ふたつの嘘

noriko

文字の大きさ
上 下
30 / 65
ふたりの内緒

ふたりの内緒 2

しおりを挟む
圭介くんが去ったあとは、無心で夕飯の準備をしていた。
あとはオーブンで熱するだけの、大助の好きなミートグラタンと、サラダは冷蔵庫に。
それから、スープは温め直すだけ。

ちょうど下ごしらえを終えてひとやすみしていた頃、大助から最寄り駅に着いたと連絡があった。
駅はここから、歩いて20分。
一刻も早く会いたくて、駅まで迎えに行くと提案をしていた。
大助は家で待っていろの一点張りで譲らず、いつもの事ながら僕が折れて、大人しく部屋で大助の帰りを待つことになった。

その20分の間に、考える。
話したいことはたくさんある。
まずは、大助の土産話。
西部はどんなところなのか、一緒に行けそうなところはあったのか、写真も見たいし。
出来れば、どんな人と会って、何を話し合ったのかも聞きたい。
それから、圭介くんからのプレゼント。
少しずっしりとした小ぶりの箱だけれど、中身はまったく想像もつかない。
ヒントももらえなかったし、すごく気になるから、はやく一緒に開けたい。

ぐるぐると、話したい話題を反芻する。
それ以外のことを、考えないように。

そして、ようやく玄関の開く音が響く。
「大助、おかえり」
「ただいま、民人くん」
廊下に出ると、大助が荷物を投げ捨てるように放り、僕の元へと駆け寄る。
そうして、夕方でもまだ暑い外気を纏った大助の身体に、すっぽりと包み込まれた。
その熱さは、「はじめて」の日を思い出す。
大助はあのときみたいに無言で、ただただ強い力で僕を抱きしめる。
「大助、あ……暑くないの」
必死に絞り出した言葉は、奇しくもあのときと同じ。
「好きな人が目の前にいるのに、そんなの、考えてる余裕無い」
それでも、あのときとは違って、僕たちは今、親友とは違う名前の関係になった。
こういうとき大助は、僕とは正反対だ。
こちらが恥ずかしくなるくらい、ストレートに事を伝える。

磁力でもあるみたいに、大助の身体に、ぴったりと、腕を回してしまう。
――駄目だ、話したいこと、たくさんあるのに。
「一緒に、行けばよかったね」
大助の胸に顔を埋めると、大助の心臓がはやく、はやく鼓動する。
「3日くらい、我慢できると思った。こんな地獄みたいに寂しいなんて思わなかった」
かすれた声で、そんなこと言わないで欲しい。
「大助、寂しかった」
顔を上げると、情欲を隠そうともしない、大助の表情にぞくりとする。
今、シたい。
そう言っているようで、その熱い頬に手を添える。
――ああ、必死に、考えないようにしていたのに。
大助に、触れたい、満たされたい。
押さえ込んでいたその欲望は、いとも簡単にこじ開けられてしまった。

重ねられたその唇から、熱が伝わる。
あつい、くるしい、でも、もっと。
話したかったこと、全部、飛んじゃった。
でも、もう、何も考えたくない。

夢中で互いをむさぼり合ったあと、二人分の荒い吐息が玄関に響いた。
「大助え……部屋、行きたい」
そう言って身を委ねれば、大助は軽々と僕を抱え、僕を連れていく。
「そんなこと言われたら、止まんないよ」
久々に口を開いた大助から発せられた言葉に、胸が高鳴る。
薄暗い部屋のベッドに横たえられ、興奮で身体が動かない中、これから僕を抱くために服を脱ぎ払う恋人を、ぼんやりと見つめていた。
一糸まとわぬ姿を晒したあとで、僕を見てにこりと微笑み、僕に覆い被さる。
「この部屋、涼しいね。ずっと前からクーラー付いてたみたい。なんで?」
優しいようで、意地悪な質問を投げかけながら、僕の衣服に手をかける。
「大助が涼むかと思って……」
「優しいね、ありがとう。でも残念。てっきりこの部屋にいたのか、それとも……」
僕のズボンを下ろし、下着越しに、先走りで濡れた曲部をなぞる。
「ああっ……」
ビクリ、と身体がはねて、思わず声を漏らす。
「俺とこうするの、期待してるのかと思ったけど」
「誤解……こんなすぐ、シようと思ってなかった」
「ふうん、こんなにして?」
下着を下ろして、少し熱を帯びたそれに、直に触れる。
「ンっ……」
「俺とシたくてたまらないって、顔してたのに」
「だって……大助が」
本当は、大助と今すぐシたくてたまらなかった。
でも、そこで耐えられなければずっと、これからも、耐えられないと思って、不安になって。
だから、我慢しようと思っていたのに。
大助に触れたら、大助のあの表情を見たら。
大助は、幸せそうに目を細めて、僕の髪を撫でる。
「そっか、俺が我慢できなくした?」
その言葉にうなずくと、満足そうに笑う。
「毎日、この部屋で寝てた、ひとりで」
「民人くんの部屋、使わなかったの?」
「大助の声、聞いてたら、寂しくなって。……それで、少しでも大助を感じてたくて」
シャツのボタンをひとつひとつ、開かれながら、僕は大助の熱に浮かされたのか、それとも、大助に触れることが嬉しいのか、自分でも不思議なくらい饒舌だった。
「うん」
大助はそれを嬉しそうに、うなずきながら聞き続ける。
「我慢できなくて、ひとりでシてたけど、よけいに、寂しくて」
「うん」
僕を満たしてくれる存在の、首に手を回す。
「不安になった」
「不安?」
「もしこれからもっと長い間、大助に会えなかったら、どうなっちゃうんだろうって」
「俺も、どうにかなりそうだった」
触れるだけの口吻を、何度か繰り返す。
「ここ、指じゃ全然足りなった」
下腹部を示すと、大助は赤面する。
「民人くん……今日はすごく、素直っていうか」
「はしたないよね。毎日、抱かれたくて、一人で指でしてるなんて。……でも、僕は、男の人に抱かれるのが好きなんじゃなくて、誰でも良いんじゃなくて、大助が……好き、だから」
大助はため息をつき、髪をかきあげてから、僕の耳元で囁く。
「はあ……いい? もう俺、我慢できないんだけど」
「大助、好きにして……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...