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「本当のことを話して欲しいんだけどさ、ブレイズ家にはもう聖女としての力はないんだろ?」

ルーカスが先ほどまでとうってかわって優しい口調でテレサに語りかける。

「そもそもブレイズ家が聖女の力を使ったと言うのは、もはや伝承みたいなものだし。いま生きてる人間で目にした人はいないんじゃないか?」

確かにブレイズ家が聖女の力を駆使して魔物を討伐したのは、何代も前の話になる。

「確かにそれは事実です。ですが、我がブレイズ家は聖女の力を持っています」

「それならさ、ここでその力を見せてくれよ。別に魔物がいなくてもそれくらい出来るだろ」

確かに聖女の力を見せつけるのが1番簡単な話だろう。しかしテレサにはそれができない理由がある。

ブレイズ家の聖女の力は、戦女神の加護により力を賜る。しかしその力は強力すぎるため、封印の呪縛も併せ持っているのだ。

危機的状況でもないこんな所で聖女の力を使ったとしても、おそらくは騎士団のいち団員レベルにしかならないだろう。

それでは、ルーカスを納得させることなど到底できそうにない。

「・・・それは無理です」

テレサは俯きながらそう答えるしかなかった。

「聖女の力がない事は認めないし、力を見せることもしない。これじゃあ話にならないね」

「わたしは母から聖女の力を受け継いでいます!聖女の刻印だってここに!」

『ガチャリ』

テレサが胸元に刻まれた聖女の刻印を、ルーカスに見せようとしたところで、扉が開いた。

「テレサ様。どうにもならないからって色仕掛けは、はしたないのでは?」

フィオナが扇で口元を隠しながら、ルーカスの横に座る。

「色仕掛けだなんて!私はただ」

「力が無いだけでなく、内面まで聖女に相応しくないとはな。幼馴染といえガッカリしたよ」

「ルーカス様、そこまで言うなんてテレサ様がかわいそうよ。テレサ様は聖女としての重圧に苦しんでいるの。同じ聖女である私には分かります」

そう言ってフィオナがテレサの手をぎゅっと握る。

「フィオナ様」

普段の嫌みたらしいフィオナではなく、同じ聖女としての苦悩を理解してくれた事にテレサは涙腺が緩みかけた。

「そうですわ。テレサ様を聖女としての重圧から解放してあげませんこと?聖女としての役目は私がテレサ様の分まで頑張りますから」

フィオナがルーカスの膝に手を添えながら言う。

「そうだな。聖女の力がない者をその地位に置いておくのも話がおかしい。フィオナに負担をかけることになると思うがよろしく頼む」

ルーカスがフィオナの手を握りしめて言う。

「待ってください!私は聖女です」

「いい加減見苦しいぞ。テレサ、ブレイズ家はもう聖女として認めない。ルーカス・アルカディアの名の下にお前の聖女としての地位を剥奪する。ただし、ブレイズ家の過去の功績を尊重して咎める事はせぬ」

ルーカスはそう言い残し部屋から出ていく。

「テレサ様、これで余計な負担もなく平穏に暮らせるのではないですか?私なら大丈夫ですよ!テレサ様の分まで聖女としてのお役目を果たしますから」

フィオナは俯き力のないテレサの耳元でそう囁き、ルーカスの後について部屋から出ていった。
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