上 下
67 / 89
処刑執行

処刑当日⑨

しおりを挟む
『上手くいったわね』

マルクスの拘束から抜け出したレムは、辺りを見渡し、手のひらを握りしめ自分の感覚を取り戻している。

「まさか、君がシープなのか」

マルクスは、目の前に立つレムの雰囲気が変わったことに警戒しつつ、脳裏によぎった言葉を発した。

『そうよ』

「ずっと会いたかったんだ!姿を現したということは、俺のものになってくれるのかい!」

マルクスは、眠りについていないはずのレムが、シープの力を使ったことなど気にしていないようで、冷静さをかきどこか興奮気味だ。

『残念だけど、貴方みたいな変態に力を貸すつもりなんてないわよ。それに、悪い子は寝る時間よ』

シープは指で輪っかを作るとそこに息を吹き込んだ。
すると白い雲のようにフカフカした物体が辺り一面に広がっていく。

シープは白い物体を指先で操作すると、それがマルクスの顔から足の先までを覆っていく

「ゔうぉ」

声にならないうめきをあげのたうち回っていたマルクスだったが、しばらくすると床に倒れ微動だしなくなった。

『さて、時間がないわね』

今度は、窓の前に立つと、両手を合わせ指先をつけたまま手のひらを離し、先ほどよりも大きな空間を作った。

そして同じように白い物体を作り出した。今度は霧状になると殺伐としている処刑広場が濃い霧に包まれていった。

レムの身体を借りているシープだが、拘束されていた時よりも疲労が増したようで息が明らかに上がっていた。

『後は、この子を安全なところへ避難させないといけないわね。』

なんとか身体を動かして扉へと近づこうとするが、意識が途切れそうにフラフラとしていた。

「レム様ここにいますか!」

マルクスの部下に拘束されていたであろう、新しい傷が増え苦しそうな顔をしているが、ロイがレムを助けるためにやってきた。

シープはロイを見るやいなやその場に倒れそうになった。

「レム様!」

ロイは一瞬で距離を詰め寄ると、包み込むようにして倒れるレムを受け止める。

『ロイー!怖かったよ。助けに来てくれてありがとうー』

シープから、先ほどまでの威厳のある雰囲気がなく、甘えるようにしてロイに抱きついた。

ロイは突然抱きついてきたレムに驚き硬直し、目を丸くする。

『いま傷を癒してあげるね』

シープはロイに口づけをしようと顔を近づける。

「誰だお前。偽物か」

我に帰ったロイは、顔は紛れもなくレムだが、雰囲気と姿がまるで違うことに気づくと、シープの額に手を当てて抑える。

そして、腰の短刀を手に取るとシープの喉元に向けた。

『あー待ちなさいって。外は本物だから。つまんないの。流石に気づかれるわね。ある程度の傷は治しといてあげるからレムのこと任せたわよ』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います

かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。 現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。 一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。 【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。 癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。 レイナの目標は自立する事なのだが……。

無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T
ファンタジー
子爵令嬢のイナビル=ラピアクタは聖印判定の儀式にて、回復魔法が全く使えるようにならない「無才印」持ちと判定されてしまう。 しかし実はその「無才印」こそ、伝説の大聖女の生まれ変わりの証であった。 彼女は普通(前世基準)に聖女の力を振るっている内に周囲の度肝を抜いていき、果てはこの世界の常識までも覆し——

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

婚約破棄された第一王女~婚約者を奪ったくせに今頃、帰ってきてくれ? ごめんなさい、魔王に溺愛されてるので難しそうです~

柊彼方
ファンタジー
「申し訳ございませんエリス様。婚約を破棄させていただきたく」 エルメス王国の第一王女である私、エリスは公爵令息であるマルクと婚約していた。 マルクは賢明で武術においても秀でおり、更には容姿も抜群に整っていた。要約すると最高の婚約者であるということだ。 しかし、そんなエリスの将来設計を一瞬でぶち壊す者がいた。 「ねぇ~マルク~私と姉さんどっちが好き~?」 「…………もちろんミーナ様です」 私の妹、第二王女のミーナだ。 ミーナは私の婚約者を奪ったのである。 エリスは第一王女としての価値を失い、父から第一王女の地位を剥奪されてしまう。 全てを失ったエリスは王宮から追放された挙句に平民になってしまった。 そんなエリスは王宮から出て一人頭を抱えてしまう。 そこでエリスは一つのことを思いだした。幼い頃に母親から読み聞かせてもらっていた冒険者の物語だ。 エリスはそのため、冒険者になることを決心した。 そこで仲間を見つけ、愛情を知っていくエリスなのだが、 ダンジョンである事件が発生し、エリスはダンジョン内で死んでしまった……ということになった。 これは婚約破棄をされ、更には妹に取られてしまうという不幸な第一王女が、冒険業でをしていたところ、魔王に溺愛され、魔界の女王になってしまうような物語。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...