ふたつの嘘

noriko

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ふたつのしあわせ

ふたつのしあわせ 4

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「……朝かあ」
自室で眠るのは久々だった。
理由は……言いたくないけど。
目覚めたときに一人であることに違和感すら感じてしまっていることに、自然とため息が出る。
「まさか、大助とこんな関係になるなんて、あのときは思ってなかったなあ」
そんなときに思い出していたのが、「僕」の一番最初の記憶。
こうやって僕は民人として生きている間に、やっぱり予想通り、綺羅としての記憶はさっぱりなくなっていった。
もしかしたら、ひょんなことから思い出すこともあるかもしれないけど、今のところその切っ掛けもなく。
ただ、思い出すというよりは「事実確認」として、僕は綺羅としての自分と、向き合っていきたいと思っている。

そんな一歩を、今日踏み出す。
朝食の準備をしようと、いつものようにキッチンに向かっている途中で、キッチンから物音と、香ばしい香りがたっているのを感じる。
気になって向かうと、そこには着替えと支度を済ませた大助がたたずんでいた。

「おはよう民人くん」
目玉焼きのはぜるフライパンの前で、にこりと微笑む大助。
「おはよう、大助。あれ、今日もしかして朝早かった? ごめん――」
「ううん、今日は民人君、初めてのバイトでしょ。朝食の支度くらい俺にやらせて」
それは大助なりの気遣いで、僕は大人しく、お言葉に甘えることにした。

手持ち無沙汰なので、大助が支度をしている間にコーヒーを淹れる。
これは普段は大助がやってくれていることで、少し緊張する。
そうこうしているうちに、目玉焼きとウィンナーが並べられる。
「ありがとう。いい匂い」
「たまには交代もいいよね」
なんて笑いながら、少し余裕のある朝を迎えた。
「よく眠れた?」
そう聞かれて、うなずいて返すと、よかった、と返答があった。
――本当は朝、隣に大助がいないのはちょっと寂しかったけど。
それを言うのは少し悔しくて、黙っておいた。
でも、好きな人とこうして、ゆっくり過ごせるのって、幸せだなあ。
「民人君、どうしたのにやついて。そんなに楽しみ?」
そんな気持ちは顔に出ていたみたいで、大助からからかわれる。
「違……、いや、うん、そうだね」
バイトが楽しみなのもあるけど、まあ、これも言わないでおこう。


今日は一限から講義があるという大助を、いつものように見送る。
でも、それからの一日は、いつもとは違う。
向かうのは夕方だけど、新調した文房具とか、鞄の中をもう一度確認して。
僕は、民人として、歩み出す。
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