ふたつの嘘

noriko

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ふたりの内緒

ふたりの内緒 3

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ただ耳を支配するのは、互いの吐息と、そして、舌が絡み合う淫らな水音。
上顎を大助の舌がかすめると、思わず声があふれて、大助は少し嬉しそうに甘い声で笑う。

僕たちは会話をはさむ余裕もなく、互いの唇をむさぼり合う。
その沈黙は、大助と初めて交わった日を思い出す。
思えば、あの日は真夏日で、真っ昼間で、それなのに、クーラーも付いていない中で互いをひたすら求め合った。
でも、今日はクーラーの効いた部屋だけど、体感、あの日よりも、あつい。
まだ炎天下の熱が残る大助の身体がぴったりと密着しているからか、それとも、数日ため込んだ欲望に身体が火照っているのか。
いずれにしても、熱さで思考がぼんやりとしている中で、ただただ優しい愛撫を享受していた。
大助の唇はわざと大げさにリップノイズを奏で、首筋、鎖骨、胸元へと跡を散らしながら降りていく。
ふと、先日昼間に東さんにキスマークを指摘されたのを思い出して、「跡は見えないところにして欲しい」という言葉が出かかったけれど、ぎりぎりのところで飲み込んだ。
理由を聞かれたときに、この状況で東さんの言葉を出すわけにはいかない、と思ったのもあるけれど、それよりたぶん、大助の欲望の証を抑えられるのが勿体なかったんだと思う。
彼の唇は少し強く、僕の胸の先端を食む。
「んっ……」
その快感に、思わず身体を反らせる。
「民人くん。今何か、考え事してなかった?」
それは、僕への抗議だったらしい。
「……ごめん、終わってから、言う」
「謝らなくて良いよ。むしろ俺の力量不足かな」
大助の両手が、僕の胸の先端を押しつぶすように、力強くなぞる。
「ああっ……」
「民人くん時々、俺とシてるときに、すごく寂しそうな顔するときあるよ」
自覚ある? と言いながら、僕を愛撫する大助の顔には、少しだけ不安の色がうかがえた。
「んっ……」
僕は、言葉で返事は出来なかったけれど、首を縦に振る。
「そっか」
それは、先ほど考えていた、キスマークとは別の話だと思う。
大助、気づいてたんだ。

大助を感じるたび、大助と愛し合うたび、大助の僕への支配欲みたいなものに触れるたび、大助が僕の初めてではないことが思い出されて、胸が苦しくなる。
それは抱く必要の無い罪悪感なのかも知れない。
それでも、大助以外を知っている身体で、都合良く大助を求めている自分が少し許せなくて、唇をかみしめる事が増えてきた気がする。
大助の言う「寂しそうな顔」は、そんな気持ちが、顔に出てしまっているのだと思った。
あのときの嘘が、大助が初めてだと言ったそれが、真綿で首を絞めているみたいに、僕を、僕たちを苦しめる。
それならいっそのこと、本当のことを言ってしまっても良いのかもしれない。
きっと大助は、受け入れてくれると思う。
「大助、今は、理由は言えない、ごめん」
そう思いながらも……自分だって認めたくなくて、大助が初めてがよかったから、自分自身もあの嘘で、自らを欺き続けているのだった。
僕には、大助だけ、大助だけ。
そして、絞り出したのは、謝罪の言葉。

大助は優しく、それでも、少し困ったように笑う。
「わかった、俺も民人くんに言えてないことがあったね。これで、おあいこ」
そう言って、優しく唇に触れた。
そして、彼の手が僕の胴をそっとなぞる。
「はぁっ……大助……」
「いつもより感じてる?」
「だって、大助が……触ってるから……」
「嬉しい」
その手は腹をくだり、足をなぞる。
「ん……」
そのくすぐったさに、声を漏らす。
「俺ね、重いかもしれないけど……嫌なこと考えなくて良いくらい、民人くんのこと、俺でいっぱいにしたい」
いい? なんて、首をかしげて訊く様は、少しだけ、わがままを言う子どもみたいだった。
大助、誤解だよ。
僕は大助でいっぱいになりすぎて、つらいんだ。
「大助、僕には、大助だけ、だから」
その、否定とも肯定ともつかない言葉を聞いた大助は、少し寂しそうな顔をしていた。
きっと僕も、悲しい顔をしていたんだと思う。
「いつかでいいよ……俺はずっと、民人くんに、民人くんのことがどれだけ好きか、伝え続けるから」


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