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ふたりの憂鬱
ふたりの憂鬱 3
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大学がどういうところか、正直大助の話と、杏奈ちゃんの話くらいしか情報源はなかったけれど。
案外簡単に入れるようだ。
幸い、近所に何校かあるわけだし、散歩がてら見てみるのも良いかも知れない。
「ねえ、大助の大学って誰でも入れるの?」
その夜、大助と食事中。
先ほどの杏奈ちゃんとの会話を思い出し、大助に聞いてみた。
「え、入学って意味?」
「ううん、敷地内に入れるかって話」
大助は人参を口に放り込んでから返す。
「関係者じゃないと入れないだろうな……なんで?」
「杏奈ちゃんの志望校はさ、誰でも入れるって聞いたから。一般的にはどうなのかなと」
それを聞いて、彼は少し悩む。
「ああ。中央第一だっけ? たしかにあそこは誰でも入れそうだな」
「へえ、やっぱそうなんだ」
そういう僕を、大助はじっと見つめる。
「なに?」
「入ろうって思ってる?」
その言葉にすこしドキリとして、思わずごまかす。
「べ、べつにそういうわけでは……」
「ならいいけど」
大助は残りの白米を口に含み、箸をおいてから、少し面白くなさそうに続けた。
「それならいいけど。民人くん、入れるからって入っていいわけじゃないよ」
「そうだよね……」
「……まあ、もし大学の中覗きたいなら、俺の大学のオープンキャンパスとか、大学祭とか待ってよ」
「う、うん」
僕の非常識ぶりをたしなめているものと思ったが、彼の表情を覗くと、どうもそれだけではないような気はした。
僕に隠し事をしているときの、少し不安そうな顔をしていたから。
「……中央第一に、行かない方がいい?」
思い切ってそう聞くと、彼は少し、目を見開く。
そして、僕から目をそらして小さくつぶやいた。
「そうして欲しい。……雰囲気はたぶん、俺の大学と変わらないから」
「……わかった、約束する」
そう答えると、彼は表情を緩める。
「ごめんね民人くん、わがままばっかり」
「お互い様。大助にあんまり、心配かけたくないから」
「ありがとう。ああ……そういえば」
大助はポケットから携帯端末を取り出し、なにやら操作を始める。
「何かあったの?」
「そういえば大学祭、来月にあるんだった。……どう?」
大助は僕に向けて、大学のWebサイトを見せてくる。
見ると確かに、11月の週末で大学祭を行うようだった。
「へえ、結構楽しそう……大助は何かやるの?」
「俺は特になにも。だから、ずっと民人くんと回れるよ」
「ええ、でも、友達と回ったりとか……」
僕の言葉を遮り、大助は首を横に振る。
「俺がそうしたいの。俺も民人くん一人より安心だし。それに……屋台とかもあるし、で、デートも兼ねれて一石二鳥、じゃない?」
「で……」
変に照れながら言われてしまい、言葉に詰まる。
それに、デートという響き。
……思い返せば、旅行はおろか、どこかに出かけた憶えも少なく。
恋人らしいこと……は、ほぼ毎日してるけど……デートという響きに、ひどく惹かれてしまった。
「民人くん?」
でも、少しだけ気になることがあって。
「あ、ご、ごめん……でも、大助の大学ってコトは、友達とか、いるんだよね?」
「……そうだけど」
「あ、会ったらどう紹介するつもりなの?」
大助は友人たちに、僕をどう紹介するのだろう。
友人? 同居人? それとも……。
多少面倒な関係であることは自覚していたから、気になった。
回答によっては、デートとはいえ、ふつうの恋人みたいに振る舞えないから。
大助は僕の問いに、虚を突かれたように驚く。
それから、深呼吸して、僕に向き合って言う。
「そんなの、絶対言うよ……いつも自慢してる、俺の恋人だって」
いつものように飄々と言ってくれれば、僕も強く出られるのに。
「い、いつも自慢してるって、お前」
それで思わず、ごまかしてしまう。
「言わずにはいられなくて……それくらい俺、浮かれてる」
顔を真っ赤にしながら、本当に恥ずかしそうに言うものだから、僕まで顔に熱が集まる。
僕も、充分浮かれていた。
きっと、大助に負けないくらい。
東さんにだって、口を開けば大助の話と指摘されるし、杏奈ちゃんにもことあるごとに大助の話をしている気がする。
……大助も同じだと思ったら、嬉しくて。
「……楽しみにしてる、大助とのデート」
珍しく、僕から彼の手に触れる。
大助は真っ赤な顔を破顔させ、僕の手を握り返した。
案外簡単に入れるようだ。
幸い、近所に何校かあるわけだし、散歩がてら見てみるのも良いかも知れない。
「ねえ、大助の大学って誰でも入れるの?」
その夜、大助と食事中。
先ほどの杏奈ちゃんとの会話を思い出し、大助に聞いてみた。
「え、入学って意味?」
「ううん、敷地内に入れるかって話」
大助は人参を口に放り込んでから返す。
「関係者じゃないと入れないだろうな……なんで?」
「杏奈ちゃんの志望校はさ、誰でも入れるって聞いたから。一般的にはどうなのかなと」
それを聞いて、彼は少し悩む。
「ああ。中央第一だっけ? たしかにあそこは誰でも入れそうだな」
「へえ、やっぱそうなんだ」
そういう僕を、大助はじっと見つめる。
「なに?」
「入ろうって思ってる?」
その言葉にすこしドキリとして、思わずごまかす。
「べ、べつにそういうわけでは……」
「ならいいけど」
大助は残りの白米を口に含み、箸をおいてから、少し面白くなさそうに続けた。
「それならいいけど。民人くん、入れるからって入っていいわけじゃないよ」
「そうだよね……」
「……まあ、もし大学の中覗きたいなら、俺の大学のオープンキャンパスとか、大学祭とか待ってよ」
「う、うん」
僕の非常識ぶりをたしなめているものと思ったが、彼の表情を覗くと、どうもそれだけではないような気はした。
僕に隠し事をしているときの、少し不安そうな顔をしていたから。
「……中央第一に、行かない方がいい?」
思い切ってそう聞くと、彼は少し、目を見開く。
そして、僕から目をそらして小さくつぶやいた。
「そうして欲しい。……雰囲気はたぶん、俺の大学と変わらないから」
「……わかった、約束する」
そう答えると、彼は表情を緩める。
「ごめんね民人くん、わがままばっかり」
「お互い様。大助にあんまり、心配かけたくないから」
「ありがとう。ああ……そういえば」
大助はポケットから携帯端末を取り出し、なにやら操作を始める。
「何かあったの?」
「そういえば大学祭、来月にあるんだった。……どう?」
大助は僕に向けて、大学のWebサイトを見せてくる。
見ると確かに、11月の週末で大学祭を行うようだった。
「へえ、結構楽しそう……大助は何かやるの?」
「俺は特になにも。だから、ずっと民人くんと回れるよ」
「ええ、でも、友達と回ったりとか……」
僕の言葉を遮り、大助は首を横に振る。
「俺がそうしたいの。俺も民人くん一人より安心だし。それに……屋台とかもあるし、で、デートも兼ねれて一石二鳥、じゃない?」
「で……」
変に照れながら言われてしまい、言葉に詰まる。
それに、デートという響き。
……思い返せば、旅行はおろか、どこかに出かけた憶えも少なく。
恋人らしいこと……は、ほぼ毎日してるけど……デートという響きに、ひどく惹かれてしまった。
「民人くん?」
でも、少しだけ気になることがあって。
「あ、ご、ごめん……でも、大助の大学ってコトは、友達とか、いるんだよね?」
「……そうだけど」
「あ、会ったらどう紹介するつもりなの?」
大助は友人たちに、僕をどう紹介するのだろう。
友人? 同居人? それとも……。
多少面倒な関係であることは自覚していたから、気になった。
回答によっては、デートとはいえ、ふつうの恋人みたいに振る舞えないから。
大助は僕の問いに、虚を突かれたように驚く。
それから、深呼吸して、僕に向き合って言う。
「そんなの、絶対言うよ……いつも自慢してる、俺の恋人だって」
いつものように飄々と言ってくれれば、僕も強く出られるのに。
「い、いつも自慢してるって、お前」
それで思わず、ごまかしてしまう。
「言わずにはいられなくて……それくらい俺、浮かれてる」
顔を真っ赤にしながら、本当に恥ずかしそうに言うものだから、僕まで顔に熱が集まる。
僕も、充分浮かれていた。
きっと、大助に負けないくらい。
東さんにだって、口を開けば大助の話と指摘されるし、杏奈ちゃんにもことあるごとに大助の話をしている気がする。
……大助も同じだと思ったら、嬉しくて。
「……楽しみにしてる、大助とのデート」
珍しく、僕から彼の手に触れる。
大助は真っ赤な顔を破顔させ、僕の手を握り返した。
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