ふたつの嘘

noriko

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ふたつの嘘をつきました

ふたつの嘘をつきました 4

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「民人くん、好きなんだ。俺を受け止めて」


それが聞けて、安心する。
言葉は紡ぎたくなくて、代わりに彼へ腕を回した。
そして、彼の顔を見上げれば、唇が合わさった。

ずっと、待ってた。

大助は、僕の全てだから。

僕の全てを、大助のものに、したかった。

「約束する、最初も、最後まで、大助だけだから」



「ずっと、こうしたかった」 


僕だって、ずっとこうされたかった。 
真夏の昼間、彼の部屋、ベッドの上。 
クーラーもつけず、代わりに身に纏うものは全て剥がされた。 

熱い。 
同じく、何も着ていない大助の引き締まった体。 
彼と繋いだ手が熱い。 
彼に触れられた部分が、熱い。 

こんなに暑いのに、抱き合ったままでしばらく、なんでもないことを話していた。 

「民人君、俺、すごく幸せだよ」 
「大助、僕も、すごく幸せ」 
そう、大助と、心も、――それから身体も、通じ合った。 

「いきなり、無茶させちゃったかな」 

優しく気遣う彼の声色が、心地良い。 

「ううん、嬉しいんだ。大助を感じられて」 

そう答えれば、瞼に口付けが降る。 


――初めて、だから、気遣ってくれるんだ。 



彼と心を通わせられたのに、彼にすべてを捧げられるのに、心に靄がかかった感覚がした。 


だって、僕は「初めて」だと言った。 


人を好きになるのだって、もちろん、人と身体を重ねるのも、これが初めての経験だ。 

でも、それは飽く迄も「民人」として。 

「俺も、民人君の全部、もらえて嬉しい」 

そう言って、優しく、嬉しそうに僕の髪をなでてくれる大助を、裏切りたくなかった。 


だから、これは心の中に閉まっておくけれど。 
彼に抱かれた時、僕は気づいてしまったのだ。 
温かい身体に包まれる感覚も、植え付けられるその快感も、身体が覚えていることを。 
男(ひと)に抱かれるのは、これが初めてではない、ということを。 

――僕はまた、大助に嘘をついてしまった。 


もしかしたら、大助はこんなこと、気にしないのかもしれない。
それでも、自己満足かもしれないけれど、初めては大助が良かった。
それなのに、身体は、頭の何処かでは、大助以外を知っていた。
「……民人くん、なんか、ちょっと暗い顔してない?」
「……怖いんだ、幸せすぎて」
それも、本心だった。





僕は、全てを捧げた人に、嘘をふたつついている。

そんな僕が、こんなにも幸せで、許されるのだろうか。



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