乗客という仕事

一色 遥

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乗客という仕事

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 ――あれがデネブ、アルタイル、ベガ。
 夏の空を彩る、有名な三角形。
 その中でも近しい二つの星、アルタイルとベガの距離は約15光年。
 つまり、光の速さで15年ほどかかる距離らしい。

「それを調べようとした人達は、一体何を考えてそんな事を調べたんだろうね」

 母に貰った絵本を閉じて、真っ暗闇に映る星々を見上げてみても、なにもわからない。
 似たような白や青や赤や黄色が至る所に光っているだけ。
 それでも、何かを感じて調べたんだろう。

「そして人は地面を離れ、空を飛び、月に降り立った」

 そこまでくると、最早執念というものなんじゃないだろうか。
 少しでも先へ、遠くへみたいな……そんな執念のような何か。
 知らないモノを探求するために生きて、そして死ぬ前に遺して。

「そうして、人々は大地を捨てた」

 私の世代に語られる神話のようなものは、そんな始まりから物語が幕を開ける。
 大地に残った大地人と、宇宙そらを目指した宇宙人そらびと
 何年も、何十年も、何百年も……何千年どころか何十万年前の話だ。

「末裔は今、銀河鉄道スバルでベガを目指している」

 アルタイルからベガへ。
 まるで神話時代から残る、とある島国の物語みたい。
 たしかあれは……恋人の物語だっただろうか?
 語り継がれる物語は、極力書き留めて本にして、それが駄目になりかけたらまた本にしてと続けているけれど……この物語はもうすでに殆どが失われていた。

 そういった物語は他にも沢山ある。
 だからこそ、乗客と呼ばれる仕事をこなす私達は、それをまた物語に仕上げるのだ。

「そうだな……アルタイルとベガは恋人って話があったはずだから、よし」

 昔々、アルタイルとベガは同じ星であり、仲睦まじい恋人が住んでいた。
 しかし、突如訪れた災厄により、星が割れ、二人は離ればなれになってしまった!

「うんうん。こんな感じで……」

 離ればなれになってしまった二人は、自らが無事だと連絡を取ろうとする。
 しかし、その手段が無く途方に暮れていた時、一羽の鳥がアルタイルに降りたった。
 その鳥の名前はスバル。
 かくしてスバルは、アルタイルからベガへと飛ぶ使命を帯び、川のように連なる小惑星地帯を抜け、ベガへと……。

「辿り着くことが出来た。ってしたいけれど、それは私の希望が詰まってる、かな?」

 アルタイルからベガへは光の速さで15年かかるほどの距離。
 この物語の終わりは、次の世代に託すとしよう。

「願わくば幸せな結末で、本を綴じて貰えたら」
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