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広場での酔っ払いの喧嘩を収めたテレサは家に帰ってきた。

テレサは門をくぐり、荘厳な雰囲気に包まれた中庭を抜け、屋敷の扉を開ける。

さすがは聖女の家系だけあり、かなりの豪邸だ。

「ただいま戻りました」

とテレサが言っても、屋敷内からは「おかえりなさい」という反応は返ってこない。

エントランスの高い天井と豪華な家具や絵画が、その静寂を一層引き立てている。

テレサには身内がいない。天涯孤独の身であった。この広い屋敷に1人で暮らしている。

テレサは自室に入り、部屋に飾っている両親の写真を手に取りベットに横になった。

先代の聖女である母親はテレサがまだ幼い時に死んでいる。ブレイズ家の宿命なのか、聖女の力を受け継いだ者はその力に耐えきれないのか短命に終わる者が出てくる事がある。

テレサは6つの時に聖女の力を受け継いで、はや10年になろうとしていた。

父親はアルカディアの大臣の1人として、王家を支えていたが半年前に何者かに暗殺された。

犯人は自害しており、その真相は未だに闇に包まれている。犯人の男は国の人間ではないことは分かっており、どこかの国が聖女の力を狙った陰謀だという疑念がまことしやかに噂されている。

王宮が調査チームを設立したが、調査は難航しているらしく、テレサの元に新しい情報は何も上がってこない。

「お父様、お母様。ブレイズ家は私が守りますから」

エターニア家と比べてブレイズ家の影響力は元々高くない。

たった1人のブレイズ家の人間となったテレサは、ブレイズ家の聖女としての力を誇示するためにも、酔っ払いの喧嘩という些細な諍いを治めて回る日々を過ごしているのだった。

テレサは街で言われた言葉を思い出す。

「お飾りの聖女…、私だって頑張ってるのに。いったいどうしたらいいの」

本来、魔物との戦いでこそブレイズ家の聖女の力は発揮されるのだが、ここ何十年とそのような機会は起きていない。

エターニア家の結界により、魔物がアルカディアの国を襲う事がほとんどないのだ。

近隣にいる棲息している魔物も結界の効力で弱体化しており、騎士団で充分に対応が可能になっている。

それもあり魔物から得られる資源はこの国の特産品にまでなろうとしていた。

つまりは、国民達は魔物を倒す騎士団の姿は目にしていても、ブレイズ家の聖女の力を目にした事がないのだ。

そうなれば、お飾りの聖女と思われても仕方ないのかもしれない。

「もっと強力な魔物が襲ってきてくれたら・・・。」

テレサはふと頭によぎった言葉にハッとした表情になる。

「ゔうああ」

枕で口を抑えて思い切り叫び声をあげた。

「ふー。なんて事を考えてるのよ。やめよやめ。平和である事が1番。その中でブレイズ家を私が護っていけばいい話よ」

テレサは写真をテーブルに戻して布団をかぶる。

「今日は少し疲れたわ」

16歳の肩には重すぎる使命がのしかかっていた。
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