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何でも屋

ビビアンの依頼

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「嫌だけど」

空はビビアンからの依頼を考える間もなく断った。

「どうしてよ。ちゃんと依頼料払うわよ?」

空はこの街の何でも屋として活動していた時期があった。

ビビアンも何度か竹光を通して依頼をしており、それを思い出して空に話を振ってきたのだろう。

「別に仕事にしてるわけじゃないから」

何でも屋の活動は、竹光が空に与えた修行の一環でしかなかった。

「言われてみれば、いつの間にやらなくなったね」

竹光からもう一人前だなと言われたと同時に、空は何でも屋として働く事をすっぱりとやめていた。

竹光が依頼を持ってく事がなくなり、自分でやるほどの事ではないし、めんどくさいというのが大きいかった。

「自ら進んでやってた訳じゃないし、続ける理由がなかったんだよ」

「たったいま、続ける理由ができたわね?この美女からのお願いなのよ」

ビビアンは大きな体格の割に小さな手の動きでクネクネとしながら空に詰め寄る。

「近寄らないでもらっていい?」

いつもならビビアンの絡みから、助けるはずの朱里が割ってこない。

朱里の助けはないと悟った空は、手を伸ばしてビビアンとの距離を必死に取っている。

「その人って、うーくんが言っていた顔のわからない男みたいだね」

朱里の言葉に空がピクッと反応した。

「何よそれ」

ビビアンが見逃さないわよと言わんばかりに、面白そうな話に食いつく。

「えーと」

朱里は余計な事、言ってしまったかなと空の事をチラチラ見ながらビビアンの相手をする。

「ビビアンの依頼受けてあげるよ」

「あら、ほんと!大好きよ!お礼にチューしてあげる」

ビビアンはそういうとカウンターを乗り越え虚の頭を押さえつける。

「何してるのかな?」

嫌がる空にキスをしようとするビビアンは、空の隣から発せられる強い殺意を感じ取った。

「やーね、冗談よ」

ビビアンはそう言いながら2人に飲み物を注ぎ直した。

ー顔のない男

空は1人、自分の記憶の奥底に眠る消したくても消せない記憶を思い返していた。

「とりあえずこの店で物をなくした人の情報をもらえるかな」

空の言葉に「ちょっと待ってね」とビビアンは客の情報をかき並べはじめた。

「さて!助手の私もがんばろっと」

いつの間にか助手の座に座った朱里が元気よく言った。

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