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第1章 新しい世界と出会い

第35話 喉越しすっきり?

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 作業台の上に置いてある[下級ポーション(良)]を手に取って、ゆっくりと息を吐く。
 最下級よりは苦味も軽減されている……としても、苦いものは苦いのだ。
 一応の対策として、すぐに飲めるようにとシルフに水を入れたカップを持ってもらってはいるけれど……。

「はー……ふぅ……。よし!」

 左手を腰に当て、意を決して一気にあおる。
 直後、口の中に広がる味は予想通りの苦味で、覚悟はしてたけれど一瞬身体が震えてしまう。
 トロみのある液体なだけに、口の中に残っているような気はするけれど……飲み込むときの引っかかりは軽減されてるかな?
 でも――

「うぇ……まっず」
「アキ様、お水を!」
「ありがとう……」

 空になった瓶と交換する形で、シルフから水を受け取り口へと流し込む。
 ひと口目は勢いのままに、ふた口目は口の中の苦味を流すようにゆっくりと。

「はぁ、すっきりした……」
「お疲れ様です。やっぱり味は……」
「変わってないね。喉ごしは良くなってるけど、苦味……というか不味いのは変わってない」

 [下級ポーション]よりももっと上位のポーションになれば、この苦味も取れるのだろうか?
 もちろんそれも気にはなるんだけど、現状では[下級ポーション(良)]があれば困ることはないだろうし、ポーションじゃないものも探していかないとね。
 ポーションだけがお薬じゃないし、さ。

「なんにしても、通常品よりは飲みやすい。また今度アルさんに試してもらって、最下級と下級の良品だったらどっちが良いかを決めてもらおう」
「そうですね。前回は妥協案でしたから」

 ひとまず、これでアルさんの件がひと段落つくだろうし、次は毒や麻痺関係のお薬かな。
 今のところ全く情報がないからどこから手を付けるべきか分からないんだけど……おばちゃんに頼ってばっかりもいけないし、自分で情報を集めてみよう。

「でも、とりあえずは――アルさんに連絡っと」



「なるほど、これがその[下級ポーション(良)]か」
「はい。味はそのままですが、喉ごしが通常品と比べると良くはなってます」
「……味はそのままなんだな」
「お水は用意してるので、安心してください!」
「それを安心していいと言っていいのか……?」

 以前飲んだ[下級ポーション]の味を思い出したのか、彼は眉間に皺を寄せ、なんとも表現しにくい表情を見せる。
 それでも数秒で諦めたように息を吐き、勢いよくお薬を口へ運んだ。
 ……不味いのか、一瞬身体が強ばったのは見なかったことにしてあげよう。

「……ごふっ」
「アルさん、お水いりますか?」
「すまない……」

 あと少しのところで集中力が切れたのか、彼は瓶を口から離した直後にむせる。
 それを見てすかさずお水を渡せば、あおるように勢いよく飲み干し、息を吐いた。

「どうでした?」
「ああ、そうだな……急いで飲むには向いてないな。ただ、戦闘中でも後ろに退がれるタイミングがあれば、飲むのも可能かもしれない」
「その、アルさんでも飲めます?」

 目を伏せて、僕は問いかける。
 すると彼は「あー、そうだな。飲める、と思うぞ」と、いつもよりも歯切れ悪く答えた。

「ならよかった」
「すまない。俺がもう少し飲めれば良いんだが」
「いえいえ、」

 彼は恥ずかしいのか少し声に覇気がない。
 だから僕はわざとトーンを上げて言った。

「それが、私の役目ですから!」
「……そうだな。頼りにしている」
「どんとお任せください」

 胸を張ってドヤ顔を見せる僕が面白かったのか、アルさんの顔がほころぶ。
 ――僕の行動で、少しでも気が晴れてくれてたらいいな。



「そういえばアルさん。聞きました?」
「何をだ?」
「ボスっぽい魔物が見つかったって噂です。街のすぐそこの草原で」
「いや、知らないな。知り合いから聞いた覚えもない」

 それならば、とトーマ君から聞いた話をアルさんに伝えていく。
 もちろん出現条件が分かっていないことや、街の住民の話も合わせてだ。
 それを聞いたアルさんは少し考える素振そぶりを見せ、数秒後、僕へと視線を合わせた。

「アキさん」
「はい?」
「アキさんが良ければ、だが……。そのボスの発見、および討伐に手を貸してくれないだろうか? もちろんアキさんが良ければ、だが」
「え!? 僕……あ、いや私戦えないですよ? それに他の人に確認取らなくていいんですか?」

 驚くと同時に、戦闘面での不安が口をついて出る。
 誘ってくれるのは嬉しいけど、この間みたいに足を引っ張ってしまう可能性だってあるから。

「他のメンバーへは聞いておく。多分大丈夫だろうしな。それとアキさんに期待していることは戦闘面じゃない。情報収集の方なんだ」
「情報収集、ですか?」
「ああ。俺たちは基本的に街の外にいる関係で、住民との接点が薄いんだ。そこで――」
「私が住民から話を聞いて、その見返りとしてボス討伐の同行、と?」
「そういうことだな」

 ふむ……アルさんが言わんとしていることは分かる。
 要は情報を集めようにも知り合いがほとんどいないから、そっちを僕に投げて、自分たちは戦闘に集中しようってことだ。
 戦闘に期待されてないっていうのが、ほっとする反面、ちょっと釈然としない気持ちもあるけど……。
 でもまぁ、ちょうど別のお薬の作り方を探す予定ではあったし、そのついでとしてなら――アリかな。

「わかりました。でも、ちゃんと他のメンバーへは許可を取ってくださいね?」
「そこは任せろ。決まり次第連絡を入れよう」
「はい。では詳しい話はその時に」

 アルさんが差し出した右手を、僕の右手で掴む。
 ひとつの依頼が落ち着いたところで、次の予定とは……また忙しくなりそうだなぁ。
 他の人がどんな人かは不安だけど、アルさんのパーティーメンバーだし……たぶん大丈夫、かな?
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