ふたつの嘘

noriko

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ふたりの関係

ふたりの関係 3

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(なんか納得いかない……)
9月の終わり、大助の夏休みも終盤。
今年は異常気象で、今になって歴代の最高気温を更新するかもしれないとか。
……その影響なのか。
いや。それくらいしか僕には思いつかないのだけれど。
今日はなんと、あの大助が、東さんに用事があるとかで出かけていった。
……実際は大助は何も言わずに出たが、東さんから聞いていたのだけれど。
東さんなんかはそのためにわざわざ有給をとったらしく。
それはもう、天変地異レベルの出来事だと僕は思う。

(二人とも何考えてるんだろう……)

東さんは、最近見ないと思ったら、どうやら出身地である西部に帰省していたらしい。
それで、お土産を持ってきてくれたところから、話がおかしくなったんだと思う。
そもそも、彼はてっきり中央部の人だと思っていたから、地方出身と聞いて驚いたが。
それよりももっと驚いたことがあった。
お土産を持ってきてくれたときに、真面目そうな知らない男性をつれていた。
その男性が、少し表情で「妹がお世話になっています」といわれたので、そこでようやく、彼が杏奈ちゃんの兄であるとわかった。

そのあたりから、少し話を振り返ってみよう。

「そっか、東さんのご友人って言われてましたもんね」
驚いたが、たしかに家庭教師を紹介されたときに、そういうことを言っていたのを思い出した。
「そのことなんだが」
それに対して、東さんがためらいがちに、話を続ける。
「……あのとき友人と言ったが、実際は俺の恋人だ」
「え!?」
僕は驚きのあまり声も出ず、千菜さんの方を見てしまったが、千菜さんは否定もせず、顔を真っ赤にしてうつむいているので、悪い冗談ではないことがわかった。
一方、開いた口が塞がらない僕に対して、思いっきり感嘆の声を上げたのは大助だった。
「恋人がいながら、民人君に色目使ってたんですか!?」
その言葉に、千菜さんと東さんの顔がひきつる。
「ちょっと大助、何言ってるんだよ!」
仮にも恋人の前で……と思ったが、これに関しては正直、僕も反省せざるを得ない。
フリとはいえ、大助をひきつけるために、ちょっと利用していたところもあるので。
恋人がいると言ってもらえていたら僕も遠慮したんだけど。
「いえ、お構いなく。……その件に関しては、後ほど東と話し合いますので。」
「ちょ、千ちゃん、それ、この前散々話したよね……」
ちらり、と東さんがこちらに助けを求めてくる。
「いえその、千菜さん、いまのはほぼ大助の被害妄想なので、落ち着いてください。ねえ大助?」
「す、すみません、今のは不適切だったかもしれません……」
大助もさすがに目の前で巻き起こる修羅場には耐えかねたようで、珍しく東さんに対して謝罪する。
「な、そうだよな? 誤解はあったかもしれんが、俺たち付き合って長いから。大助クンにも、俺が民人に気がないことをわかってもらって、仲良くして欲しいなー、なんて」
「……それは今後の東さん次第ですが、今回ご紹介いただいた主旨は理解しました」

これで大助の東さんに対する敵対心が解けて意気投合、その結果二人仲良くランチ……とかだったら、僕もひとつ面倒ごと……もとい、心配ごとが減って一件落着。
なんだけれど。
その日、東さんから差し出された右手を、大助が握り返すことは無かったもので。
(振り返ったところで、余計わからない……)
あと、本当に千菜さんとの誤解は解けたんだろうか。
どうしよう、今度会ったときに泥棒猫とか言われたら。
いや、もしかして、家庭教師クビになったり……。
(そんな人でもないか……優しそうだし)
僕は僕で、1つ人間関係に課題ができたわけだ。
社会と関わりを持った証拠、といえば、良いことなのかもしれない?
「はぁ……」
それにしても、二人して何話ししてるんだろう。
共通点もないだろうし、……うん、やっぱり考えたけど、ない。
大助が出て行って3時間。そろそろ帰ってきてる時間なんじゃないかと思う。
一か八か、聞いてみるか……

「……先生? どうしたんですか?」
思い立ったところで、隣から少女に呼びかけられる。
「え……、あ! ごめん! なんでもないよ」
こちらをのぞき込むのは、おそらく問題を解き終わったのであろう、杏奈ちゃん。
……すっかりトリップしてしまっていたが、今は家庭教師の時間だった。
休み明けの実力テストも無事良好な結果で、僕もほっとしていたとはいえ、さすがに気が抜けすぎていて良くない。
反省していると、杏奈ちゃんは少し心配そうに尋ねてくる。
「先生、今日ちょっとそわそわしてませんか?」
「ごめんね、ちょっと……駄目だよね、ぼけーっとしてて」
杏奈ちゃんは気にすることもなく、にこりと笑う。
「えへへ、先生、ちゃんと教えてくれて助かってますけど。たまには息抜きもしたいです」
ちょうど1時間経ちましたし、と時計を指さす。
「そういってもらえるとありがたいかな……」
杏奈ちゃんはシャーペンを机に置き、お菓子の小袋を手に取った。
「と、いうことで。どうしたんですか?」
興味津々、というふうに僕を見る。
……杏奈ちゃんは何に対しても好奇心旺盛で、良いところだと思うけど、ときどきこうしてドキっとするところを突かれるので敵わない。
「実は今日、大助……あ、同居人ね。あの、茶髪のあいつ。あいつがなぜか僕の友達と二人で出かけてるんだけど」
……というか君のお兄さんの彼氏なんだけど、知ってるんだろうか。
「どうも二人は仲悪い……というか大助が一方的に嫌ってるから、ちょっと心配で……」
知ってか知らずか、目を輝かせて僕の話に相づちを打つ。
「先生とその人は仲いいのに?」
「むしろ、だから嫌ってるというか……あ、いや、なんでもない」
思ったことがそのまま口に出てしまった。
完全にいらないことを言ってしまった気がする。
「修羅場……?」
「ぐっ……」
真面目な顔をして(なぜか)考え始める杏奈ちゃんの一言が胸に突き刺さる。
「あ、ごめんなさい。プライベートな話をずけずけと聞きすぎてしまいました。お二人とも、仲良くなってるといいですね」
「うん、そうだね……ありがとう、ちょっと人に話したら楽になったかも……」
「ぜんぜん。これからも先生の話、聞きたいです。詳細はわかりませんが……先生も素直に、同居人さんとお話ししてみては?」
杏奈ちゃんはにこりと笑って、再びシャーペンを手に取る。
「うん、そうだね、ありがとう。また、おもしろい話があったらね。……じゃあ、続き始めようか」
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