52 / 65
ふたりの嘘
ふたりの嘘 1
しおりを挟む
出発の日はとんとん拍子で決まり、あっという間に訪れてしまった。
荷物はあらかじめ、宅配で送ってしまい、一泊分のリュックだけを携えて。
本当は、中央で大助とお別れと思っていたけれど……、西部まで同行してくれることになった。
鉄道に揺られながら、2人で話をする。
「それにしても、どんな方なの?」
大助がいう、西部で頼れる人というのは、やはり以前大助が会っていた「綺羅の親しい人」で、なんと……東さんの親戚だという。
東さん自身は本当に、綺羅の知り合いではなかったようだけれど。
その人はなんでも、会社を経営しており、たまたま会社の手伝いをしてくれる人を探しているそうだ。
会社の手伝いなんて、経験がないから不安だったけれど……。
先方からは、二つ返事でOKをもらえたのだった。
それだけでなく、住み込みで働かせてもらえるということで、衣食住が保証された、またとないいい話だった。
……僕の仕事って、今のところ東さん伝手でしかないのたけれど、いい話ばかりで頭が上がらない。
肝心の東さんは残念ながら仕事なので、「会ったらよろしく」という伝言をたのまれた。
「あ、ああ……俺は正直そこまで親しくないけど。まあ年相応に落ち着いてる人……かな。東さんと血が繋がってるとは思えないな」
「へえ、遺伝子って不思議」
「まったくだよ」
顔を見合わせ、けらけらと笑う。
それから、大助が少しだけ真面目な顔に戻った。
「まあ……会ってからのお楽しみ……かな。本当に、頼っていい人だからね。悔しいけど」
自惚れた考えかもしれないけれど、嫉妬深い大助が、(嫉妬は感じるが)これほどまでに僕を委ねられる人って、どんな人なんだろう。
「……指輪、絶対に、外さないからね」
それでも僕は、大助が不安にならないように。
せめて、僕たちの結ばれた証を、大切にしたかった。
「うん、俺も」
大助は、照れくさそうに、でも嬉しそうに笑う。
それからも、他愛もない話は続き。
長いと思っていた鉄道の旅はあっという間に終わってしまった。
中央から西部まで4時間。
そこから、目的地付近までは、鈍行を乗り継いで2時間。
たどり着く頃には夕方になってしまうので、実際に先方に会うのは明日ということになっている。
それに……大助とはもう、しばらく会えないのだから。
近くのホテルを押さえて、そこで一晩、大助と過ごすことにしていた。
夕飯を済ませて、チェックインしたのが20時くらい。
ツインのその部屋は、一泊にはもったいない広々としたきれいな部屋だった。
部屋に入り、荷物を整理していると、大助に声をかけられる。
「……民人くん、疲れただろうから。先シャワー浴びて、今日は早く寝なよ」
その言葉に、少しだけ寂しさがこみ上げる。
だって、大助といられる時間はもう、限られてるのに。
「大助、疲れてるの」
「俺のことはいいから。民人くんのほうが疲れてるでしょう」
背中を向けて、荷ほどきをしながらそんなことをいう。
表情が、読み取れない。
「……部屋だって、ツインだし。ダブルでいいだろ」
「ツインのほうが広いじゃん」
いつもはあれだけ、シングルベッドで僕にベタベタしているのに。
今日はびっくりするくらい、そっけない。
時々、僕から大助を求めることを期待して、わざとそっけない態度を取ることはあるけど、今日はそういうわけでは、なさそうだ。
僕とあからさまに、距離をとっている。
「明日、から、会えなくなるのに」
「……」
「ねえ、大助」
荷ほどきを止めない大助を、後ろから抱きしめる。
大助は、しばらくして、ため息を漏らす。
「……だから、電話、毎日するって」
「電話じゃ、こういうことできない」
「……」
僕の手に、温かい大助の手が、重なる。
「ねえ大助……今日くらいずっと、一緒にいてほしい」
「そんなの……」
「シャワーも……一緒に、浴びよ」
四六時中、離れたくない。
大助を、感じていたい。
さっきから少しだけ冷たかった……突き放すような大助の声は、いつもの柔らかい声に変わる。
「……民人くん、明日は、大事な日、なんだよ」
「うん、わかってる……だから大助に、元気……もらいたい」
彼はようやく、荷ほどきの手を止めて、こちらを向き直す。
そして、僕の頬に手を添えた。
「……俺、一緒に風呂入ったり、一緒のベッドで寝たりしたら……民人くん今日、寝れなくなるよ。俺、たぶん止まんないよ」
「大助……」
……だから、わざと、僕を気遣って。
「それでも、いいの?」
赤い瞳は、熱情を帯びている。
ああ、たまらない、僕を求める、僕の好きな人の瞳。
そんな表情されたら、僕だってもう、止められない。
ごめん、僕のことを思って、止めてくれてたのに。
「大助、止めないで。僕が大助の恋人ってこと、いっぱい、できるだけ長く、残し……」
最後まで言葉を紡ぐ前に、熱い唇が押し付けられる。
「……無理、しないでね」
荷物はあらかじめ、宅配で送ってしまい、一泊分のリュックだけを携えて。
本当は、中央で大助とお別れと思っていたけれど……、西部まで同行してくれることになった。
鉄道に揺られながら、2人で話をする。
「それにしても、どんな方なの?」
大助がいう、西部で頼れる人というのは、やはり以前大助が会っていた「綺羅の親しい人」で、なんと……東さんの親戚だという。
東さん自身は本当に、綺羅の知り合いではなかったようだけれど。
その人はなんでも、会社を経営しており、たまたま会社の手伝いをしてくれる人を探しているそうだ。
会社の手伝いなんて、経験がないから不安だったけれど……。
先方からは、二つ返事でOKをもらえたのだった。
それだけでなく、住み込みで働かせてもらえるということで、衣食住が保証された、またとないいい話だった。
……僕の仕事って、今のところ東さん伝手でしかないのたけれど、いい話ばかりで頭が上がらない。
肝心の東さんは残念ながら仕事なので、「会ったらよろしく」という伝言をたのまれた。
「あ、ああ……俺は正直そこまで親しくないけど。まあ年相応に落ち着いてる人……かな。東さんと血が繋がってるとは思えないな」
「へえ、遺伝子って不思議」
「まったくだよ」
顔を見合わせ、けらけらと笑う。
それから、大助が少しだけ真面目な顔に戻った。
「まあ……会ってからのお楽しみ……かな。本当に、頼っていい人だからね。悔しいけど」
自惚れた考えかもしれないけれど、嫉妬深い大助が、(嫉妬は感じるが)これほどまでに僕を委ねられる人って、どんな人なんだろう。
「……指輪、絶対に、外さないからね」
それでも僕は、大助が不安にならないように。
せめて、僕たちの結ばれた証を、大切にしたかった。
「うん、俺も」
大助は、照れくさそうに、でも嬉しそうに笑う。
それからも、他愛もない話は続き。
長いと思っていた鉄道の旅はあっという間に終わってしまった。
中央から西部まで4時間。
そこから、目的地付近までは、鈍行を乗り継いで2時間。
たどり着く頃には夕方になってしまうので、実際に先方に会うのは明日ということになっている。
それに……大助とはもう、しばらく会えないのだから。
近くのホテルを押さえて、そこで一晩、大助と過ごすことにしていた。
夕飯を済ませて、チェックインしたのが20時くらい。
ツインのその部屋は、一泊にはもったいない広々としたきれいな部屋だった。
部屋に入り、荷物を整理していると、大助に声をかけられる。
「……民人くん、疲れただろうから。先シャワー浴びて、今日は早く寝なよ」
その言葉に、少しだけ寂しさがこみ上げる。
だって、大助といられる時間はもう、限られてるのに。
「大助、疲れてるの」
「俺のことはいいから。民人くんのほうが疲れてるでしょう」
背中を向けて、荷ほどきをしながらそんなことをいう。
表情が、読み取れない。
「……部屋だって、ツインだし。ダブルでいいだろ」
「ツインのほうが広いじゃん」
いつもはあれだけ、シングルベッドで僕にベタベタしているのに。
今日はびっくりするくらい、そっけない。
時々、僕から大助を求めることを期待して、わざとそっけない態度を取ることはあるけど、今日はそういうわけでは、なさそうだ。
僕とあからさまに、距離をとっている。
「明日、から、会えなくなるのに」
「……」
「ねえ、大助」
荷ほどきを止めない大助を、後ろから抱きしめる。
大助は、しばらくして、ため息を漏らす。
「……だから、電話、毎日するって」
「電話じゃ、こういうことできない」
「……」
僕の手に、温かい大助の手が、重なる。
「ねえ大助……今日くらいずっと、一緒にいてほしい」
「そんなの……」
「シャワーも……一緒に、浴びよ」
四六時中、離れたくない。
大助を、感じていたい。
さっきから少しだけ冷たかった……突き放すような大助の声は、いつもの柔らかい声に変わる。
「……民人くん、明日は、大事な日、なんだよ」
「うん、わかってる……だから大助に、元気……もらいたい」
彼はようやく、荷ほどきの手を止めて、こちらを向き直す。
そして、僕の頬に手を添えた。
「……俺、一緒に風呂入ったり、一緒のベッドで寝たりしたら……民人くん今日、寝れなくなるよ。俺、たぶん止まんないよ」
「大助……」
……だから、わざと、僕を気遣って。
「それでも、いいの?」
赤い瞳は、熱情を帯びている。
ああ、たまらない、僕を求める、僕の好きな人の瞳。
そんな表情されたら、僕だってもう、止められない。
ごめん、僕のことを思って、止めてくれてたのに。
「大助、止めないで。僕が大助の恋人ってこと、いっぱい、できるだけ長く、残し……」
最後まで言葉を紡ぐ前に、熱い唇が押し付けられる。
「……無理、しないでね」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる