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何でも屋
BARビビアン
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「どうしたの、うーくん」
「いや、俺もこの場所になじんだなと思って」
数日前にこの街で助けた壱野四季とかいう普通の少年に昔の自分が重なったのだろう。
今いる場所の雰囲気やアルコールの匂いにあてられて、空は物思いにふけっていた。
「たしかに、昔のうーくんなら、こんなゴリゴリのおカマがやってるバーなんか来ないよね」
朱里は悪びれる様子なく、カウンターにいる人間を見ながら言う。
「こんな美人を捕まえて何を言うのかしらね。この小娘が!」
この店のマスターであるビビアンは2m近い身長に鍛え上げられた筋骨隆々の身体をしている男だ。
しかし、女性として扱わないと手元のリンゴのように握り潰されてしまうらしい。
「小娘じゃないもん!私はもう大人だもん!」
ビビアンは灯里の父親である竹光と古くからの友人らしい。
灯里の成長をずっと見守ってきたビビアンは彼女たち姉妹の良き理解者でもあった。
言い争ってはいるが仲がいいことの裏返しだ。
「まったく。親の顔が見てみたいわよ。
てかほんとに顔見せなさいよ!今度は竹光も連れてきなさい!分かったわね!」
あまりの剣幕に朱里は少し引き気味になりながらうなづいた。
かつてはゴリゴリの武闘派として名を馳せていた彼女が、今の出立になったのは、竹光のせいだという噂があるとかないとか。
『カランコロン』
「あら、いらっしゃい。いつものでいいかしら」
この店の常連らしい男がやってきた。
ビビアンが席に案内するが、男は今日は飲みにきたわけじゃないと断った。
「ママ、俺の財布落ちてなかった?」
どうやら男は財布をなくし探しているらしい。
「そういった落とし物は預かってないわね」
「そっか。ありがとう。また来るよ」
男はそう言うと店を後にした。
「なんだか最近多いわね」
男を見送りながらビビアンが言う。
「あの人、よく財布を落としたりしてるの?」
空の質問にビビアンは首を振る。
「あの人がって言うわけじゃなくて、この店のお客で何か無くしたって人が後を立たないのよ。酷いやつは私が盗んだなんて言いがかりつけてきて嫌になっちゃうわよ。
アンタが酔っぱらってなくしたんだろって話なのにね。この前もちょっとした喧嘩になったわ」
ビビアンはその時を思い出しながら大変だったのよーと、言いながら拳を握る力が強くなっていた。
「それは大変だね」
灯里はそれほど興味はなさそうに、ジュースを飲みながらビビアンを慰めた。
「でね、その男が言うには、誰かと飲んだ気がするっていうのよ。で、そいつが怪しいから教えろって詰め寄ってきて」
「教えなくて怒られたんだ?」
「誰かいたといわれたらそんな気もするけど、私の記憶にはなかったのよ」
空はビビアンがそんな曖昧な記憶になるなんて事もあるんだなと少し信じられなかった。
こう言う店をやっているだけあってビビアンは人を覚えることに長けているからだ。
「タイプじゃなかったのかしら」
「監視カメラは?」
「私って、か弱いから機械苦手なのよね」
空は、か弱いとか関係ないよねと思いながら、ぶりっこのように振る舞うビビアンに冷たい視線を送った。
「そうだ!依頼するからなんとかしてくれないかしら」
ビビアンは空に向かって両手を合わせながら言った。
「いや、俺もこの場所になじんだなと思って」
数日前にこの街で助けた壱野四季とかいう普通の少年に昔の自分が重なったのだろう。
今いる場所の雰囲気やアルコールの匂いにあてられて、空は物思いにふけっていた。
「たしかに、昔のうーくんなら、こんなゴリゴリのおカマがやってるバーなんか来ないよね」
朱里は悪びれる様子なく、カウンターにいる人間を見ながら言う。
「こんな美人を捕まえて何を言うのかしらね。この小娘が!」
この店のマスターであるビビアンは2m近い身長に鍛え上げられた筋骨隆々の身体をしている男だ。
しかし、女性として扱わないと手元のリンゴのように握り潰されてしまうらしい。
「小娘じゃないもん!私はもう大人だもん!」
ビビアンは灯里の父親である竹光と古くからの友人らしい。
灯里の成長をずっと見守ってきたビビアンは彼女たち姉妹の良き理解者でもあった。
言い争ってはいるが仲がいいことの裏返しだ。
「まったく。親の顔が見てみたいわよ。
てかほんとに顔見せなさいよ!今度は竹光も連れてきなさい!分かったわね!」
あまりの剣幕に朱里は少し引き気味になりながらうなづいた。
かつてはゴリゴリの武闘派として名を馳せていた彼女が、今の出立になったのは、竹光のせいだという噂があるとかないとか。
『カランコロン』
「あら、いらっしゃい。いつものでいいかしら」
この店の常連らしい男がやってきた。
ビビアンが席に案内するが、男は今日は飲みにきたわけじゃないと断った。
「ママ、俺の財布落ちてなかった?」
どうやら男は財布をなくし探しているらしい。
「そういった落とし物は預かってないわね」
「そっか。ありがとう。また来るよ」
男はそう言うと店を後にした。
「なんだか最近多いわね」
男を見送りながらビビアンが言う。
「あの人、よく財布を落としたりしてるの?」
空の質問にビビアンは首を振る。
「あの人がって言うわけじゃなくて、この店のお客で何か無くしたって人が後を立たないのよ。酷いやつは私が盗んだなんて言いがかりつけてきて嫌になっちゃうわよ。
アンタが酔っぱらってなくしたんだろって話なのにね。この前もちょっとした喧嘩になったわ」
ビビアンはその時を思い出しながら大変だったのよーと、言いながら拳を握る力が強くなっていた。
「それは大変だね」
灯里はそれほど興味はなさそうに、ジュースを飲みながらビビアンを慰めた。
「でね、その男が言うには、誰かと飲んだ気がするっていうのよ。で、そいつが怪しいから教えろって詰め寄ってきて」
「教えなくて怒られたんだ?」
「誰かいたといわれたらそんな気もするけど、私の記憶にはなかったのよ」
空はビビアンがそんな曖昧な記憶になるなんて事もあるんだなと少し信じられなかった。
こう言う店をやっているだけあってビビアンは人を覚えることに長けているからだ。
「タイプじゃなかったのかしら」
「監視カメラは?」
「私って、か弱いから機械苦手なのよね」
空は、か弱いとか関係ないよねと思いながら、ぶりっこのように振る舞うビビアンに冷たい視線を送った。
「そうだ!依頼するからなんとかしてくれないかしら」
ビビアンは空に向かって両手を合わせながら言った。
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