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プロローグ
緋扇朱里
しおりを挟む突然目の前に現れた金髪の女は威圧的な態度で空たちを睨みつけてきた。
女の後ろには部下らしき女が数名立っている。
「朝から、男と一緒にご飯とか、噂の緋扇さんは優雅ですねえ」
「何のようですか?」
扉をどかしながら朱里が立ち上がる。
「うちら地元締めちゃったわけね?それでこの辺り一帯も締めようかなと。ただ、雑魚の相手して名を挙げるのも面倒だから、この辺りの有名人をさっさとやっちまおうと思ったんだよね」
金髪は高らかと自分の野望を述べる。
「そんな事で、私とうーくんの朝の時間を邪魔したんですか」
朱里はそんなことはどうでもいいと、話を聞いていないのか別のところで怒っていた。
「何言ってんだお前。うちら、喧嘩売りに来たんだけど?買うの買わないの?買わないなら緋扇倒したって言いふらすだけだけどね。まあ、戦ったところでそうなるだろうけど」
取り巻きの女が捲したてる。
「あなたたちに構ってる暇ないので、とっとと帰ってくれますか」
「それ、私たちの不戦勝ってことでいいのかなあ。しかし、どんな面かと思ったら雑魚そうな面してるよな」
朱里の顔を舐め回すように、覗き込みながら言う。
「帰れといったの聞こえませんでしたか」
朱里が冷たく言い放つ。
それに気圧されたのか、女は一歩たじろいだ。
「まあいい、帰ってやるよ。ただし今日の18時、街外れにある廃工場に来い。場所はこれに書いてある」
そう言うと朱里の眼前に紙切れを突きつけた。
朱里が無言でそれを手に取ると女達はその場から立ち去った。
「朱里大丈夫か?」
「大丈夫なわけないよー。ドア壊されちゃったんだよ!」
朱里は女達などどうでもいいと言った様子で壊れた扉だけを気にしていた。
ただ、渡された紙は無くさないよう、ポケットにしまいこんだのを空は見逃さなかった。
「よし、私は学校に行くからこれはうーくんお願いね!」
「な!ずるいぞ朱里!」
「私はバカだから行かないと進級できなくなるから仕方ないんだよね」
そう言うと、朱里は鞄を手に取り壊れたドアを放置して出て行った。
「姉さんあいつきますかね」
日も沈みかけてきた頃、街外れの廃工場にたむろする人影があった。
今朝の女達が朱里の事を待っていたのだ。今朝の数人から人数は増え、ざっと50人ほど集まっている。
「どーだか。しかし、ここら一帯のレディースが口を揃えて名前を出してきた緋扇朱里があんな抜けてそうな奴だったとはな。この辺りも案外たいした事ないんだな」
「しょせん噂なんてそんなものっす」
「でもこれで、うちらもトップチームっすね」
「リーダーについてきて良かったですよ」
女達はすでに勝負に勝ったかのような祝勝ムードになっている。
「はーい。こんばんわ」
たむろする女達の前に、ごく普通に朱里は現れた。
いくら気を抜いていたとはいえ、正面から現れる朱里に気がつかないはずはない。
しかし、金髪達は朱里が声をかけるまで存在を気にもとめなかった。
その、あまりに自然な現れ方に女達は警戒することを怠っていたのだ。
「な、お前いつの間に」
一気に緊張感が辺りを包みこむ。
「あ、動くと危ないですよ」
「そんな脅し聞かねえよ」
そう言うと1人が朱里に近づこうと立ち上がった。
「って」
一歩踏み出した途端、女の足に痛みが走る。
「なんで」
痛みに足へ目を向けると、どこで切ったのか、女の足から血が流れ出ていた。
「何しやがった」
「足元よく見てみたらどうですか?」
足元に赤い線が浮かび上がっている。
「なんだよこれ、糸?」
よく見ると血で赤く染まった糸が宙に浮いていた。
「正解でーす。ちなみに他の人の周りにも同じのがありますよ」
朱里の言葉に皆、慎重に自分の周りを確認する。
いつの間にか女たちの周囲には、切れ味抜群の糸が張り巡らされていた。
「さて、とりあえず謝ってくれますか」
気軽に動くことのできない状況に、女達から威勢の良さが消える。
「だれが謝るか」
しかし、少なからずあるプライドを守るために必死に抵抗する姿勢を見せようとする。
「今朝のことは悪かった。ドアは弁償するし2度とあんたには喧嘩を売ったりしない。だから、助けてくれ」
そんな中、リーダー格の金髪が朱里に謝った。
「姉さん!なに言ってるんですか!」
当然仲間達はその行動に反発する。
「黙ってろ。これをどうにかさせてから一気に袋にするんだよ」
朱里には聞こえないように小さな声で仲間にいう。
「はあ」
しかし、朱里は不服そうにため息をつく。
「お前達も早く謝れって」
金髪は仲間にも謝らせようとした。
「何もわかってませんね。ドアとか私への敵対心とかどーでもいいんですよ。あなた達の罪は、うーくんと私のラブラブ朝食タイムを邪魔したことですよ」
朱里の予想もしてなかった怒りの原因に金髪達は一瞬ぽかんとした表情をした。
「そうだ、あなたたちに赤い糸を作ってもらいましょう!雨降って地固まるってこと
「赤い糸作れと言われてもどうやって」
「決まってますうー、あなたたちの血でその糸を赤く染めてもらうんですよ。動き回らせないとだからどうしようかな」
狂気じみた発想を、ごくごく当たり前のように話す朱里に女達の恐怖心が増大していく。
「え、ちょっと。冗談ですよね」
「やめて」
朱里は無言でにっこりと微笑みかける。
その場から何とか逃げようと動くたびに周りに貼られる見えない糸が女たちの身体を切りつける。
「その調子で動き回ってくださいね」
「リーダー、助けて」
女達は精神的にも肉体的にも弱り切った様子で、助けを求める。
「もっと赤く染めないと、いい赤い糸にならないですよー」
朱里はその光景に可愛らしい笑みを向ける。
糸で囲まれている彼女たちにしたら、その笑顔は悪魔の微笑みに見えていることだろう。
【ブーブー】
携帯を見ると空からのメッセージが届いていた。
『朱里何してるんだ?そろそろ帰ってこいよ』
空からのメッセージを見て朱里の表情が明るくなる。
「みなさん!赤い糸の効果あったみたいなのでもういいですよ。ご協力ありがとうございました!」
そう言うと朱里は張り巡らされた糸を切ると、その場からすぐに去った。
「助かったのか」
金髪の女たちは全員魂が抜けたかのようにその場に崩れ落ちた。
【ピンポーン】
いつもの朝の光景に昨日と同じくチャイムの音が鳴り響く。
「はい、どちら様ですか?」
「おい、朱里。昨日の今日で普通に出るなよ」
今日は蹴破られることなく、普通にドアを開ける。ドアの先には金髪たちが立っていた。
「あなたたち、私とうーくんの朝の時間を邪魔するとどうなるかまた思い知らされたいんですか?」
「あの!すみませんでした。自分ら調子乗ってました!朱里の姉貴の下につかせてください!」
昨日の威圧的な態度はどこにいったのか、朱里を見た途端少し怯えながらも一斉に頭をさげる。
「えーと、私別にそう言うの求めてないので」
「姉貴の強さは本物です。それにあの非道な所、天下を取るに相応しいです」
「あのー。だからですねー」
朱里を見る目が羨望の眼差しへと変わっていた。
「朱里は俺と違って友達すぐ作れるよな」
その様子を見ながら、空はどこか羨ましそうに呟いた。
「こんな友達ばっかいらないよおー」
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