ふたつの嘘

noriko

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ふたりの嘘

ふたりの嘘 1

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出発の日はとんとん拍子で決まり、あっという間に訪れてしまった。

荷物はあらかじめ、宅配で送ってしまい、一泊分のリュックだけを携えて。

本当は、中央で大助とお別れと思っていたけれど……、西部まで同行してくれることになった。

鉄道に揺られながら、2人で話をする。

「それにしても、どんな方なの?」

大助がいう、西部で頼れる人というのは、やはり以前大助が会っていた「綺羅の親しい人」で、なんと……東さんの親戚だという。

東さん自身は本当に、綺羅の知り合いではなかったようだけれど。

その人はなんでも、会社を経営しており、たまたま会社の手伝いをしてくれる人を探しているそうだ。

会社の手伝いなんて、経験がないから不安だったけれど……。

先方からは、二つ返事でOKをもらえたのだった。

それだけでなく、住み込みで働かせてもらえるということで、衣食住が保証された、またとないいい話だった。

……僕の仕事って、今のところ東さん伝手でしかないのたけれど、いい話ばかりで頭が上がらない。

肝心の東さんは残念ながら仕事なので、「会ったらよろしく」という伝言をたのまれた。

「あ、ああ……俺は正直そこまで親しくないけど。まあ年相応に落ち着いてる人……かな。東さんと血が繋がってるとは思えないな」

「へえ、遺伝子って不思議」

「まったくだよ」

顔を見合わせ、けらけらと笑う。

それから、大助が少しだけ真面目な顔に戻った。

「まあ……会ってからのお楽しみ……かな。本当に、頼っていい人だからね。悔しいけど」

自惚れた考えかもしれないけれど、嫉妬深い大助が、(嫉妬は感じるが)これほどまでに僕を委ねられる人って、どんな人なんだろう。

「……指輪、絶対に、外さないからね」

それでも僕は、大助が不安にならないように。

せめて、僕たちの結ばれた証を、大切にしたかった。

「うん、俺も」

大助は、照れくさそうに、でも嬉しそうに笑う。



それからも、他愛もない話は続き。

長いと思っていた鉄道の旅はあっという間に終わってしまった。

中央から西部まで4時間。

そこから、目的地付近までは、鈍行を乗り継いで2時間。

たどり着く頃には夕方になってしまうので、実際に先方に会うのは明日ということになっている。

それに……大助とはもう、しばらく会えないのだから。

近くのホテルを押さえて、そこで一晩、大助と過ごすことにしていた。



夕飯を済ませて、チェックインしたのが20時くらい。

ツインのその部屋は、一泊にはもったいない広々としたきれいな部屋だった。

部屋に入り、荷物を整理していると、大助に声をかけられる。

「……民人くん、疲れただろうから。先シャワー浴びて、今日は早く寝なよ」

その言葉に、少しだけ寂しさがこみ上げる。

だって、大助といられる時間はもう、限られてるのに。

「大助、疲れてるの」

「俺のことはいいから。民人くんのほうが疲れてるでしょう」

背中を向けて、荷ほどきをしながらそんなことをいう。

表情が、読み取れない。

「……部屋だって、ツインだし。ダブルでいいだろ」

「ツインのほうが広いじゃん」

いつもはあれだけ、シングルベッドで僕にベタベタしているのに。

今日はびっくりするくらい、そっけない。

時々、僕から大助を求めることを期待して、わざとそっけない態度を取ることはあるけど、今日はそういうわけでは、なさそうだ。

僕とあからさまに、距離をとっている。

「明日、から、会えなくなるのに」

「……」

「ねえ、大助」

荷ほどきを止めない大助を、後ろから抱きしめる。

大助は、しばらくして、ため息を漏らす。

「……だから、電話、毎日するって」

「電話じゃ、こういうことできない」

「……」

僕の手に、温かい大助の手が、重なる。

「ねえ大助……今日くらいずっと、一緒にいてほしい」

「そんなの……」

「シャワーも……一緒に、浴びよ」

四六時中、離れたくない。

大助を、感じていたい。

さっきから少しだけ冷たかった……突き放すような大助の声は、いつもの柔らかい声に変わる。

「……民人くん、明日は、大事な日、なんだよ」

「うん、わかってる……だから大助に、元気……もらいたい」

彼はようやく、荷ほどきの手を止めて、こちらを向き直す。

そして、僕の頬に手を添えた。

「……俺、一緒に風呂入ったり、一緒のベッドで寝たりしたら……民人くん今日、寝れなくなるよ。俺、たぶん止まんないよ」

「大助……」

……だから、わざと、僕を気遣って。

「それでも、いいの?」

赤い瞳は、熱情を帯びている。

ああ、たまらない、僕を求める、僕の好きな人の瞳。

そんな表情されたら、僕だってもう、止められない。

ごめん、僕のことを思って、止めてくれてたのに。

「大助、止めないで。僕が大助の恋人ってこと、いっぱい、できるだけ長く、残し……」

最後まで言葉を紡ぐ前に、熱い唇が押し付けられる。

「……無理、しないでね」
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