る――その言葉に、あの死んだときの感覚を思い出してしまう。
暗く深い水の中にいるみたいに、少しの浮遊感を感じながらも落ちていく、あの感覚。
「――じゃが」
ジェルビンさんの声で、びくりと身体が震え、指先に重さが戻る。
……大丈夫、大丈夫だ。
「猛毒に対処するべく、街には常に猛毒用のポーションは準備されておる」
「……猛毒は、なにから」
「そうじゃな……魔物も持っておるが、一番は毒薬じゃろう」
「――ッ!?」
「そう怖がることはない。普通に生活しておればそのような目に遭うことはないじゃろう。実際、かかるのは街の有力者や、危険な場所に行く冒険者が大半じゃ」
つまり、命を狙われるような状況じゃなければ、かかることはない。
でも、それは、つまり――
僕の視界に飛び込んできた屋根は、話に聞いていた緑色の屋根で――そして、鍬の刺さった屋根だった。
しかも、3本も。
「って、1本じゃないんだ!?」
(そ、そうみたいですね……)
無造作に刺さっている鍬は、なぜかどれも違う形で、オーソドックスな鍬、爪みたいになっている鍬、そしてツルハシのように背に突起がある鍬……うん、まったく理由が分からない。
「ま、まぁおじさんが言ってた家ってここだよね?」
(こちら以外に条件の合うお家はありませんので、そうかと……)
「よし、一旦鍬については忘れよう」
言葉と一緒に視界から鍬を外して、眼前に見える玄関らしきドアへと近づく。
ノックをすれば、コンコンと硬い木の音が響くが……他の音はなにも返ってこない。
「ん? いないのかな?」
(アキ様。もしかすると、畑などのお世話をされているのではないでしょうか?)
「ふむ。なら近くの畑にいるかもね」
シルフの考えに頷きつつ、家の裏手側へと移動すれば、ザクザクと小気味良い音が聞こえてくる。
その音に導かれるように顔を向ければ、少し痩せ型のお爺ちゃんが力強く鍬を地面に突き刺し、耕していた。
「あの人かな?」
その呟きが聞こえたのか、お爺ちゃんがくるりとこちらへ振り返る。
そしてそのまま鍬を肩に背負い、僕の方へと歩いてきた。
――隠居してると聞いていたけれど、歩いてくる姿勢も、さっきの鍬を振る姿勢も、すごく力強い……。
「ふむ。なんじゃ、君は?」
「初めまして。僕はアキといいます。少し調べていることがありまして。そこで、訓練所の兵士さんに聞いたところ、ジェルビンさんという方を紹介されまして……」
「ふむ。確かに儂がジェルビンじゃが……誰から聞いたのじゃ?」
誰から……?
兵士のおじさん……って名前なんだっけ?
いや、そもそも聞いてない気がするぞ!?
「え、えーっと……名前を聞いてないんですが。訓練所の門の所に立たれている方です」
「……グランのやつじゃな。なるほど、なら続きは儂の家で話そう」
「あ、はい。ありがとうございます」
僕の返事よりも先に、お爺ちゃん――もとい、ジェルビンさんは家の方へと歩いて行く。
とりあえず遅れるわけにもいかないとその後を追い、ジェルビンさんが開けてくれた扉をくぐり抜けた。
◇
「それでアキさんとやらは……調薬士じゃな?」
「え!? なんで分かったんですか!?」
「なんとなくの勘じゃよ。こうして隠居する前は、人前に立つことも多かったのでの。人を見る目はあるつもりじゃよ」
案内されて椅子に座り、対面した直後だっただけに、勘と言われても信じる他ない。
人を見る目……だからこうして家の中に招いてくれたのだろうか?
「それで、どの程度作れるんじゃ?」
「僕はまだまだです。作れるのは最下級と下級のポーション、その良品くらいです」
一応他にも、軟膏とか作ったけど……。
そうだ、軟膏も量産してみて、アルさん達とパーティーを組む時に見せてみよう。
大丈夫そうだったらメンバーの方に使って貰ったりしてもいいし……それに、ボスの時は使えそうだしね。
「なんじゃ、それ以外はまだ作れぬのか?」
「はい。材料や方法が全然わからなくて……」
「ふむ、ちょっと待っておれ」
僕の言葉に少し頷き、ジェルビンさんは家から出ていく。
その行動に、シルフと目を合わせ首を傾げていると、ジェルビンさんは手に何かを持って帰ってきた。
「ほれ、この2つがポーション以外でよく見る一般的な薬じゃ」
「ちょっと失礼します……。片方は[興奮剤]。もう片方が……[解毒ポーション(微)]? こっちは初めて見るお薬ですね」
[解毒ポーション(微):軽い毒を直せるポーション、ただし猛毒など強い毒に対しては効果がない。
軽い解毒作用を持つポーション。]
「軽い毒? それに、猛毒って?」
「ふむ、そこからか。仕方ないのぅ」
ジェルビンさんは軽く笑いながら、右手の人差し指を立てる。
「まず、毒というのは大きく3つに分けられるのじゃ。軽い毒、猛毒、そして特殊な毒じゃ」
人差し指、次いで中指、最後に薬指。
なるほど……大きく分けて3つ。
「まず軽い毒というのは、すぐに命に関わるものではない毒じゃ。めまいや頭痛、ふらつきなどから始まり、悪化すれば吐き気や発熱などが起きる。体力も少しずつ奪われていくのじゃが、動かず休むか、[解毒ポーション(微)]を使うのが一般的じゃな」
「ふむ……。おば、あーアルジェリアさんに教えてもらいましたが……[ポルの微毒薬]もそうなんですか?」
「そうじゃな。[ポルの微毒薬]は服用すると眠りを誘うものじゃが、毒としては軽い毒になるのぅ。量さえ間違わなければ、安全に使うことができるぞ」
「なるほど……」
ゲーム的にいえば、体調が悪くなることで、じわじわとHPが減る。
でも、休んでいれば治る毒が軽い毒ってことかな?
「次は猛毒じゃが……これはあまりかかることはない。ないが……かかると最悪、死に至る」
死に至る――その言葉に、あの死んだときの感覚を思い出してしまう。
暗く深い水の中にいるみたいに、少しの浮遊感を感じながらも落ちていく、あの感覚。
「――じゃが」
ジェルビンさんの声で、びくりと身体が震え、指先に重さが戻る。
……大丈夫、大丈夫だ。
「猛毒に対処するべく、街には常に猛毒用のポーションは準備されておる」
「……猛毒は、なにから」
「そうじゃな……魔物も持っておるが、一番は毒薬じゃろう」
「――ッ!?」
「そう怖がることはない。普通に生活しておればそのような目に遭うことはないじゃろう。実際、かかるのは街の有力者や、危険な場所に行く冒険者が大半じゃ」
つまり、命を狙われるような状況じゃなければ、かかることはない。
でも、それは、つまり――
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