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第1章 新しい世界と出会い

第28話 無自覚と苦労人

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 気を持ち直したアルさんに[最下級ポーション(良)]を渡し、代わりに報酬を貰う。
 ポーションの値段はおばちゃんと相談しておいたのもあって、取引自体はスムーズに進んだ。
 っと、そうそう――

「アルさん、ひとつお願いがあるんですが」
「ん? なんだ」

 机を挟んで対面に座り直した僕へ、アルさんは顔を向ける。
 その動きで乱れたままの黒髪が揺らめき、視線と呼応するように鈍い光を返していた。

「恥ずかしながら……僕が採取に行く際にお手伝いいただけないかと」
「手伝い? 言っておくが、俺は下手だぞ?」
「ああ、いえいえ。アルさんに手伝って貰いたいのは護衛です。その、前回……死んでしまって」

 僕の言葉が予想外だったのか、アルさんは目を見開き「ふむ……」と重く息を吐いた。
 そのままアルさんは何も言わなかったこともあり、僕は訥々とつとつと事情を説明していく。
 話が進む度に、アルさんの顔が重苦しいものから、呆れの顔に変わっていくのが、なんとも申し訳ない気持ちになった。

「言わなくてもわかっていることだろうが、油断しすぎだ」
「……はい」
「視界の悪い場所で座り込むなんて、襲ってくださいと言ってるようなものだぞ」

 淡々と叱るアルさんに、僕は小さくなることしかできない。
 わかってますよぅ……だから今回は助力をお願いすることにしたんだし……。

「はぁ……。アキさん、あまり気を抜きすぎないようにな? フィールドだけでなく、街の中でもな」
「ん? 街でもですか?」
「ああ、アキさんはあまり気にしてないかもしれないが、こっちでは一応女の子なんだ。それに……」

 女の子――そういえばそうだった。
 もっとも最後の方はなんて言ってるかよく聞こえなかったけど……一応気を付けよう、うん。

「……はぁ」
「なんなんですか? さっきから溜息ばっかり」
「いや、自覚がないというのも、なかなか大変なものだな、と」

 溜息交じり、苦笑しつつアルさんがそうぼやく。
 自覚?
 自覚ならしてますよ!
 僕が油断しすぎてるってことも……一応女の子だってことも。

(あはは……その、頑張ってくださいね)
(シルフまで!?)

 乾いた笑いをしながら、シルフは僕の視界から消えていく。
 まるで僕を除いた2人が結託してるような……お互い話してないはずなのに。

「それで、アキさん。いつがいいんだ?」
「ん? 採取ですか? 僕は今夏休みで学校がお休みなので、いつでも大丈夫です」
「ふむ……なら明日の夕方辺りにしようか。そこなら時間が取れるだろう」
「じゃあそうしましょう。森も街とはそこまで離れてないので、日暮れまでには帰ってこられると思いますし」

 実際、森まで行って帰ってくるだけなら往復で40分から1時間程度なので、遠くはないしね。
 ただ……森の入口付近はあんまり素材もなかったから、ある程度中には入らないといけないんだけど。

「ああ、わかった。なら明日、動けるようになったらこちらから連絡を入れよう」
「はい。お待ちしてますね」

 そこまですり合わせてから、アルさんは椅子から立ち上がる。
 そして僕と軽く挨拶だけ交わして雑貨屋を出て行った。

「アキ様」

 アルさんが去って、お店の奥が静かになったあと、少し時間を置いてからシルフが僕の前に姿をあらわす。
 ――その顔は不思議そうな色を見せていた。

「ん?」
「アル様、武器を変えたみたいですね」
「え? そう?」
「はい。以前は腰から提げてましたが、今日は背中に背負われていましたので」

 ふむ……そういえばそうだったね。
 前回はごく普通の長剣みたいだったけど……大きくなってたような。
 というか、ものすごく大きくなってたよ。

「そういえば、左手に付けてた盾もなくなってたね。もしかすると普段は邪魔になるから外してるのかもだけど」

 ただ、なくなっていたとすれば……盾役タンクをやめたのかな?
 でもそうなると、パーティーでの役割も変わるだろうし……。

「まぁ、よくわかんないし。明日アルさんに聞いてみよう」

 手を叩きつつそう締めて、シルフと深く頷きあう。
 そうして気を取り直したところで、僕はインベントリからあるアイテムを取り出した。

 おばちゃんから貰った本――森の素材を覚え直すためだ。

強躍草キョウヤクソウにシュネの木の枝。それにポルマッシュと……他には、」

 現物とイラストを見比べながらペラペラとページを捲っていく。
 すると、あるページが目に入った。

「ん? これは……」

 植物の、蔓みたいな……?
 採取方法としては引き抜くだけなんだけど……

「これ、箇所によって素材が違う?」

 本に書いてあるのは葉と茎、根の3カ所で違うということだけで、それ以上は書いてない。
 でも、こんなのもあるんだ……。
 ただ、思い出してみても見た記憶は引っかからない。
 森の入口付近には生えてないのかもしれないし、もし見かけたら採取してみようかなぁ……。
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