ふたつの嘘

noriko

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ふたりの憂鬱

ふたりの憂鬱 2

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「先生、ご報告があります」
翌週、何度目かの家庭教師のバイト。
定刻ほぼちょうどに切りよく予定が終わり、手際よく教材を片付ける。
あらかた片付け終わった頃、彼女は僕に向き合って話す。
「うん、なあに」
彼女の嬉しそうな表情から、内容は想像がついた。
「人文学部の推薦、校内選考が無事通過しました!」
満面の笑みで、僕に通知を見せてくれる。
「わあ、おめでとう! 受験もゴールが見えてきたね」
「はい! まだ試験はありますけど、ひと安心です」
彼女の成績であれば、内部進学は楽勝だろうけど。
とはいえ、うれしい報告だった。
「推薦入試はいつくらいなの?」
「11月の終わりです。だから……あと2か月くらいですね。発表は12月に入ってからなので、意外と間が空いてて緊張します……」
「まあ、よっぽど何もなければ大丈夫だと思うけどね」
「そうですけどぉ」
頬を膨らませる彼女のコロコロ変わる表情がおもしろくて、つい意地悪を言ってしまう。
「でも、そっかあ。12月かあ。あっという間だなあ」

僕のアルバイトも、彼女が受験を終えるだろう、12月で終わり。
縁あって杏奈ちゃんの家庭教師にありついたけど、こんないい仕事、正直二度とないかもしれない。
でも、せっかく踏み出した一歩、次の仕事につないでいきたいかな。
もう少ししたら、大助に相談してみようかな。
それで、僕もいつかお金を貯めて、大学に入学したい。
僕より一足先に大学生になろうとしている彼女が、輝いて見えた。

「ねえ、杏奈ちゃん。大学って、高校の隣にあるんだっけ?」
「はい。どちらかというと、高校が大学の敷地内にあるって感じです」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、大学には入れるの?」
「はい、ありますよ。時々、授業とかもありますし。マリア……友達は毎日のように行ってますし、マリアも大学のよその人をよく見かけるって言ってます。別の大学に通ってる教授のお子さんが良く遊びに来てるとか」
「へえ、面白い。けっこう自由なんだね。もっと入りづらいものかと思った」
杏奈ちゃんは笑いながら、手を横に振る。
「全然そんなことないんですよぉ。特にうちの学園は誰でも入りたい放題なので、先生も入れちゃいますよ」
そんなもんなんだ……大助の大学は、けっこうしっかりした門があった気がするから、大学によるんだなあ。
「ここから近いんだよね。今度行ってみようかなあ」
「ぜひ! あ、……それでは、今日はありがとうございました」
机を片付け終えた杏奈ちゃんが、ぺこりと一礼する。
「話し過ぎちゃったね……うん。それじゃあ、また来週」
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