手のひらの上

一色 遥

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手のひらの上

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「人生に偶然なんかない。あるのは必然と、偶然と思うほどに予想できなかった必然だ」

 昔、先輩がそんなことを言っていた。
 その時は意味が分からなかったけれど、その言葉の意味に、今ならなんとなく分かる気がする。

 偶然と思うほどに予想できなかった必然――それはつまり、何かしらのフラグが立っていたにも関わらず、それに気付くことが出来ていなかった、ということだ。
 だからこそ、僕らは必然的に起こった現象に、偶然と言葉を当てて納得しようとする。
 そんなことは、ないのに。

「けれど、先輩。それならこれも……必然ってやつなんですかね?」

 まるでペンキを零したかのように真っ赤に染まるアスファルトの上で、僕は煙草に火を付け、一人呟く。
 味はよく分からないけれど、その行動をするだけで、多少落ち着きを取り戻せる気がしたからだ。

 吸うときの癖で持ち上げていた顔を真っ直ぐに戻せば、目に飛び込んでくる状況。
 上半身と下半身に分かれた人。
 無理矢理引きちぎったかのようにぶちまけられた臓物。
 そして、おびただしいほどの血。

 先輩、と呼ばれていた女性が、そこで事切れていた。

「まぁ、必然ってやつではあるんでしょう。少なくとも、あなたはこうなる可能性があることを、分かっていたはずなので」

 それでも、僕が先輩を破壊する役を担うことになるとは思ってもみなかったのだけれど。
 けれど、彼女は彼女で……やるべき事はやり終えたみたいな事を言っていた。
 だとすれば、この先の未来は……確定された必然で動き続けるのかも知れない。

「先輩。僕はこれでも、あなたのことを尊敬していたんですよ。含蓄ありそうな言葉とか、理解不能な行為とか……色々ありましたけども」

 この超大型チェーンソーブラッドスコールの使い方だって、あなたに教わったんですから。
 管理されきったクソみたいな世界での生き方とか、三丁目のお爺さんの元カノの話とか、色々教えてくれたのはあなただったんですから。

 だからこそ、あなたの行った行為はよくわからない。
 この監視されている世界で、運営側に危害を加えようとすればどうなるか……分かっているはずなのに。
 けれど、それはつまり――――

「偶然と思うほどに突発的な必然で、僕に殺されることを狙ったということに他ならない。やるべき事をやり終えた、というのも、その一部なのかも知れない」

「だとすれば、僕はこの後どうすれば良いのだろうか? 僕でも予測が出来る必然へ道を進めるべきか」

「それとも、僕では予測がつかない偶然という名の必然へ、足を進めるべきなのか」

 分からない。
 けれど、僕は……ひとまず彼女のお墓をたてることにした。

 ◇

 この行為すらも予想されていたと知るのは、この事件から数年が経ってからのことである。
 復活した先輩と再び対峙した時、僕はそれに気付くのだった。
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