ふたつの嘘

noriko

文字の大きさ
上 下
36 / 65
ふたりの憂鬱

ふたりの憂鬱 2

しおりを挟む
「先生、ご報告があります」
翌週、何度目かの家庭教師のバイト。
定刻ほぼちょうどに切りよく予定が終わり、手際よく教材を片付ける。
あらかた片付け終わった頃、彼女は僕に向き合って話す。
「うん、なあに」
彼女の嬉しそうな表情から、内容は想像がついた。
「人文学部の推薦、校内選考が無事通過しました!」
満面の笑みで、僕に通知を見せてくれる。
「わあ、おめでとう! 受験もゴールが見えてきたね」
「はい! まだ試験はありますけど、ひと安心です」
彼女の成績であれば、内部進学は楽勝だろうけど。
とはいえ、うれしい報告だった。
「推薦入試はいつくらいなの?」
「11月の終わりです。だから……あと2か月くらいですね。発表は12月に入ってからなので、意外と間が空いてて緊張します……」
「まあ、よっぽど何もなければ大丈夫だと思うけどね」
「そうですけどぉ」
頬を膨らませる彼女のコロコロ変わる表情がおもしろくて、つい意地悪を言ってしまう。
「でも、そっかあ。12月かあ。あっという間だなあ」

僕のアルバイトも、彼女が受験を終えるだろう、12月で終わり。
縁あって杏奈ちゃんの家庭教師にありついたけど、こんないい仕事、正直二度とないかもしれない。
でも、せっかく踏み出した一歩、次の仕事につないでいきたいかな。
もう少ししたら、大助に相談してみようかな。
それで、僕もいつかお金を貯めて、大学に入学したい。
僕より一足先に大学生になろうとしている彼女が、輝いて見えた。

「ねえ、杏奈ちゃん。大学って、高校の隣にあるんだっけ?」
「はい。どちらかというと、高校が大学の敷地内にあるって感じです」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、大学には入れるの?」
「はい、ありますよ。時々、授業とかもありますし。マリア……友達は毎日のように行ってますし、マリアも大学のよその人をよく見かけるって言ってます。別の大学に通ってる教授のお子さんが良く遊びに来てるとか」
「へえ、面白い。けっこう自由なんだね。もっと入りづらいものかと思った」
杏奈ちゃんは笑いながら、手を横に振る。
「全然そんなことないんですよぉ。特にうちの学園は誰でも入りたい放題なので、先生も入れちゃいますよ」
そんなもんなんだ……大助の大学は、けっこうしっかりした門があった気がするから、大学によるんだなあ。
「ここから近いんだよね。今度行ってみようかなあ」
「ぜひ! あ、……それでは、今日はありがとうございました」
机を片付け終えた杏奈ちゃんが、ぺこりと一礼する。
「話し過ぎちゃったね……うん。それじゃあ、また来週」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...