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僕らのための嘘
僕らのための嘘 3
しおりを挟む悩んだ結果、当人達にぶつけるのが最善……というより、もう当人達でなんとかしてほしい、という気持ちが強くなったマリアは、いつも登下校で立ち寄るマンションの前に来ていた。
(来ちゃった……1回すれ違ったくらいの高校生が訪ねて、何をどこから話すべきかしら。そもそも部屋番号とか知らないし……)
オートロックの玄関前で、珍しく己の浅はかさに頭を抱える。
(ああ、せめて杏奈に一言言ってもらえば良かったかも……でもあんまり巻き込みたくないし……)
杏奈に連絡して出直すべきか、と右往左往していると、背後で自動ドアが開く音がした。
「あっ……」
今のところ後ろめたい行為はしていないが、焦って振り返ると、そこには幸運にも、目当ての人間が立っていた。
茶髪で高身長の青年。
あの家庭教師の恋人。
彼はマリアに軽く会釈をしてから、オートロックのキーを開けようとした。
「あの、すみません」
またとない機会に、とにかく、声を掛けた。
「ん? あれ、君は確か、杏奈ちゃんの……」
家庭教師の恋人……大助は少し考えてから、マリアのことを思い出したようだった。
それはマリアにとっても都合がよかった。
「……こんにちは、突然すみません……、覚えていてくださったみたいで、話が早くて助かります」
「いや、杏奈ちゃんと一緒に居たときに、俺と民人くんのこと、すごい目で見てたから。未成年には刺激が強かったかな……」
彼が照れながらそう言うので、つい、はじめて二人を目にしたときの光景を思い出し、顔に熱が集まる。
「し、刺激っ……す、すみません。でもその、朝からああいう姿はちょっと控えた方が……」
「あ、ああ、ごめんなさい……」
しゅんとする彼が謝り、しばらく沈黙が流れる。
今日はそう言う話をしに来たわけでは無いのだ。
マリアは深呼吸をして、覚悟を決める。
「それはそうとして……実は、あなたに話したいことがあって」
心当たりなどあるはずもない大助は、いぶかしげな表情で続ける。
「え? 俺に? 民人くんならまだわかるけど……」
どうしたら率直に聞いてもらえるだろう、と思案したが、彼にはこれしかない、と覚悟を決める。
「……綺羅くんのことで、話があります」
その言葉を聞いて、大助は、マリアの予想通りに顔色を変える。
そして、あたりを見渡して、わざとらしく小さな声で、マリアに耳打ちする。
「聞かないわけにはいかないね。でも、部屋には民人くんいるから……。ここで立ち話で済む内容、でもないよね」
――綺羅の話は、恋人には聞かれたくないようだった。
「では、近くのカフェとかで話しませんか?」
大助は困ったように笑う。
「そうするしかないよな。……本当は高校生の女の子と2人はちょっと気が引けるんだけど」
マリアも正直、男性とカフェに行くのは抵抗があった。
「ひらけたところならかまわないですよ。あなたは……下心も何もないと思いますので」
彼が恋人以外に一切興味がなさそうな素振りがあるから、ようやく行っても良いと思えるのであるが。
「あはは、それは助かるよ。なら、すぐ近くにちょうどいいところがあるから、そこにしよう。……人通りは多いし、安全なところだから。多分、俺の知り合いがいるし」
そう言って歩きながら、彼は誰かに電話をかけ始めた。
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