ふたつの嘘

noriko

文字の大きさ
上 下
5 / 65
ふたつの夢がありました

ふたつの夢がありました 1

しおりを挟む

「そんな訳でさぁ、俺は健気にかませ犬を演じたわけ」
この季節は、夜が更けても暑い。
じっとりとした汗が二人を包む。
離れたい、でもそれすら面倒くさい湿気が、この地域の嫌いなところだった。

眼鏡をかけていないせいで折角の顔を拝めないせいか、忌々しげな顔をしたその男は、ぐしゃりと恋人の黒髪を掴む。
「東、久々に会ったと思ったら浮気の報告か」
「千ちゃんが俺に構ってくれないのが悪いんだ。それに俺、かませ犬だし」

千菜(せんな)と東が特別な関係となったのは随分と前のことだ。

お互い飽きることもなく付き合ってきたが、今年の春に千菜が研修医となってからは、なかなか会う機会を得られなかった。
「煙草も辞めてないし」
「これはやめらんねーよ。セックスと一緒」
そんな東の言葉を聞いて、千菜は顔を真っ赤にする。
「ふ、ふざけるのも大概にしてくれ!」
千菜の、全く事の手の話題に慣れない所に、東はのめり込んだ。

「相変わらず真面目すぎるんだよ」
「冗談抜きで、お前、煙草臭いから」
呆れた顔をする千菜に、東はにやりと返す。
「だから、お前の家じゃ、吸ってないだろ」

ここは、マンションの一室。
最上階のそこからの眺めは、最高だった。

ここ以外に背の高い建物はなく、穏やかな夜景が一望できる。

そんな千菜の部屋を、東は気に入っていた。

「当たり前だ、杏奈の教育に悪い」

どこかで聞いた言葉に、東は思わず吹き出す。

「ここの住人は、教育ママばっかりかよ」

「いちいちうるさい!」

しかめ面で東に牙を剥く千菜も、恋人に髪を撫でられて、ついつい大人しくなる。

「とか言いつつ、お前からも煙草の匂い、するんだけど」

その言葉に、千菜の頬はさらに真っ赤に染まる。

「い、一日一本だけだ」

その頬に手を添え、互いの額を近づける。
「俺と同じやつ」

「……お前が構ってくれないから」

目を逸らしながらも紡がれる本心に、東の心は踊る。

それで、自分と同じ匂いのする唇を貪った。

「身体に悪いのに? センセーがこんなんでいいの?」
「うるさい、お前の代わりだ。要するにお前は煙草だ、お前イコール煙草だ。」
「うわ、なんだよそれ」
結局素直じゃないんだから、と思いつつも、今日のところは気分も良くて、許してやろう、と目一杯笑う。

「まあいいや。……こんなんより、もっといいもんたっぷり咥えさせてやるから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...