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ひとりの時間
ひとりの時間 2
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翌朝は、目覚ましの音で2人飛び起きた。
とりあえず服を着て、重い体をなんとか引きずりながら支度をする羽目になったけど……。
一方で、もともと旅行が趣味の大助は荷造りも手慣れたもので。
昨日の今日だというのに、シャワーを浴び、朝食を食べ、7時半を回るころには支度が終わっていたようだ。
僕がなんとかシャワーを浴びて洗濯を回しはじめた頃には、大きめのリュックを持った大助が、優雅にリビングで紅茶を飲んでいた。
「早いね。もう出るの?」
「9時ちょうどの列車だから。もうそろそろ出発しないと」
シンプルな腕時計を見て、そうつぶやく。
紅茶を飲み干して、立ち上がり、キッチンで手際よくカップを洗う。
「西部には、ここからどれくらいかかるの?」
「特急乗り継いで、単純に西部までは4時間くらいかな。それから目的地までもうちょっとかかる」
「結構かかるんだね」
「たしかに、北部より遠いかも。……それじゃあ、そろそろ行くね」
洗い物を終えた大助が、大きめのリュックを背負う。
「僕もゴミ出しあるから、入り口まで一緒に行こう」
「そっか。半分持つよ」
「いいのに。荷物重いでしょ」
「気にしないで」
玄関にまとめてあったゴミ袋をなんだかんだ二人で持ち、エレベータに乗る。
「ねえ、電車から景色見れるの? 写真とか送ってよ」
「そうだね。この天気なら、海も見えそうだし」
楽しみにしててね、とにっこり笑う。
「いい天気だもんね。布団も干しちゃおうかな」
「はは、民人くんの布団、ほとんど使ってないじゃん」
サラリと笑顔でのたまう大助に、少しムキになって言い返す。
「誰のせいだと思ってるんだよ……今日から使うから」
「はいはい……」
大助が笑って返す頃、エレベータが1階へ到着し、到着のチャイムが響く。
それからは二人無言で、並んでゴミ捨て場まで歩く。
8時少し前。
市街地ではあるが大きな道をはずれたここは、人もまばらだった。
ゴミ捨て場の前も人はおらず、2人の静かな時間が流れる。
「それじゃ、民人くん。しばらくお別れだね」
「うん。連絡ちょうだい……」
大助の唇が、その言葉に重ねるように僕のそれを塞ぐ。
「外じゃこれが限度かな。……じゃあ、ゴムも買って帰ってくるからね」
人通りがすくないとはいえ、白昼堂々のキスとは。
……返事をする前に、大助は背中を向けて歩いていく。
唇の感触がまだ残っていて、心臓が高鳴る。
「最後の言葉がそれかよ……」
誰も聞いていないのにつぶやいた照れ隠しの言葉が、空に消えていく。
今日は、杏奈ちゃんたちと遭遇しなかったのが幸いだ。
火照る顔を誰にも見られぬようにうつむきながら、誰もいなくなった部屋に戻る。
こうして、いきなり数日間のひとり生活が始まった。
「さて、まずは」
有言実行。
ベッドのシーツを剥がし、掛け布団はベランダに干す。
僕のぶんと、大助のぶん。
大助の部屋のベッドに触れると、どうしても、昨晩を思い出してしまう。
「……なんか、変態みたいで嫌だな」
僕の部屋のベッドはこの前洗濯してから、片手で足りるくらいしか使っていないかもしれない。
……それは、僕がほぼ毎日、大助と寝床を共にしているからだけれど。
とはいえ、これから数日は大助もいない。
自分の部屋で寝ることになるから、ついでに洗ってしまおう。
頬を叩きながら、シーツを洗濯機に放り込んだ。
「ああ……疲れた」
夜遅く……手持ちのスキンを使い果たすまで大助と愛し合った挙げ句、ごみ捨てと支度のために早起きしたので、結局あまり寝ていない。
その身体にムチを打って布団なんか干してしまったので、身体は活動の限界を迎えていた。
ソファに寝そべり、天井を見上げながら、特になにも考えることなく深呼吸をする。
軋むように痛む腰が、じんわりと癒やされるのを感じる。
部屋に反響する洗濯機の穏やかで規則的な低音を聞いていると、次第にまぶたが重くなった。
そうして、気づけば。
不思議な夢を見た。
僕は小学生くらいの少年で、広い部屋で科学の本を読んでいる。
隣には眼鏡の若い男性がいて、顔はぼやけていたけれど、僕を見て微笑んでいた。
その笑顔が、とても嬉しくて、彼にたくさん話しかけていた。
本に書かれている難しい文字を教えてもらったり、逆に、僕が本に書いてあることを彼に教えたり。
そうしているうちに、若い女性が部屋に入ってくる。
誰かわからないし、やっぱり顔もぼやけていたけど、僕が駆け寄ると、頭をなでてくれた。
部屋に差し込む夕日が綺麗で、暖かくて、懐かしい。
まるで、現実にあったことのような。
とりあえず服を着て、重い体をなんとか引きずりながら支度をする羽目になったけど……。
一方で、もともと旅行が趣味の大助は荷造りも手慣れたもので。
昨日の今日だというのに、シャワーを浴び、朝食を食べ、7時半を回るころには支度が終わっていたようだ。
僕がなんとかシャワーを浴びて洗濯を回しはじめた頃には、大きめのリュックを持った大助が、優雅にリビングで紅茶を飲んでいた。
「早いね。もう出るの?」
「9時ちょうどの列車だから。もうそろそろ出発しないと」
シンプルな腕時計を見て、そうつぶやく。
紅茶を飲み干して、立ち上がり、キッチンで手際よくカップを洗う。
「西部には、ここからどれくらいかかるの?」
「特急乗り継いで、単純に西部までは4時間くらいかな。それから目的地までもうちょっとかかる」
「結構かかるんだね」
「たしかに、北部より遠いかも。……それじゃあ、そろそろ行くね」
洗い物を終えた大助が、大きめのリュックを背負う。
「僕もゴミ出しあるから、入り口まで一緒に行こう」
「そっか。半分持つよ」
「いいのに。荷物重いでしょ」
「気にしないで」
玄関にまとめてあったゴミ袋をなんだかんだ二人で持ち、エレベータに乗る。
「ねえ、電車から景色見れるの? 写真とか送ってよ」
「そうだね。この天気なら、海も見えそうだし」
楽しみにしててね、とにっこり笑う。
「いい天気だもんね。布団も干しちゃおうかな」
「はは、民人くんの布団、ほとんど使ってないじゃん」
サラリと笑顔でのたまう大助に、少しムキになって言い返す。
「誰のせいだと思ってるんだよ……今日から使うから」
「はいはい……」
大助が笑って返す頃、エレベータが1階へ到着し、到着のチャイムが響く。
それからは二人無言で、並んでゴミ捨て場まで歩く。
8時少し前。
市街地ではあるが大きな道をはずれたここは、人もまばらだった。
ゴミ捨て場の前も人はおらず、2人の静かな時間が流れる。
「それじゃ、民人くん。しばらくお別れだね」
「うん。連絡ちょうだい……」
大助の唇が、その言葉に重ねるように僕のそれを塞ぐ。
「外じゃこれが限度かな。……じゃあ、ゴムも買って帰ってくるからね」
人通りがすくないとはいえ、白昼堂々のキスとは。
……返事をする前に、大助は背中を向けて歩いていく。
唇の感触がまだ残っていて、心臓が高鳴る。
「最後の言葉がそれかよ……」
誰も聞いていないのにつぶやいた照れ隠しの言葉が、空に消えていく。
今日は、杏奈ちゃんたちと遭遇しなかったのが幸いだ。
火照る顔を誰にも見られぬようにうつむきながら、誰もいなくなった部屋に戻る。
こうして、いきなり数日間のひとり生活が始まった。
「さて、まずは」
有言実行。
ベッドのシーツを剥がし、掛け布団はベランダに干す。
僕のぶんと、大助のぶん。
大助の部屋のベッドに触れると、どうしても、昨晩を思い出してしまう。
「……なんか、変態みたいで嫌だな」
僕の部屋のベッドはこの前洗濯してから、片手で足りるくらいしか使っていないかもしれない。
……それは、僕がほぼ毎日、大助と寝床を共にしているからだけれど。
とはいえ、これから数日は大助もいない。
自分の部屋で寝ることになるから、ついでに洗ってしまおう。
頬を叩きながら、シーツを洗濯機に放り込んだ。
「ああ……疲れた」
夜遅く……手持ちのスキンを使い果たすまで大助と愛し合った挙げ句、ごみ捨てと支度のために早起きしたので、結局あまり寝ていない。
その身体にムチを打って布団なんか干してしまったので、身体は活動の限界を迎えていた。
ソファに寝そべり、天井を見上げながら、特になにも考えることなく深呼吸をする。
軋むように痛む腰が、じんわりと癒やされるのを感じる。
部屋に反響する洗濯機の穏やかで規則的な低音を聞いていると、次第にまぶたが重くなった。
そうして、気づけば。
不思議な夢を見た。
僕は小学生くらいの少年で、広い部屋で科学の本を読んでいる。
隣には眼鏡の若い男性がいて、顔はぼやけていたけれど、僕を見て微笑んでいた。
その笑顔が、とても嬉しくて、彼にたくさん話しかけていた。
本に書かれている難しい文字を教えてもらったり、逆に、僕が本に書いてあることを彼に教えたり。
そうしているうちに、若い女性が部屋に入ってくる。
誰かわからないし、やっぱり顔もぼやけていたけど、僕が駆け寄ると、頭をなでてくれた。
部屋に差し込む夕日が綺麗で、暖かくて、懐かしい。
まるで、現実にあったことのような。
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