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ふたりの約束
ふたりの約束 2
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「えっと……1104号室は……」
朝からそわそわしていたが、あっという間に約束の17時まであと5分。
同じマンションだから1分かからないだろうけど、エレベーターが混んでるとか、いろいろ考えて少し前に家を出た。
結局順調にたどり着き、「池澤」と書かれた1104号室の前に佇む。
「ど、どうしよう、もうインターホン鳴らしていいのかな」
早すぎるのも迷惑か、準備中だったら迷惑だよなあと部屋の前をぐるぐると回る。
しかし、同じフロアの通りかかった住人たちからはどうも、僕を見ては怪訝そうな顔をするので、うろうろするのも諦めた。
たしかにこれでは、空き巣とか不審者に間違えられても仕方ない。
思い切ってインターホンを押そうと手を伸ばしたとき。
「あの、朝倉さん、でしょうか?」
「……はい」
カチャリ、とドアが開き、中から少女が顔を出した。
「すみません、こういうの慣れてなくて」
東さんの話だと、彼女は年の少し離れた兄と二人暮らしだということだ。
そのお兄さんが東さんの友人ということだ。
今日はお兄さんは不在とのことで、少しがっかりした。
――あの東さんと仲良くできる人、とても気になるので、少し会ってみたかったんだけど。
さて、さっぱり片付いた居間に通されると、手慣れた様子で僕のぶんの茶菓子まで準備してくれた。
「私こそ、家庭教師をお願いするのも、友達以外を家にお招きするのもはじめてなので……」
これからは時間に来ていただければ、インターホンで大丈夫ですからね、と気遣いの言葉をかけてくれる。
なんというか、しっかりした子だ。
「改めまして、朝倉民人です。このマンションの8階に住んでて……と、それはいいか。週に1回、2時間よろしくおねがいします」
「池澤杏奈です。引き受けていただいてありがとうございます。このあたりの、中央第一高校の3年生です」
向かいに座る女の子は、礼儀正しくお辞儀をする。
僕のほうが学ぶことが多いのではないかという、完璧な所作だった。
「早速だけど……教科は、数学だよね。大学は内部進学の予定って聞いてるから、メインは定期テスト対策かな?」
「はい。あ、でももし一般で受験することになるといけないので、一応受験対策も進めたくて」
その話しぶりから、彼女がいかに慎重に物事をすすめるのかよくわかった。
そりゃ、成績優秀なのに家庭教師をつけるくらいだもんね。
「うん、わかった。テスト期間近づいたらテスト対策って感じにしようか」
「はい。次のテストは9月なので、まずはこの参考書を……」
杏奈ちゃんは聞いた話通り成績優秀で、しっかりした子だった。
参考書もそこそこやり込んでいて、メインは彼女が解いていてわからなかった部分を僕が解説する程度。
この調子だとすぐ参考書終わっちゃいそうだから、僕が類似問題とかを準備したほうがいいかも。
なんだかんだで2時間はあっという間だった。
途中に休憩を挟んで雑談もしたけど、どうやら僕が訳ありなことは聞いているみたいで、あまり僕の経歴などは質問されなかった。
そのあたりもよく気遣いのできる子というか、立派だなあ。
僕の同居人である大助が大学生という話をしたときは、大助の大学は彼女の志望校とは異なるところだったけれど、それでも目を輝かせて普段の生活についてもっと聞きたいと言っていたから、やっぱり大学生活に興味深々のようだ。
落ち着いた子だと思ったけれど、年相応の好奇心もあって、微笑ましい。
「……そろそろ時間だね。どうだった? 僕の説明でわからないところとか」
「ありがとうございました。有意義な時間でした。やっぱりマンツーマンで解説していただけるっていうのは良いですね」
「期待に応えられたみたいで安心です。僕も杏奈ちゃんに負けないようにがんばらなくちゃだね」
「先生、充分ですよ。学校の数学の先生よりわかりやすかったかも」
「えへへ、そうかなあ」
しかし、「先生」と呼ばれるのはむず痒い。
けれど、説明がわかってもらえて嬉しいなあ。
「はい。今日はありがとうございました」
深々とお辞儀をして、玄関まで見送ってくれる。
初日は無事、朗らかに終了した。
朝からそわそわしていたが、あっという間に約束の17時まであと5分。
同じマンションだから1分かからないだろうけど、エレベーターが混んでるとか、いろいろ考えて少し前に家を出た。
結局順調にたどり着き、「池澤」と書かれた1104号室の前に佇む。
「ど、どうしよう、もうインターホン鳴らしていいのかな」
早すぎるのも迷惑か、準備中だったら迷惑だよなあと部屋の前をぐるぐると回る。
しかし、同じフロアの通りかかった住人たちからはどうも、僕を見ては怪訝そうな顔をするので、うろうろするのも諦めた。
たしかにこれでは、空き巣とか不審者に間違えられても仕方ない。
思い切ってインターホンを押そうと手を伸ばしたとき。
「あの、朝倉さん、でしょうか?」
「……はい」
カチャリ、とドアが開き、中から少女が顔を出した。
「すみません、こういうの慣れてなくて」
東さんの話だと、彼女は年の少し離れた兄と二人暮らしだということだ。
そのお兄さんが東さんの友人ということだ。
今日はお兄さんは不在とのことで、少しがっかりした。
――あの東さんと仲良くできる人、とても気になるので、少し会ってみたかったんだけど。
さて、さっぱり片付いた居間に通されると、手慣れた様子で僕のぶんの茶菓子まで準備してくれた。
「私こそ、家庭教師をお願いするのも、友達以外を家にお招きするのもはじめてなので……」
これからは時間に来ていただければ、インターホンで大丈夫ですからね、と気遣いの言葉をかけてくれる。
なんというか、しっかりした子だ。
「改めまして、朝倉民人です。このマンションの8階に住んでて……と、それはいいか。週に1回、2時間よろしくおねがいします」
「池澤杏奈です。引き受けていただいてありがとうございます。このあたりの、中央第一高校の3年生です」
向かいに座る女の子は、礼儀正しくお辞儀をする。
僕のほうが学ぶことが多いのではないかという、完璧な所作だった。
「早速だけど……教科は、数学だよね。大学は内部進学の予定って聞いてるから、メインは定期テスト対策かな?」
「はい。あ、でももし一般で受験することになるといけないので、一応受験対策も進めたくて」
その話しぶりから、彼女がいかに慎重に物事をすすめるのかよくわかった。
そりゃ、成績優秀なのに家庭教師をつけるくらいだもんね。
「うん、わかった。テスト期間近づいたらテスト対策って感じにしようか」
「はい。次のテストは9月なので、まずはこの参考書を……」
杏奈ちゃんは聞いた話通り成績優秀で、しっかりした子だった。
参考書もそこそこやり込んでいて、メインは彼女が解いていてわからなかった部分を僕が解説する程度。
この調子だとすぐ参考書終わっちゃいそうだから、僕が類似問題とかを準備したほうがいいかも。
なんだかんだで2時間はあっという間だった。
途中に休憩を挟んで雑談もしたけど、どうやら僕が訳ありなことは聞いているみたいで、あまり僕の経歴などは質問されなかった。
そのあたりもよく気遣いのできる子というか、立派だなあ。
僕の同居人である大助が大学生という話をしたときは、大助の大学は彼女の志望校とは異なるところだったけれど、それでも目を輝かせて普段の生活についてもっと聞きたいと言っていたから、やっぱり大学生活に興味深々のようだ。
落ち着いた子だと思ったけれど、年相応の好奇心もあって、微笑ましい。
「……そろそろ時間だね。どうだった? 僕の説明でわからないところとか」
「ありがとうございました。有意義な時間でした。やっぱりマンツーマンで解説していただけるっていうのは良いですね」
「期待に応えられたみたいで安心です。僕も杏奈ちゃんに負けないようにがんばらなくちゃだね」
「先生、充分ですよ。学校の数学の先生よりわかりやすかったかも」
「えへへ、そうかなあ」
しかし、「先生」と呼ばれるのはむず痒い。
けれど、説明がわかってもらえて嬉しいなあ。
「はい。今日はありがとうございました」
深々とお辞儀をして、玄関まで見送ってくれる。
初日は無事、朗らかに終了した。
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