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かくしごと、またひとつ
かくしごと、またひとつ 1
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大助の長い夏休みが終わって、もうすく2ヶ月が経とうとしていた。
講義が始まり、それからアルバイトも続けているので、大助は朝早く出かけて夕方に帰宅することが多い。
先月と比べて彼が家にいる時間はぐっと減った。
とはいえ、夏休み前だってそうだった気がする。
唯一変わったのは僕たちの関係だ。
僕たちはあくまでも、少し行きすぎた親友だった。
お互いどう思っていたかはさておき、建前上は。
それがあの日、僕たちは恋人同士になって、夜を一緒に過ごすのが当たり前になった。
夏が終わり、その当たり前が、少し薄れつつある。
一切なくなってしまったわけではない。
ただ、平日は結構、朝と晩に一言交わすだけ、みたいな日も増えてきた。
大助が数日、西部に出かけたときにも感じたことだけれど……。
僕はたかだか数日、大助と一緒にいられないことで物寂しく感じてしまう。
それだけ大助に依存しているわけで、良くないとはわかっている。
だから、はじめはどうなることかと自分でも心配していたけれど、案外上手くいっている、と思う。
多分、大助に甘えてばかりいるのを辞めたおかげだと思う。
その日、大助が帰ってきたのは、19時過ぎ。
いつもより早い帰宅だった。
ふたりで食事を済ませて、それぞれの用事を済ませて、21時。
入浴を済ませ、適当に下着とシャツを着てから、先に入浴していた大助の部屋に向かう。
「大助、入っていい?」
ノックとともに声をかけると、大助の返事が聞こえる。
それを聞いて、静かに扉を開けた。
「どうしたの?」
なんて言うけれど、大助だってわかっていたと思う。
だって、上半身に何も着ていないし。
大助も待ってくれていたのかも。
「よ、夜這い、にきた」
緊張してる僕の態度を察してか、大助は朗らかに笑う。
「夜這いって……そうやって宣言するもんなの?」
「知らないけど……せっかく久々に、時間取れるから。いい?」
そういうと、にこりと笑って手を差し伸べる。
「時間あってもなくても、良いに決まってるじゃん」
たまらず服を脱ぎ捨ててから、大助に抱きとめられるようにして、ベッドに倒れ込む。
「今日は俺から誘いに行こうと思ってたのに」
「僕が来た方が早いでしょ」
大助の顔を引き寄せて、唇を重ねる。
彼はにこりと笑ってから、怪訝な顔をする。
「なんか民人くん、最近積極的だよね」
「だめ?」
「ううん、全然。民人くんから誘ってくれるの、嬉しいけど。ただ、なんでだろうなって」
「ああ……東さんのおかげかなぁ」
「は?」
特に意識せず名前を出してしまったが、大助の顔色が一瞬で変わる。
それで、しまった、と慌てて弁明することになった。
「いや、ただ大助が夏休みが終わってから、あんまり二人の時間が取れなくて寂しいって話をしたら、アドバイスくれて。それだけ!」
大助はへの字口で僕を見つめる。
「なんて?」
「大助にしてもらってばかりじゃなくて、もっと僕から誘ったほうがいいって……それが東さんと千菜さんが長続きしてる秘訣だって!」
それを聞いて、彼は前髪をかきあげてからため息をつく。
「ふーん……まあ、なにもないとはわかってるけど……やっぱちょっと悔しいな」
「う、うん。本当になにもないから」
「まあいいや。おかげで民人くんが積極的になってくれたんだから、たまには感謝でもしないとな」
大助の表情が再び柔らかくなり、僕の腰に手を回す。
「でも、俺ばっかり嫉妬してさ……。たまには民人くんが妬いてるところとか見たいな」
そういう彼に応えて、記憶を思い起こす。
が、思い当たることもなく。
「そんなに妬いて欲しいなら、妬けるような話してみてよ」
僕が返すと、彼は少し考え込んだのち。
「……できないな」
とのたまう。
「……それ、どっち? 言えないようなことしてるってこと? それとも言えるようなネタがないってこと?」
当然、後者だと思って聞いた。
……なんてものすごく、うぬぼれているけれど。
彼からそれくらい情熱的に、僕は、その……愛されてる自覚があったから。
でも、彼はなにか悪いことを思いついたような笑みで、僕に言い放つ。
「どっちの意味かは……内緒かな」
冗談なのか、それとも真実なのか。
曖昧な返事に少し狼狽える。
僕を嫉妬させようと思って言い放った冗談かもしれないけど、もし、真実だったら……なんて思ってしまって、思わず彼を見つめる。
「どう? 嫉妬した?」
「……言わない」
あるかどうかもわからない何かに妬いたなんて。
にこり、と笑う彼に、ああ、彼の手中にハマったな……と思ったら悔しくて、彼の首筋に思い切り吸い付く。
「あ、ちょっと……」
大助にいつもされているように、場所を変えて赤い跡を散らす。
くっきりと残った跡を見て、大助が普段、好んで僕に跡を残す気持ちが少しわかった。
えもいわれぬ高揚感、好きな人と交わった証。
僕の行動にただ硬直していた彼だったけれど、そんな表情の彼に顔を近づければ、抵抗なく僕の口吻を受け入れる。
静かな部屋に、舌が交わる水音と、互いの吐息、そして、時折混じる木の軋む音。
時折ノドを鳴らす彼を見ると、赤みがかった瞳が僕を物欲しそうに見つめていて、背筋がぞくりとする。
絡み合う舌が離れていき、手の甲で口を拭った彼は、自らの首筋を撫でながらつぶやく。
「……明日講義なのに」
「何か、困ることでもあるの?」
「いや、普通にダチとかにこういうことしてるのバレたら恥ずかしいし」
「ふうん」
僕には散々付けておいて、今更そこを気にするんだ……と少しあきれる。
「僕もすごく見られてると思うんだけど……」
大助は、そういうことか……とつぶやき、続ける。
「そりゃ、見せてるから。とくにあのおまわりさんに」
「じゃあ、僕だって見せつけていいよね」
講義が始まり、それからアルバイトも続けているので、大助は朝早く出かけて夕方に帰宅することが多い。
先月と比べて彼が家にいる時間はぐっと減った。
とはいえ、夏休み前だってそうだった気がする。
唯一変わったのは僕たちの関係だ。
僕たちはあくまでも、少し行きすぎた親友だった。
お互いどう思っていたかはさておき、建前上は。
それがあの日、僕たちは恋人同士になって、夜を一緒に過ごすのが当たり前になった。
夏が終わり、その当たり前が、少し薄れつつある。
一切なくなってしまったわけではない。
ただ、平日は結構、朝と晩に一言交わすだけ、みたいな日も増えてきた。
大助が数日、西部に出かけたときにも感じたことだけれど……。
僕はたかだか数日、大助と一緒にいられないことで物寂しく感じてしまう。
それだけ大助に依存しているわけで、良くないとはわかっている。
だから、はじめはどうなることかと自分でも心配していたけれど、案外上手くいっている、と思う。
多分、大助に甘えてばかりいるのを辞めたおかげだと思う。
その日、大助が帰ってきたのは、19時過ぎ。
いつもより早い帰宅だった。
ふたりで食事を済ませて、それぞれの用事を済ませて、21時。
入浴を済ませ、適当に下着とシャツを着てから、先に入浴していた大助の部屋に向かう。
「大助、入っていい?」
ノックとともに声をかけると、大助の返事が聞こえる。
それを聞いて、静かに扉を開けた。
「どうしたの?」
なんて言うけれど、大助だってわかっていたと思う。
だって、上半身に何も着ていないし。
大助も待ってくれていたのかも。
「よ、夜這い、にきた」
緊張してる僕の態度を察してか、大助は朗らかに笑う。
「夜這いって……そうやって宣言するもんなの?」
「知らないけど……せっかく久々に、時間取れるから。いい?」
そういうと、にこりと笑って手を差し伸べる。
「時間あってもなくても、良いに決まってるじゃん」
たまらず服を脱ぎ捨ててから、大助に抱きとめられるようにして、ベッドに倒れ込む。
「今日は俺から誘いに行こうと思ってたのに」
「僕が来た方が早いでしょ」
大助の顔を引き寄せて、唇を重ねる。
彼はにこりと笑ってから、怪訝な顔をする。
「なんか民人くん、最近積極的だよね」
「だめ?」
「ううん、全然。民人くんから誘ってくれるの、嬉しいけど。ただ、なんでだろうなって」
「ああ……東さんのおかげかなぁ」
「は?」
特に意識せず名前を出してしまったが、大助の顔色が一瞬で変わる。
それで、しまった、と慌てて弁明することになった。
「いや、ただ大助が夏休みが終わってから、あんまり二人の時間が取れなくて寂しいって話をしたら、アドバイスくれて。それだけ!」
大助はへの字口で僕を見つめる。
「なんて?」
「大助にしてもらってばかりじゃなくて、もっと僕から誘ったほうがいいって……それが東さんと千菜さんが長続きしてる秘訣だって!」
それを聞いて、彼は前髪をかきあげてからため息をつく。
「ふーん……まあ、なにもないとはわかってるけど……やっぱちょっと悔しいな」
「う、うん。本当になにもないから」
「まあいいや。おかげで民人くんが積極的になってくれたんだから、たまには感謝でもしないとな」
大助の表情が再び柔らかくなり、僕の腰に手を回す。
「でも、俺ばっかり嫉妬してさ……。たまには民人くんが妬いてるところとか見たいな」
そういう彼に応えて、記憶を思い起こす。
が、思い当たることもなく。
「そんなに妬いて欲しいなら、妬けるような話してみてよ」
僕が返すと、彼は少し考え込んだのち。
「……できないな」
とのたまう。
「……それ、どっち? 言えないようなことしてるってこと? それとも言えるようなネタがないってこと?」
当然、後者だと思って聞いた。
……なんてものすごく、うぬぼれているけれど。
彼からそれくらい情熱的に、僕は、その……愛されてる自覚があったから。
でも、彼はなにか悪いことを思いついたような笑みで、僕に言い放つ。
「どっちの意味かは……内緒かな」
冗談なのか、それとも真実なのか。
曖昧な返事に少し狼狽える。
僕を嫉妬させようと思って言い放った冗談かもしれないけど、もし、真実だったら……なんて思ってしまって、思わず彼を見つめる。
「どう? 嫉妬した?」
「……言わない」
あるかどうかもわからない何かに妬いたなんて。
にこり、と笑う彼に、ああ、彼の手中にハマったな……と思ったら悔しくて、彼の首筋に思い切り吸い付く。
「あ、ちょっと……」
大助にいつもされているように、場所を変えて赤い跡を散らす。
くっきりと残った跡を見て、大助が普段、好んで僕に跡を残す気持ちが少しわかった。
えもいわれぬ高揚感、好きな人と交わった証。
僕の行動にただ硬直していた彼だったけれど、そんな表情の彼に顔を近づければ、抵抗なく僕の口吻を受け入れる。
静かな部屋に、舌が交わる水音と、互いの吐息、そして、時折混じる木の軋む音。
時折ノドを鳴らす彼を見ると、赤みがかった瞳が僕を物欲しそうに見つめていて、背筋がぞくりとする。
絡み合う舌が離れていき、手の甲で口を拭った彼は、自らの首筋を撫でながらつぶやく。
「……明日講義なのに」
「何か、困ることでもあるの?」
「いや、普通にダチとかにこういうことしてるのバレたら恥ずかしいし」
「ふうん」
僕には散々付けておいて、今更そこを気にするんだ……と少しあきれる。
「僕もすごく見られてると思うんだけど……」
大助は、そういうことか……とつぶやき、続ける。
「そりゃ、見せてるから。とくにあのおまわりさんに」
「じゃあ、僕だって見せつけていいよね」
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