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東野宮紫苑
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カーテンの隙間から太陽の光が部屋に差し、小鳥のさえずりが聞こえる清々しい朝。
「紫苑、早く起きなさいってば」
そんな光景と似つかわしくない大きな声が、部屋一面に響き渡る。
挙げ句の果てには掛け布団を剥ぎ取られる始末だ。
「何するんだよ」
「あんたが起きないから悪いんでしょうが」
見るからにイライラマックスの表情で弥生が言いはなつ。
「弥生、ブッサイクな顔してるな」
「は?」
寝ぼけていたせいか、つい口走ってしまった。
やらかしたと思った時にはとうてい取り返しなんてつかない。次に飛んでくるであろう鉄拳に覚悟を決める時間しか無かった。
「おじいちゃん連れてきたよ」
弥生におじいちゃんと呼ばれた1人テーブルの前に座り新聞を広げる老人。この老人が神社の神主である東野宮巌流だ。
長く伸びた白髪に白ひげはどこかの仙人を彷彿とさせる。
「おはようございます」
弥生に引っ張られながら巌流に挨拶を交わす。
「すぐ準備するね」
弥生は作りかけていた朝食の準備を再開した。
紫苑は眠気まなこを擦りながら、おぼつかない足取りで巌流の正面に座る。
「弥生にやられたようじゃな」
「ほんと、酷いんですよ弥生のやつ」
「そんな酷いことしてないから。そもそも起きない紫苑が悪いでしょ」
「あのな弥生、こんな気持ちのいい朝、寝てないと損だろう」
「あんたの頭の中はどうなってるのかな。開いて見てみようかな」
弥生の右手に包丁が光り輝く。
紫苑は弥生の表情に思わず頭を押さえ縮こまる。
「弥生、危ないからやめなさい。紫苑ももう少し考えて発言することじゃ」
「ごめんなさい」
2人は巌流の、言うことに素直に謝った。
「しかしこれから毎朝この調子となると、弥生が可哀想じゃの」
「そうだよ。おじいちゃん紫苑にキツく言ってよ」
「巌流様、しかしですね頑張っても睡魔には打ち勝つことができないというかなんというか」
巌流からのお叱りを受けるのを恐れた紫苑はしどろもどろに言い訳をしようとする。
「大丈夫じゃ。わしに考えがある」
「なに?」
「2人一緒に寝れば良い」
「え?どういう意味?」
「そのままの意味じゃ。同じ部屋で寝ればわざわざ起こしに行く必要もない。それに一緒に過ごすことで生活リズムも近づくじゃろ。ほぉっほっほっ」
巌流は自慢の白ひげを撫で機嫌良さそうに笑いながら2人に言った。
「巌流様が言うなら仕方ないですね。私はまだまだ、未熟者ではありますがその言いつけに従いましょう」
巌流の提案に喜びの感情を隠しながら、急にかしこまった言い方で紫苑は答えた。
「絶対やだ」
弥生は紫苑の反応とは違い拒絶感を前面に出しそれを断った。
「しかし、お主ら結婚するわけじゃしのお」
巌流からの提案にも驚いたが、それ以上に今の発言に驚いた2人はその場でピクリとも動かない。
「ねえ、何の話」
ようやく我に帰った弥生は巌流に問いかける。
「紫苑をこの神社の跡取りにするといったじゃろ?それで、この春からここに住むことになったわけだしの」
「その話は聞いたけど、それって血筋のある紫苑を養子として迎え入れるんじゃないの」
「いや。継ぐなら養子ではなくちゃんとしないといかん。いくら、血筋があろうがそれでは長年の歴史が切れてしまうからの」
「そもそも私達って親戚関係だよ。いとこは結婚なんてできないでしょ」
「いやの、いとこでも結婚はできる。そこは問題ない。それに歴史上親類の結婚はされてきておるし、家みたいな特殊な家庭なら世間の目もそれほど冷たくなかろう」
「でもでも」
「何じゃ、弥生は紫苑のこと好いてると思っておったがの。昔は2人で結婚しようと言っておったじゃろうに」
「そんな昔の話覚えてないもん!」
弥生は若干顔を赤らめながら巌流に反発している。
「紫苑もなんか言いなよ」
弥生から声をかけられ固まっていた紫苑が我に帰った。
「子供は何人作ろうか」
「黙れバカ!」
弥生の渾身の平手打ちが決まり、再び紫苑は動かなくなった。
「紫苑、早く起きなさいってば」
そんな光景と似つかわしくない大きな声が、部屋一面に響き渡る。
挙げ句の果てには掛け布団を剥ぎ取られる始末だ。
「何するんだよ」
「あんたが起きないから悪いんでしょうが」
見るからにイライラマックスの表情で弥生が言いはなつ。
「弥生、ブッサイクな顔してるな」
「は?」
寝ぼけていたせいか、つい口走ってしまった。
やらかしたと思った時にはとうてい取り返しなんてつかない。次に飛んでくるであろう鉄拳に覚悟を決める時間しか無かった。
「おじいちゃん連れてきたよ」
弥生におじいちゃんと呼ばれた1人テーブルの前に座り新聞を広げる老人。この老人が神社の神主である東野宮巌流だ。
長く伸びた白髪に白ひげはどこかの仙人を彷彿とさせる。
「おはようございます」
弥生に引っ張られながら巌流に挨拶を交わす。
「すぐ準備するね」
弥生は作りかけていた朝食の準備を再開した。
紫苑は眠気まなこを擦りながら、おぼつかない足取りで巌流の正面に座る。
「弥生にやられたようじゃな」
「ほんと、酷いんですよ弥生のやつ」
「そんな酷いことしてないから。そもそも起きない紫苑が悪いでしょ」
「あのな弥生、こんな気持ちのいい朝、寝てないと損だろう」
「あんたの頭の中はどうなってるのかな。開いて見てみようかな」
弥生の右手に包丁が光り輝く。
紫苑は弥生の表情に思わず頭を押さえ縮こまる。
「弥生、危ないからやめなさい。紫苑ももう少し考えて発言することじゃ」
「ごめんなさい」
2人は巌流の、言うことに素直に謝った。
「しかしこれから毎朝この調子となると、弥生が可哀想じゃの」
「そうだよ。おじいちゃん紫苑にキツく言ってよ」
「巌流様、しかしですね頑張っても睡魔には打ち勝つことができないというかなんというか」
巌流からのお叱りを受けるのを恐れた紫苑はしどろもどろに言い訳をしようとする。
「大丈夫じゃ。わしに考えがある」
「なに?」
「2人一緒に寝れば良い」
「え?どういう意味?」
「そのままの意味じゃ。同じ部屋で寝ればわざわざ起こしに行く必要もない。それに一緒に過ごすことで生活リズムも近づくじゃろ。ほぉっほっほっ」
巌流は自慢の白ひげを撫で機嫌良さそうに笑いながら2人に言った。
「巌流様が言うなら仕方ないですね。私はまだまだ、未熟者ではありますがその言いつけに従いましょう」
巌流の提案に喜びの感情を隠しながら、急にかしこまった言い方で紫苑は答えた。
「絶対やだ」
弥生は紫苑の反応とは違い拒絶感を前面に出しそれを断った。
「しかし、お主ら結婚するわけじゃしのお」
巌流からの提案にも驚いたが、それ以上に今の発言に驚いた2人はその場でピクリとも動かない。
「ねえ、何の話」
ようやく我に帰った弥生は巌流に問いかける。
「紫苑をこの神社の跡取りにするといったじゃろ?それで、この春からここに住むことになったわけだしの」
「その話は聞いたけど、それって血筋のある紫苑を養子として迎え入れるんじゃないの」
「いや。継ぐなら養子ではなくちゃんとしないといかん。いくら、血筋があろうがそれでは長年の歴史が切れてしまうからの」
「そもそも私達って親戚関係だよ。いとこは結婚なんてできないでしょ」
「いやの、いとこでも結婚はできる。そこは問題ない。それに歴史上親類の結婚はされてきておるし、家みたいな特殊な家庭なら世間の目もそれほど冷たくなかろう」
「でもでも」
「何じゃ、弥生は紫苑のこと好いてると思っておったがの。昔は2人で結婚しようと言っておったじゃろうに」
「そんな昔の話覚えてないもん!」
弥生は若干顔を赤らめながら巌流に反発している。
「紫苑もなんか言いなよ」
弥生から声をかけられ固まっていた紫苑が我に帰った。
「子供は何人作ろうか」
「黙れバカ!」
弥生の渾身の平手打ちが決まり、再び紫苑は動かなくなった。
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