九十九神と過ごす陰陽道

たつき

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東野宮紫苑

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「うっ」

朦朧とする視界に頭を押さえながら、紫苑はベッドから起き上がる。

弥生に起こされて一度起きたはずなのに何故ベッドに寝ているのか記憶を手繰り寄せた。

「やっと起きたわね」

椅子に座り雑誌を読んでいる弥生を目にして何が起きたのか鮮明に思い出した。

「よくもあんな強烈な一撃を」

「紫苑が悪いんでしょ。セクハラで通報しないだけ感謝して欲しいわ」

弥生は悪いと思う気持ちは微塵もないのか雑誌から顔を離さないで、返事を返してくる。

「少しくらい悪いと思ってもいいんじゃないのか?」

弥生の態度に紫苑も少し不満気だ。

「もう起きたしいいでしょ。じゃあね」

弥生はそう言うと読んでいた雑誌を閉じると部屋から出て行った。

どれくらい時間が経ったのか時計を見ると、2時間近く経過していた。

「弥生の奴、ずっとついててくれたのか。あいつなりに心配はしてくれてたんだな」

久しぶりに会ったことで、素直になれなくてあの態度だと思うと、少し可愛く思えた。

「なに、ニヤついてるのよ」

部屋を出て行ったと思った、弥生が再び部屋に入ってきた。

「おじいちゃんが目が覚めたらこいって言ってたこと伝え忘れてたから」

「巌流さまが?わかったよ」

〔あと、ごめん〕

弥生が去り際に言った言葉は、紫苑の耳には届かなかった。

「弥生の奴最後なんか変だったか?まあいいやそれより巌流さまのとこ行かないと」

紫苑はベッドから起き上がり、服を着替えると巌流のいる本殿に向かった。

「起きたようじゃな」

本殿に着くと、待ちわびたといった様子で巌流が声をかけてきた。

「お待たせしたようで、申し訳ございません」

「弥生の一撃の威力は凄いからのお。あやつなりのスキンシップじゃ、受け止めてやってくれ」

気絶するほどの絡みをスキンシップで一括りにするべきかと思ったが、それが弥生かと1人納得する。

「まあそうですね。それより話があるとか」

「東野宮を継ぐ覚悟が本当にあるか問うておこうかと思うてな」

「覚悟ですか。今は弥生も嫌がった素振りをしていますが大丈夫っすよ。なにより俺は結婚する覚悟があります」

紫苑は自信を持ってこたえる。

「紫苑よ、結婚への覚悟も大事なことではあるがの。もう少し真面目な話なんじゃよ」

「あはは。巌流様ジョークですよ。ジョーク」

紫苑は恥ずかしさからなんとか逃れようとした。

「我が東野宮の主な役目は、九十九神を取り扱うことだと知っておるの?」

「東野宮神社は九十九神と見なされる道具を引き取り奉り清めることで平穏を守っているんですよね」

「そこで、早速ではあるがお主にはその力をつけてもらうことにした」

「俺も多少の霊感はありますよ?」

「東野宮の本流としての力はまた別物よ」

いつもの優し気な雰囲気ではなく、威圧感さえ感じられる巌流の雰囲気に空気がピリつくのを感じた。

「これから話すのは門外不出の秘伝じゃ。この力を身につけるということは後戻りはできなくなるぞ。よいか?」

「元より、俺は東野宮を継ぐつもりです」

「よかろう」

「ただ、ひとつ問題が。弥生との結婚です。あいつが受け入れてくれるとはとても」

紫苑は10年ぶりに再会した弥生の態度に、好かれてはいないのだろうなと感じていた。

「それはどうにかなるじゃろ。小さな頃は仲良しだったわけだし。それに、既成事実を作ればよい」

「それって」

紫苑は巌流の爆弾発言に息を飲み込む。

「そういうことじゃ。門外不出である東野宮の力を受け継いだとなれば、後継になるほか無いからの」

「あー、はい」

紫苑は想像していたのと違う答えに、つい返事が適当になった。

「まずは、紫苑。お主の力をいま一度見せてみよ」
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