39 / 345
第1章 新しい世界と出会い
第36話 訓練所、再び
しおりを挟む
アルさんに[下級ポーション(良)]を飲んでもらった次の日、僕はシルフと一緒に訓練所に向かっていた。
戦い方の相談と、ボスについての情報収集が出来ればいいなって。
「こんにちはー」
「ん? おお、お前さんはあの時の子か。元気してたか?」
「はい、おかげさまで。訓練の時はお世話になりました」
以前と同じように訓練所の門のところに立っていたおじさんが、声をかけた僕に気付いてくれる。
その間にも訓練所に入っていく人はいたけれど、誰も話しかけたりはしないみたいだった。
「それでどうだ。少しは使えるようになったか?」
「それが……採取自体はできるようになったんですけど、戦闘に関しては全然で」
僕は死んだことは伝えず、鹿との戦い……そのあらましを伝えていく。
聞きながらおじさんは、どこか納得したような顔を見せ、指で額を覆った。
「あー確かに、あの戦い方は大きい魔物に対しては向いてないからなぁ……」
「玉兎程度だったらなんとかなるんですが、鹿だとそもそものリーチが」
「そうだな……。分かっているかもしれないが、渡された道具だけが採取道具ってわけじゃないからな? 例えば、最初に教えた鎌は草を刈り取る道具だが、木を伐採するときは別の道具を使うだろう?」
「……他にも色々使えるってことですね?」
「そういうことだ。<戦闘採取術>は採取道具にしか効果は発揮されないが、逆に言えば採取道具であれば何でも使えるという利点でもある。だからこそ、いろんなところに視野を広げてみればいい。詰まった時は立ち止まるのも手だぞ」
そう言って、おじさんはニカッと笑みを見せる。
たぶんおじさんは、わざと正解を言わないようにしてるんだろう……それはきっと、おばちゃんだってそうだ。
すでに知っている2人からなら、言ってしまえば簡単なことなんだろうと思う。
けれど、自力でそこに辿りつけるように背中を押してくれている――期待して応援してくれているんだ。
今も、[下級ポーション(良)]の時も。
「わかりました! ありがとうございます」
「ああ、頑張ってくれ」
そう言っておじさんは僕の頭をぽんぽんと軽く叩く。
その手が完全に離れていったタイミングを見計らって、僕はもうひとつの用件を切り出した。
「あとおじさんに聞きたいことがもうひとつあるんですけど」
「ん?」
「草原に見たことのない魔物がいるってお話、知りませんか?」
一番最初に訊きに来たのが訓練所なのは、戦いに関しての事もあったけれど、おじさんが兵士さんだってことも関係している。
魔物に関してのことなら、街の住民よりも詳しい可能性が高いと思ったからだ。
「ああ、聞いた気がするな。ただ、俺はそこまで詳しく知らないんだ」
「そうなんですね。誰か詳しそうな方はご存じないですか?」
「そうだな……ジェルビンの爺さんなら知ってると思う。この街のまとめ役をやってた爺さんだからな」
「ふむ」
ジェルビンさん、か。
(アキ様。仮にジェルビン様が知らなくても、まとめ役をやられていた方なら、さらに他の方の紹介を受けることも出来るかもしれません)
(それもそうだね。ならひとまず会いに行ってみようか)
「おじさん。そのジェルビンさんに会おうと思ったらどうすればいいですか?」
「ああ、街の東側の農耕用区画、そこに住んでるぞ。今は役職も息子に譲ってのんきに隠居生活をしてるはずだし、会ってくれるだろう。目印は……緑色の屋根にクワが刺さってるからそれだな」
「クワ……? クワって、あの鍬?」
僕は思わず畑を耕すような仕草をおじさんに見せる。
すると少し笑いながらおじさんはこう言った。
「そうそう、その鍬だ」
「……いや、おかしいですよね!? なんで鍬が屋根に刺さってるんですか!?」
「そう言われてもな……おかげで目印になってるからなぁ」
気にはなるが、もう慣れた、と言わんばかりに頭を掻くおじさんに、僕は全身の力が抜ける。
なんだか納得はいかないけれど、わかりやすい目印になってるならいいか……。
他にも人となりなんかを軽く教えてもらい、僕は兵士のおじさんと別れて街の東側へと足を向ける。
だんだんと人が少なくなってくると、シルフが何か思いついたように僕の名前を呼んだ。
(アキ様)
(ん?)
(農耕用の区画に住まれている方でしたら、作物を育てていらっしゃるかもしれませんよ)
(ふむ。だったら何か素材についても教えてもらえるかもね? ボスの情報目的だったけど、そっちの情報ももらえるなら一石二鳥だ)
(毒などのお薬は、まったく情報がないですからね)
(本にはそこまで詳しく載ってないからね……)
インベントリから取り出した本をパラパラと捲る。
分かってるのはポルマッシュに毒があるってことくらいかなぁ……。
(ま、いざとなったら水や蜜に溶かしてみたり、粉末にしてみたり……かな?)
(ポーションと同じやり方を試してみて、ですね)
(でもそのためには数が必要だからね。自生してるところを見つけないと)
そんなことを話しながら歩いていけば、景色から建物がほとんどなくなり、閑散とした場所に到着した。
さて、目印の緑色の屋根は――
「……ホントに刺さってる」
見まわした僕の視界に飛び込んできたのは、緑色の屋根に……しっかりと突き刺さった鍬だった。
戦い方の相談と、ボスについての情報収集が出来ればいいなって。
「こんにちはー」
「ん? おお、お前さんはあの時の子か。元気してたか?」
「はい、おかげさまで。訓練の時はお世話になりました」
以前と同じように訓練所の門のところに立っていたおじさんが、声をかけた僕に気付いてくれる。
その間にも訓練所に入っていく人はいたけれど、誰も話しかけたりはしないみたいだった。
「それでどうだ。少しは使えるようになったか?」
「それが……採取自体はできるようになったんですけど、戦闘に関しては全然で」
僕は死んだことは伝えず、鹿との戦い……そのあらましを伝えていく。
聞きながらおじさんは、どこか納得したような顔を見せ、指で額を覆った。
「あー確かに、あの戦い方は大きい魔物に対しては向いてないからなぁ……」
「玉兎程度だったらなんとかなるんですが、鹿だとそもそものリーチが」
「そうだな……。分かっているかもしれないが、渡された道具だけが採取道具ってわけじゃないからな? 例えば、最初に教えた鎌は草を刈り取る道具だが、木を伐採するときは別の道具を使うだろう?」
「……他にも色々使えるってことですね?」
「そういうことだ。<戦闘採取術>は採取道具にしか効果は発揮されないが、逆に言えば採取道具であれば何でも使えるという利点でもある。だからこそ、いろんなところに視野を広げてみればいい。詰まった時は立ち止まるのも手だぞ」
そう言って、おじさんはニカッと笑みを見せる。
たぶんおじさんは、わざと正解を言わないようにしてるんだろう……それはきっと、おばちゃんだってそうだ。
すでに知っている2人からなら、言ってしまえば簡単なことなんだろうと思う。
けれど、自力でそこに辿りつけるように背中を押してくれている――期待して応援してくれているんだ。
今も、[下級ポーション(良)]の時も。
「わかりました! ありがとうございます」
「ああ、頑張ってくれ」
そう言っておじさんは僕の頭をぽんぽんと軽く叩く。
その手が完全に離れていったタイミングを見計らって、僕はもうひとつの用件を切り出した。
「あとおじさんに聞きたいことがもうひとつあるんですけど」
「ん?」
「草原に見たことのない魔物がいるってお話、知りませんか?」
一番最初に訊きに来たのが訓練所なのは、戦いに関しての事もあったけれど、おじさんが兵士さんだってことも関係している。
魔物に関してのことなら、街の住民よりも詳しい可能性が高いと思ったからだ。
「ああ、聞いた気がするな。ただ、俺はそこまで詳しく知らないんだ」
「そうなんですね。誰か詳しそうな方はご存じないですか?」
「そうだな……ジェルビンの爺さんなら知ってると思う。この街のまとめ役をやってた爺さんだからな」
「ふむ」
ジェルビンさん、か。
(アキ様。仮にジェルビン様が知らなくても、まとめ役をやられていた方なら、さらに他の方の紹介を受けることも出来るかもしれません)
(それもそうだね。ならひとまず会いに行ってみようか)
「おじさん。そのジェルビンさんに会おうと思ったらどうすればいいですか?」
「ああ、街の東側の農耕用区画、そこに住んでるぞ。今は役職も息子に譲ってのんきに隠居生活をしてるはずだし、会ってくれるだろう。目印は……緑色の屋根にクワが刺さってるからそれだな」
「クワ……? クワって、あの鍬?」
僕は思わず畑を耕すような仕草をおじさんに見せる。
すると少し笑いながらおじさんはこう言った。
「そうそう、その鍬だ」
「……いや、おかしいですよね!? なんで鍬が屋根に刺さってるんですか!?」
「そう言われてもな……おかげで目印になってるからなぁ」
気にはなるが、もう慣れた、と言わんばかりに頭を掻くおじさんに、僕は全身の力が抜ける。
なんだか納得はいかないけれど、わかりやすい目印になってるならいいか……。
他にも人となりなんかを軽く教えてもらい、僕は兵士のおじさんと別れて街の東側へと足を向ける。
だんだんと人が少なくなってくると、シルフが何か思いついたように僕の名前を呼んだ。
(アキ様)
(ん?)
(農耕用の区画に住まれている方でしたら、作物を育てていらっしゃるかもしれませんよ)
(ふむ。だったら何か素材についても教えてもらえるかもね? ボスの情報目的だったけど、そっちの情報ももらえるなら一石二鳥だ)
(毒などのお薬は、まったく情報がないですからね)
(本にはそこまで詳しく載ってないからね……)
インベントリから取り出した本をパラパラと捲る。
分かってるのはポルマッシュに毒があるってことくらいかなぁ……。
(ま、いざとなったら水や蜜に溶かしてみたり、粉末にしてみたり……かな?)
(ポーションと同じやり方を試してみて、ですね)
(でもそのためには数が必要だからね。自生してるところを見つけないと)
そんなことを話しながら歩いていけば、景色から建物がほとんどなくなり、閑散とした場所に到着した。
さて、目印の緑色の屋根は――
「……ホントに刺さってる」
見まわした僕の視界に飛び込んできたのは、緑色の屋根に……しっかりと突き刺さった鍬だった。
0
お気に入りに追加
1,630
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる