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ひとつの想い
ひとつの想い 4
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大助との通話を終えて、ベッドに仰向けになる。
大助と住んでいる家とも、大助の実家とも違う天井。
それなのに、見覚えのある景色をぼんやりと眺めながら、頭を空っぽにしたときに思い浮かぶのは。
恵さんの声。
仕事を終えたあとの、少し疲れた背中。
穏やかな、大事なものを慈しむみたいな……それでいて、僕ではない誰かに向けたような微笑み。
これって、僕が……民人が感じてるものなのかな。
「綺羅よりも」短く切った、髪の毛をつまむ。
初めて彼に会ったとき……手際よく、僕の長かった髪をまとめてくれていたっけ。
あの感覚が、鮮明に思い出されるのは……
あの温かい手が、何度も綺羅の髪に触れてきたから。
「恵さんが、俺の髪の毛……綺麗って言ってくれたから」
それで、腰まで届くくらいに、髪を伸ばして。
髪を結んでと甘えられるくらい幼い頃から、恵さんが近くにいて。
その時間が、たまらなく嬉しくて。
「……!」
窓に、パタパタと大粒の雨が当たる音で、我に返る。
口に出していた言葉、感覚、覚えてる。
でも、違う。
「今、僕……何言ってたんだ」
無意識に口をついて出た言葉に、自分で驚く。
僕が今、感じていたのは……民人として体験したものじゃ、ない。
でも、わかるんだ。
恵さんと話している時に感じていた不思議な感覚に、名前がついてしまって。
気づいたら涙が溢れていて、止まらなくて。
彼の背中を見るたびに、愛おしくて、胸が張り裂けそうになるこの感覚……。
いつも「僕」が……大助の背中を見るたびに感じている、あの感情を。
「……っ」
左手の指輪を撫でながら、呼吸を落ち着ける。
大丈夫、今の感情は、僕のじゃない。
「綺羅は……好きだったんだ、恵さんのことが」
大助と住んでいる家とも、大助の実家とも違う天井。
それなのに、見覚えのある景色をぼんやりと眺めながら、頭を空っぽにしたときに思い浮かぶのは。
恵さんの声。
仕事を終えたあとの、少し疲れた背中。
穏やかな、大事なものを慈しむみたいな……それでいて、僕ではない誰かに向けたような微笑み。
これって、僕が……民人が感じてるものなのかな。
「綺羅よりも」短く切った、髪の毛をつまむ。
初めて彼に会ったとき……手際よく、僕の長かった髪をまとめてくれていたっけ。
あの感覚が、鮮明に思い出されるのは……
あの温かい手が、何度も綺羅の髪に触れてきたから。
「恵さんが、俺の髪の毛……綺麗って言ってくれたから」
それで、腰まで届くくらいに、髪を伸ばして。
髪を結んでと甘えられるくらい幼い頃から、恵さんが近くにいて。
その時間が、たまらなく嬉しくて。
「……!」
窓に、パタパタと大粒の雨が当たる音で、我に返る。
口に出していた言葉、感覚、覚えてる。
でも、違う。
「今、僕……何言ってたんだ」
無意識に口をついて出た言葉に、自分で驚く。
僕が今、感じていたのは……民人として体験したものじゃ、ない。
でも、わかるんだ。
恵さんと話している時に感じていた不思議な感覚に、名前がついてしまって。
気づいたら涙が溢れていて、止まらなくて。
彼の背中を見るたびに、愛おしくて、胸が張り裂けそうになるこの感覚……。
いつも「僕」が……大助の背中を見るたびに感じている、あの感情を。
「……っ」
左手の指輪を撫でながら、呼吸を落ち着ける。
大丈夫、今の感情は、僕のじゃない。
「綺羅は……好きだったんだ、恵さんのことが」
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