ふたつの嘘

noriko

文字の大きさ
上 下
26 / 65
ひとりの時間

ひとりの時間 2

しおりを挟む
翌朝は、目覚ましの音で2人飛び起きた。
とりあえず服を着て、重い体をなんとか引きずりながら支度をする羽目になったけど……。
一方で、もともと旅行が趣味の大助は荷造りも手慣れたもので。
昨日の今日だというのに、シャワーを浴び、朝食を食べ、7時半を回るころには支度が終わっていたようだ。
僕がなんとかシャワーを浴びて洗濯を回しはじめた頃には、大きめのリュックを持った大助が、優雅にリビングで紅茶を飲んでいた。
「早いね。もう出るの?」
「9時ちょうどの列車だから。もうそろそろ出発しないと」
シンプルな腕時計を見て、そうつぶやく。
紅茶を飲み干して、立ち上がり、キッチンで手際よくカップを洗う。
「西部には、ここからどれくらいかかるの?」
「特急乗り継いで、単純に西部までは4時間くらいかな。それから目的地までもうちょっとかかる」
「結構かかるんだね」
「たしかに、北部より遠いかも。……それじゃあ、そろそろ行くね」
洗い物を終えた大助が、大きめのリュックを背負う。
「僕もゴミ出しあるから、入り口まで一緒に行こう」
「そっか。半分持つよ」
「いいのに。荷物重いでしょ」
「気にしないで」
玄関にまとめてあったゴミ袋をなんだかんだ二人で持ち、エレベータに乗る。
「ねえ、電車から景色見れるの? 写真とか送ってよ」
「そうだね。この天気なら、海も見えそうだし」
楽しみにしててね、とにっこり笑う。
「いい天気だもんね。布団も干しちゃおうかな」
「はは、民人くんの布団、ほとんど使ってないじゃん」
サラリと笑顔でのたまう大助に、少しムキになって言い返す。
「誰のせいだと思ってるんだよ……今日から使うから」
「はいはい……」
大助が笑って返す頃、エレベータが1階へ到着し、到着のチャイムが響く。
それからは二人無言で、並んでゴミ捨て場まで歩く。
8時少し前。
市街地ではあるが大きな道をはずれたここは、人もまばらだった。
ゴミ捨て場の前も人はおらず、2人の静かな時間が流れる。
「それじゃ、民人くん。しばらくお別れだね」
「うん。連絡ちょうだい……」
大助の唇が、その言葉に重ねるように僕のそれを塞ぐ。
「外じゃこれが限度かな。……じゃあ、ゴムも買って帰ってくるからね」
人通りがすくないとはいえ、白昼堂々のキスとは。
……返事をする前に、大助は背中を向けて歩いていく。
唇の感触がまだ残っていて、心臓が高鳴る。
「最後の言葉がそれかよ……」
誰も聞いていないのにつぶやいた照れ隠しの言葉が、空に消えていく。
今日は、杏奈ちゃんたちと遭遇しなかったのが幸いだ。
火照る顔を誰にも見られぬようにうつむきながら、誰もいなくなった部屋に戻る。

こうして、いきなり数日間のひとり生活が始まった。

「さて、まずは」
有言実行。
ベッドのシーツを剥がし、掛け布団はベランダに干す。
僕のぶんと、大助のぶん。
大助の部屋のベッドに触れると、どうしても、昨晩を思い出してしまう。
「……なんか、変態みたいで嫌だな」
僕の部屋のベッドはこの前洗濯してから、片手で足りるくらいしか使っていないかもしれない。
……それは、僕がほぼ毎日、大助と寝床を共にしているからだけれど。
とはいえ、これから数日は大助もいない。
自分の部屋で寝ることになるから、ついでに洗ってしまおう。
頬を叩きながら、シーツを洗濯機に放り込んだ。
「ああ……疲れた」
夜遅く……手持ちのスキンを使い果たすまで大助と愛し合った挙げ句、ごみ捨てと支度のために早起きしたので、結局あまり寝ていない。
その身体にムチを打って布団なんか干してしまったので、身体は活動の限界を迎えていた。
ソファに寝そべり、天井を見上げながら、特になにも考えることなく深呼吸をする。
軋むように痛む腰が、じんわりと癒やされるのを感じる。
部屋に反響する洗濯機の穏やかで規則的な低音を聞いていると、次第にまぶたが重くなった。
そうして、気づけば。


不思議な夢を見た。
僕は小学生くらいの少年で、広い部屋で科学の本を読んでいる。
隣には眼鏡の若い男性がいて、顔はぼやけていたけれど、僕を見て微笑んでいた。
その笑顔が、とても嬉しくて、彼にたくさん話しかけていた。
本に書かれている難しい文字を教えてもらったり、逆に、僕が本に書いてあることを彼に教えたり。

そうしているうちに、若い女性が部屋に入ってくる。
誰かわからないし、やっぱり顔もぼやけていたけど、僕が駆け寄ると、頭をなでてくれた。
部屋に差し込む夕日が綺麗で、暖かくて、懐かしい。
まるで、現実にあったことのような。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...