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第78話 休みの日の再会

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 コウ一行は王都初日の夜を『星の海亭』で過ごした。

 夕飯は王都ではオーソドックスな肉料理にサラダ、スープにパンというものだったが、お肉はしっかり下処理されていて柔らかく肉汁たっぷりだったし、スープもそれぞれの具が大きくシンプルな味付けながら食べ応えがあって美味しかったので一同は十分満足であった。

 強いて言えば、サラダに使用した野菜はあまり新鮮ではなかったことくらいだろうか? 王都では新鮮な野菜が食べられるのは珍らしいらしく、ヨースは普通に食べていたが。

 コウは前世こそ元日本人として良いものを食べていた記憶があるが、こちらの世界では粗食で育っていたから粗末な食事には慣れている。

 それはみんなも同じであったから、王都滞在期間中は宿屋『星の海亭』に宿泊することに誰も不満はないのであった。

 翌朝、パンに絞り立ての牛乳、卵料理に魔獣のベーコンチーズ乗せ、付け合わせにジャガイモの素揚げというメニューがまた、十分満足のいくものであったので、それを平らげて王都の街に繰り出すことにした。

「今日一日は完全自由時間だから、行きたいところがあったら、どこでもいいぜ?」

 ヨースは王都を知る者として、案内役を買って出た。

「「じゃあ、早速、お菓子屋さん!」」

 ララノアとカイナは息を揃えて、そう告げる。

「待て待て! 朝食を今、食べたばかりだろ! いきなりお菓子かよ!」

 ヨースは思わず、止めた。

「「デザートは別腹なのよ?」」

 二人はまた息を揃えて、名言を口にする。

「「……」」

 コウとヨースは二人の勢いに押されて言い返す言葉がない。

 剣歯虎《サーベルタイガー》のベルは興味が無いのかコウに頬ずりしている。

「それじゃあ、王都の美味しいお菓子を探す一日の始まりよ!」

 ララノアがそう宣言するとカイナが「おぉ!」と掛け声を上げて先頭を歩くのであった。

 こうして午前中は女性陣のお菓子巡りに付き合い、あっという間に時間は過ぎ去る。

 最初こそ乗り気でなかったヨースも前回来た時に知らなかったお菓子や流行りのお菓子を見つけることになり、イッテツのお土産にどれがいいかと真剣に悩み始め、コウもみんなが楽しんでいるので自ずと笑顔になって一緒に楽しむのであった。

 そしてお昼は、「お持ち帰り不可」のパンケーキ屋さんで食事をすることになった。

 そこは大通りの一角に位置するおしゃれな雰囲気のお店で、室内はおろかテラス席も満席で行列が出来ている。

 コウ達もその行列に並んでいると、そのお店のテラスからコウに対して声が聞こえてきた。

「おーい! 君はコウじゃないか! 私だ、私。来る途中世話になったゴセイだ。──店員君、ちょっといいかい? ここの奥にある特別室、空いているよね? そこに通してもらっていいかな?」

 ゴセイとは来る途中、落石で通れなくなっていた街道で遭遇した謎の人物だ。

「あっ、あの時の!」

 コウもすぐに、このシルクハットを被り金髪の長髪がのぞく、紫色の瞳をしたゴセイという優男に気づいた。

「ゴセイ様のご友人ですね? わかりました、奥にご案内いたします」

 店員は店長に問い合わせることもなく、ゴセイの言うことに承諾すると、店内の奥にある扉を開けてコウ達を案内する。

 ベルはさすがに大きいから表で待たせるべきかと思ったが、「店員が従魔もどうぞ」と言われたので遠慮なく奥に入っていくのであった。

 通された奥の部屋は個室になっていて、とても広くゆったりできるスペースがあり、ベルが入っても余裕がある。

「このお店は貴族や豪商なんかも御用達でね。こういう個室は必須なんだ」

 ゴセイはそう言うと、コウ達に席に座るように促す。

 そして続ける。

「警戒しないでくれるかな? あの時、言っただろう? 美味しいお店に招待するって。ここがその一つだったんだが、偶然、再会できてよかったよ」

「お陰で優先して店内に入れました、ありがとうございます。ところでゴセイさん、あなたは一体誰なんでしょうか?」

 コウはゴセイが貴族か豪商だからこの部屋に入れたということは説明でわかったので聞く。

「はははっ。その質問は必要かい? それよりもここのパンケーキは絶品だから楽しんでくれよ。私もお気に入りなんだ」

 ゴセイはそうコウの質問を受け流すと、手を叩いて店員を呼ぶ。

 店員はその音にすぐ反応すると扉をノックして入ってきた。

「彼らと従魔にこのお店自慢の『究極のパンケーキ』を頼む。僕はいつもので」

 ゴセイは慣れた様子で注文する。

「承知いたしました」

 店員も慣れた様子でそう応じると、すぐに部屋から出ていく。

「コウ、そして、そのご友人達かな? 今日は私の奢りだ、好きなだけ食べてくれて構わないよ。お陰で王都へは約束の日に間に合うことができて助かったんだ。そのお礼だよ」

 優男のゴセイはそう言うと、コウ以外の大鼠族のヨースやダークエルフのララノア、魔法使い姿のカイナに視線を向ける。

「並ぶ時間が省けて助かった、感謝するぜ。ちなみに俺はヨースだ。コウ達は俺が雇っている護衛さ。それもとびっきり優秀の、な」

 ヨースはコウが余計なことを言わないように思ったのだろう、代わりに話すことにしたようだ。

「ほう、君が雇い主か。実に優秀な護衛を雇っているな。特にコウは大岩を一撃で砕く能力と道具を持ち合わせているから、ただ者ではないと思ったが、鉱夫というのは、冗談で名のある冒険者か何かかな?」

 ゴセイは口が立ちそうなヨースが前に出てきたので、それはそれで楽しそうに応じる。

「それを答えると雇い主である俺の重要度がバレちまうから答えられないな。そちらも後ろの護衛を詳しく聞かれたら、身元がバレやしないかい?」

「……確かに、優秀な冒険者ほど雇う人間は限られてくるからな。聞くのは野暮か。しかし、ヨース殿。それを言うことで私は君が何者かわかってしまったよ。最近、大鼠族の者がマウス総合商会というのを立ち上げたと聞いている。それが君だね?」

 ゴセイはその面にニヤリと笑みを浮かべて応じる。

「確かに大鼠族でいい護衛を付ける商人となると、すぐわかる、か……。だが、それにしたってよくマウス総合商会の名を知っていたな、あんた」

 ヨースは顔色一つ変えず、こちらが情報的に駆け引きとして不利であることを認めつつ、感心した。

 マウス総合商会を立ち上げたと言っても、その規模は小さいうえに、王都に用意した本店は住所を得る為のものだから、ほぼ機能していないのだ。

 だから、誰も気にかけることはないと思っていたので、ヨースはこの優男がただ者ではないと思うのであった。

 そこへ、パンケーキを運ぶ店員達が扉をノックして入ってくる。

 一同はその美味しそうな見た目と香りに駆け引きを止めて、食事をすることにしたのであった。
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