九十九神と過ごす陰陽道

プロローグ

1

「おじいちゃん朝ごはんできたよー」

窓から差し込む朝陽が、台所に優しい光を運んでいる。

「おお、すまなん弥生」

弥生に呼ばれた巌流がやって来る。

弥生が手際よく作り上げた朝食が、食卓に美しく並べられていた。

「また腕を上げたんじゃないか？」

巌流は微笑みながら、味わい深い笑顔を見せた。

「何年も料理してたら美味くもなるでしょ。これでいつでもお嫁さんにいけるかな」

「ごふっごふっ」

「ちょっとおじいちゃん大丈夫」

咳き込む巌流に弥生がお茶を手渡し背中をさする。

「彼岸が見えるところじゃったわ」

「もう、歳なんだから気をつけてよ」

食卓でのやりとりは、ほのぼのとした雰囲気の中で続いていた。

「弥生が跡を継いでくれるのなら隠居するんじゃがな」

「え？私継がないわよ」

巌流が驚きの表情を見せた。

「な、、、まさか本当に結婚相手がおるのか！？」

「なんでそうなるの」

「てっきりどこぞの軟弱者と結婚するから跡を継がぬのかと思うてな」

「違うわよ。わたしにもやりたい事があるの。もう行かないと」

そう言って学校に向かった弥生の背中を見ながら、巌流は静かに何かを考えているようにみえた。


「2年生になったら3年生は直ぐ受験も目の前に迫ってると思えよ。とりあえずいま時点の進路希望を考えて終業式までに提出するように」

朝のHRで担任が進路希望票を配りながら言う。卒業式も終わり春休みを待つだけの長閑な日常に面倒くさい話が舞い込んでくる。

「進路とかまだ分かんないってー」

明るく染めた髪が目立つ大友一花がめんどくさそうに言う。

「そうだね」

「とかいって、弥生には立派な神社があるじゃん」

「弥生ちゃんお坊さんになるの？あれ、女のお坊さんっているの？」

どこか抜けた雰囲気を醸し出しながら、宮越優香が言う。

「ねえねえ、由緒正しい神社って許嫁とかいないの？」

藤咲玲奈が興味深そうに質問してきた。

「え！そうなの？もう、なんで黙ってたのよ。でも弥生が彼氏作らないのは不思議だったから納得だー。神木高校7不思議の１つが解決したよ」

一花は驚いた反応をしたのちに、勝手に納得したようで「うんうん」と頷いている。

「許嫁とかいないから！それに何よその七不思議は」

「だってこの一年で何人のイケメンを振ってきた？」

一花が指を折って記憶を遡る。

2人の様子を優香は慌てた様子で、玲奈は少し笑みを浮かべながら見ていた。