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第1章 新しい世界と出会い
第5話前編 問い合わせ
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「<Life Game>の公式サイトの、サポート問い合わせ……っと」
ログアウトしてすぐに、僕は<Life Game>の公式サイトを開いていた。
さらに、正規パッケージ毎に割り当てられたシリアルナンバーや、個別設定したパスワードなどを入力し、プレイヤーページへログインする。
そこのトップページの隅にあるサポート問い合わせを開くと、新しいウィンドウが開いた。
どうやら通話タイプの問い合わせっぽい……?
でも、ツェンさんはたしかお返事に数日から何週間かって言ってたような気がするんだけど……。
『お問合せありがとうございます。<Life Game>サポートセンター、アインスがお受けいたします』
ウィンドウ越しに聞こえた声は、女性のような声。
GMさんと同じくらいの年齢の人のような気がする……?
「えっと、GMのツェンさんにもお伝えしたんですが……。ゲームにログインしたら、作成したアバターと違うアバターになってしまっていたのですが……」
『データ照合させていただきましたところ、プレイヤー名、アキ様でよろしかったでしょうか?』
「あ、はい。そうです」
『そちらの件について、GMのツェンより報告を頂いております。弊社サービスの不具合により、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。報告を頂いた際にこちらでデータ調査をさせていただきましたところ、ゲーム上のデータ転送にバグは見つかっておりません』
「え!? でも実際、違うんですよ!?」
『はい、そちらは存じております。弊社といたしましても、アキ様を疑ってはおりません。ただ、データ転送上の不具合が見つからないため、別の原因があるのでは、と思っております。紛らわしいお伝え方をしてしまい、申し訳ございません』
「あ、はい……。こちらこそすみません……」
つい反応してしまった自分に反省しつつ、ウィンドウ越しに頭を下げる。
僕じゃわからないんだし、今はとにかく話を聞こう。
『続けさせていただきます。……データ転送上に不具合が見つからないため、それ以外の原因が考えられます。考えられるものとしましては、アキ様のご使用されているVR機器の不具合や、パッケージインストールの不具合などが考えられます』
「なるほど……」
『そのため、アキ様がもしよろしければ……まずインストールデータの不具合の確認をさせていただければと思います』
「ん? すぐにできるんですか?」
『はい、可能です。弊社の機器よりアキ様のご使用の機器へと直接ネットワークを繋げさせていただき、こちらの機器にて確認をさせていただくことで可能です。ですが、それをさせていただくことで、アキ様の機器のデータ内部を見させていただくことになりますので……』
「あー……、大丈夫ですよ」
実際、今使っている機器もそんなに何かを入れてるわけじゃないし……。
ちょっとネットサーフィンしたりとか、ゲームしたりとかくらいだから……。
『では確認させていただきます。約10分から20分ほどで確認できるかと思いますので、終わり次第、こちらからまたご連絡をさせていただきます』
「はい、よろしくお願いします」
僕の返事を聞いてから作業に入ったのか、表示されていたウィンドウが<Life Game>のムービーへと切り替わる。
そこに映されていた街並みは、昨日確かに僕が歩いた道で……。
「ここを入った先で……」
さすがに路地の中までは映らなかったけれど、その先は目を閉じれば思い出せる。
あの路地の先で、シルフに出会って……。
ふと、右手を見てみても、そこにはゲームの中の姿と違い、少しだけ節の太い手があって……、その甲に印はない。
いや、当たり前だ……、あれはゲームの中のことで、現実とは違うんだ。
それに、たとえゲームの中だとしても……、もうそこに印は無いんだ……。
『お待たせいたしました。……アキ様?』
「あ、はい。すいません」
妙な寂しさに心を奪われてた内に、確認が終わっていたみたいだ。
少し俯いてた顔を慌てて上げて、僕は声を返した。
『申し上げにくいことですが……、インストールデータ内にも不具合の方は見つかりませんでした。そのため、考えられる原因としましては……、VR機器の不具合の可能性が高いかと思われます』
「あー……、そうなんですね……」
『申し訳ございません。したがって、VR機器の郵送による弊社での確認、修正後のご返送の形になるかと思います』
「その場合は……、お金とか期間とかは……?」
『料金につきましては、初期不良による形かと思われますので頂いておりません。ただ期間に関しましては……、早くとも1週間、ただ別の形での不具合による同じ対応の方もおられますので、状況によっては1か月ほどかかる可能性もあるかと……』
「1か月……ですか……?」
『申し訳ございません……。それよりはかからないと思いますが、状況によってはそれぐらいはかかる可能性があるかと……』
「わかり、ました……」
とりあえず……、送る準備をしないと……。
ホントに1か月かかったら、折角の夏休みも終わっちゃいそうだなぁ……。
『……アキ様』
終わったと思っていた問い合わせサポートのウィンドウから、アインスさんの声が届く。
その声は、さっきまでの落ち着いた少し硬い声と違って、なんだか少し柔らかい声に聞こえた気がした。
『ここからは、弊社としては推奨をしない方法です。特に、アキ様のような――アバターの性別の変わった方には、本来お伝えしないことです。もし、こちらの方法を取られる際は、弊社としてのサポートは受けることができなくなります』
「……え……?」
『ただ、私自身としては……精霊シルフの友達としての、あなたに伝える意味はあるかと思いましたので、お伝えさせて頂きます』
『そのまま、ゲームを続けるという、選択肢があります』
「……え?」
今、アインスさんは何を言った?
僕の聞き間違いじゃなければ、そのままゲームを続けろと……、そう言った?
けれど、それは、不具合を不具合と知りながらゲームをするということじゃ……。
『アキ様が思っていることはある程度分かります。確かにアバターのバグという不具合を放置したままのプレイとなります。実際、プレイをしている本人の身体に何が起きるかわかりません。ですので、弊社としても推奨はしておりません。……ですが、これは普通のゲームではないのです。<Life Game>は、ゲームの中でその人らしく生きるゲームです。生まれた時の姿が、理想と違うのは……現実ではよくあることです。そのため弊社としては、そのままプレイしていただくという選択肢もご用意してあります』
「それは、良いんですか……?」
『良くはないでしょう。ですので、弊社としては推奨をしない方法、とお伝えさせていただいております』
「あぁ……。つまり、推奨はしないけど、そうしても特には咎めない、けど何かが起きた時の責任も取れないと」
『はい、その通りです。そのことを理解した上で、ご本人様にてよく考えていただき、選択して頂くことは可能です』
「わかりました。よく考えてみます。ありがとうございます」
『いえ、こちらの方こそ、ご迷惑をおかけし申し訳ございません。もし現状のまま続けられる際は、また私宛にご連絡を頂けましたら幸いです』
「わかりました」
『それでは、<Life Game>サポートセンター、アインスがお受けいたしました。失礼いたします』
アインスさんの声が消えてから、数秒後にウィンドウは消えていく。
それを見送ってなお、僕は動くことができなかった。
落ち着くように息を吐き、天井を仰ぎながら瞼を閉じる。
そうして気が付かないうちに、そのままの姿勢で眠りに落ちていた。
ログアウトしてすぐに、僕は<Life Game>の公式サイトを開いていた。
さらに、正規パッケージ毎に割り当てられたシリアルナンバーや、個別設定したパスワードなどを入力し、プレイヤーページへログインする。
そこのトップページの隅にあるサポート問い合わせを開くと、新しいウィンドウが開いた。
どうやら通話タイプの問い合わせっぽい……?
でも、ツェンさんはたしかお返事に数日から何週間かって言ってたような気がするんだけど……。
『お問合せありがとうございます。<Life Game>サポートセンター、アインスがお受けいたします』
ウィンドウ越しに聞こえた声は、女性のような声。
GMさんと同じくらいの年齢の人のような気がする……?
「えっと、GMのツェンさんにもお伝えしたんですが……。ゲームにログインしたら、作成したアバターと違うアバターになってしまっていたのですが……」
『データ照合させていただきましたところ、プレイヤー名、アキ様でよろしかったでしょうか?』
「あ、はい。そうです」
『そちらの件について、GMのツェンより報告を頂いております。弊社サービスの不具合により、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。報告を頂いた際にこちらでデータ調査をさせていただきましたところ、ゲーム上のデータ転送にバグは見つかっておりません』
「え!? でも実際、違うんですよ!?」
『はい、そちらは存じております。弊社といたしましても、アキ様を疑ってはおりません。ただ、データ転送上の不具合が見つからないため、別の原因があるのでは、と思っております。紛らわしいお伝え方をしてしまい、申し訳ございません』
「あ、はい……。こちらこそすみません……」
つい反応してしまった自分に反省しつつ、ウィンドウ越しに頭を下げる。
僕じゃわからないんだし、今はとにかく話を聞こう。
『続けさせていただきます。……データ転送上に不具合が見つからないため、それ以外の原因が考えられます。考えられるものとしましては、アキ様のご使用されているVR機器の不具合や、パッケージインストールの不具合などが考えられます』
「なるほど……」
『そのため、アキ様がもしよろしければ……まずインストールデータの不具合の確認をさせていただければと思います』
「ん? すぐにできるんですか?」
『はい、可能です。弊社の機器よりアキ様のご使用の機器へと直接ネットワークを繋げさせていただき、こちらの機器にて確認をさせていただくことで可能です。ですが、それをさせていただくことで、アキ様の機器のデータ内部を見させていただくことになりますので……』
「あー……、大丈夫ですよ」
実際、今使っている機器もそんなに何かを入れてるわけじゃないし……。
ちょっとネットサーフィンしたりとか、ゲームしたりとかくらいだから……。
『では確認させていただきます。約10分から20分ほどで確認できるかと思いますので、終わり次第、こちらからまたご連絡をさせていただきます』
「はい、よろしくお願いします」
僕の返事を聞いてから作業に入ったのか、表示されていたウィンドウが<Life Game>のムービーへと切り替わる。
そこに映されていた街並みは、昨日確かに僕が歩いた道で……。
「ここを入った先で……」
さすがに路地の中までは映らなかったけれど、その先は目を閉じれば思い出せる。
あの路地の先で、シルフに出会って……。
ふと、右手を見てみても、そこにはゲームの中の姿と違い、少しだけ節の太い手があって……、その甲に印はない。
いや、当たり前だ……、あれはゲームの中のことで、現実とは違うんだ。
それに、たとえゲームの中だとしても……、もうそこに印は無いんだ……。
『お待たせいたしました。……アキ様?』
「あ、はい。すいません」
妙な寂しさに心を奪われてた内に、確認が終わっていたみたいだ。
少し俯いてた顔を慌てて上げて、僕は声を返した。
『申し上げにくいことですが……、インストールデータ内にも不具合の方は見つかりませんでした。そのため、考えられる原因としましては……、VR機器の不具合の可能性が高いかと思われます』
「あー……、そうなんですね……」
『申し訳ございません。したがって、VR機器の郵送による弊社での確認、修正後のご返送の形になるかと思います』
「その場合は……、お金とか期間とかは……?」
『料金につきましては、初期不良による形かと思われますので頂いておりません。ただ期間に関しましては……、早くとも1週間、ただ別の形での不具合による同じ対応の方もおられますので、状況によっては1か月ほどかかる可能性もあるかと……』
「1か月……ですか……?」
『申し訳ございません……。それよりはかからないと思いますが、状況によってはそれぐらいはかかる可能性があるかと……』
「わかり、ました……」
とりあえず……、送る準備をしないと……。
ホントに1か月かかったら、折角の夏休みも終わっちゃいそうだなぁ……。
『……アキ様』
終わったと思っていた問い合わせサポートのウィンドウから、アインスさんの声が届く。
その声は、さっきまでの落ち着いた少し硬い声と違って、なんだか少し柔らかい声に聞こえた気がした。
『ここからは、弊社としては推奨をしない方法です。特に、アキ様のような――アバターの性別の変わった方には、本来お伝えしないことです。もし、こちらの方法を取られる際は、弊社としてのサポートは受けることができなくなります』
「……え……?」
『ただ、私自身としては……精霊シルフの友達としての、あなたに伝える意味はあるかと思いましたので、お伝えさせて頂きます』
『そのまま、ゲームを続けるという、選択肢があります』
「……え?」
今、アインスさんは何を言った?
僕の聞き間違いじゃなければ、そのままゲームを続けろと……、そう言った?
けれど、それは、不具合を不具合と知りながらゲームをするということじゃ……。
『アキ様が思っていることはある程度分かります。確かにアバターのバグという不具合を放置したままのプレイとなります。実際、プレイをしている本人の身体に何が起きるかわかりません。ですので、弊社としても推奨はしておりません。……ですが、これは普通のゲームではないのです。<Life Game>は、ゲームの中でその人らしく生きるゲームです。生まれた時の姿が、理想と違うのは……現実ではよくあることです。そのため弊社としては、そのままプレイしていただくという選択肢もご用意してあります』
「それは、良いんですか……?」
『良くはないでしょう。ですので、弊社としては推奨をしない方法、とお伝えさせていただいております』
「あぁ……。つまり、推奨はしないけど、そうしても特には咎めない、けど何かが起きた時の責任も取れないと」
『はい、その通りです。そのことを理解した上で、ご本人様にてよく考えていただき、選択して頂くことは可能です』
「わかりました。よく考えてみます。ありがとうございます」
『いえ、こちらの方こそ、ご迷惑をおかけし申し訳ございません。もし現状のまま続けられる際は、また私宛にご連絡を頂けましたら幸いです』
「わかりました」
『それでは、<Life Game>サポートセンター、アインスがお受けいたしました。失礼いたします』
アインスさんの声が消えてから、数秒後にウィンドウは消えていく。
それを見送ってなお、僕は動くことができなかった。
落ち着くように息を吐き、天井を仰ぎながら瞼を閉じる。
そうして気が付かないうちに、そのままの姿勢で眠りに落ちていた。
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