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第19話 楽しみの先延ばし
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コウの活躍で、契約内容を一部変更する事に成功したドワーフ達はリーダーであるヨーゼフが中心になって、ドワーフ達の新天地になるであろう土地への先遣隊の選別に入る事になった。
話し合いの場所は鉱山の街であるマルタ郊外にあるドワーフ居住区の一角にある広場だ。
「やはり、ここはリーダーであるヨーゼフが先にみんなを率いて指揮してもらうしかないだろう?」
「いや、こっちの事も考えないといけない事が多いぞ? 誰がこの街の長に次回以降の契約を断りつつ、この居住区の土地の整理をするんだ? うまく調整できる人物じゃないと揉めるぞ」
「それなら、言葉数は少ないが、リーダーの側近でもある『太っちょイワン』に先遣隊を任せていいんじゃないか? 細かい部分については補佐に誰か付ければいいだろ」
「……そうだな。新天地は城壁もなく魔物もいる土地だから、イワンが先に行って安全を確保してくれるとありがたいかもしれん。第二陣以降は、引っ越しの準備が出来た者から隊を組んで送り出せばいい。ヨーゼフにはリーダーとして事後処理や女子供を新天地に導いてもらうというのが、一番じゃないか?」
主だったドワーフ達がそれぞれ意見を出し合う。
その間、ヨーゼフは黙ってみんなの話を聞いている。
ちなみにコウは、広場の一番端っこで、この話を聞いていた。
みんなの話す場所から少し離れているので、聞き逃さないように必死だ。
「……わかった。新天地への先遣隊はイワンに任せよう。補佐には土地購入の際に俺に同行していた連中を付ける。──イワン。あっちに着いたら、先ずはやる事はわかっているな?」
ヨーゼフは意見を聞き終わって、ようやく口を開いた。
「……ああ。みんなの住むところの確保だな? 資材調達はみんなに任せて俺は力仕事と周辺の魔物を討伐してみんなを守る」
『太っちょイワン』はコウを除けば、一番の力持ちであり、戦斧を持たせたら、一番の戦士でもあったから、誰もが頼りにしており、この人選は間違っていないだろう。
「ああ、頼む。──それではみんな、ここに残りたい者がいたら、自由にしてくれ、強制はしない。こちらに友人、知人がいる者もいるだろうし、慣れ親しんだ土地を離れたくない者もいるだろう。そして、何もない新天地に不安を感じる者もいるだろう。残るかどうかの判断は各自に任せる。──だが、ドワーフだからと差別され、安い給料で働かされた日々も、君達の判断次第でもうすぐおさらばできる。数か月後、生活は今より厳しくなるかもしれないが、誰に気兼ねする事なく生きられる土地で自由に暮らそうじゃないか!」
ヨーゼフが広場に集ったドワーフ達に演説する。
すると、
「そうだ! 新天地で自由に生きよう!」
「俺はヨーゼフを信じるぞ!」
「私もよ!」
「新天地でドワーフが差別されない場所を作ろう!」
と色んな前向きな声が上がった。
コウも同じドワーフとして差別されてきたから、この土地から解放されるのは嬉しい。
そういう意味では新天地は、バラ色の人生しかないと思えたから、コウは先遣隊に希望するつもりでいるのであった。
「……と夢に見ていた時期もありました……」
コウは少し落ち込んでいた。
それは、先遣隊メンバーから漏れてしまったからだ。
集会ではその後、先遣隊メンバーの選出が行われたのだが、大体は戦士としての実績がある者や、職人、大工仕事ができる者など技術を持っている者が中心に選ばれていった。
コウはイワン以上の力持ちではあるが、残念ながら技術者としてドワーフ内では実績が皆無だったから、選ばれなかったのである。
とはいえ、コウには怪力以外にも、魔法収納持ちだから、役に立てそうだが、それについてはまだ、みんなに秘密にしていたので、自分の有用性をアピールする事が出来ないでいた。
「まあ、焦るなコウ。俺達も先遣隊からは漏れた口だが、第二陣以降にも役目はあるぞ。荷物を運ぶ力持ちも必要になって来るし、それにリーダーのヨーゼフが指名されたように最後は事後処理をする者達が必要だ。最後の隊が女子供も多くなるだろうからその護衛も必要だしな」
髭を剃ってつるつるした顔のダンカンが、落ち込んでいるコウの背中を叩いて励ました。
他の髭無しドワーフ達もダンカンの言葉に頷いて、コウを励ます。
そして、ダンカンは続ける。
「もしかしたら、ヨーゼフが敢えてお前の事は先遣隊から外したのかもしれないな」
「え?」
コウは思わず聞き返した。
「考えてみろ。イワンよりも力持ちのお前が戦力でないはずがないだろう? それに、この街のドワーフのほとんどが、引っ越しするとなったら、大事なのは、先遣隊と事後処理をする最後の方まで残るメンバーだろう。先遣隊にイワンとコウを一緒にしたら、最後が不安にならないか? 問題が起きた時に対応できるのがヨーゼフだけで、腕っぷしの強い連中が残っていなかったら、最後に移動する大多数の女子供が危険になるかもしれない。そうならない為に、コウは切り札として最後まで残る事になるかもしれないぞ」
ダンカンはコウを励ます為に大袈裟にそう言ったのであったが、これが的中して先遣隊が旅立ってから、続々と第二陣、第三陣と出発する中、コウの名前が呼ばれる事はないのであった。
「……本当に、選ばれないなぁ……。ダンカンさんの言う通り、頼られているのか、忘れられているのか……。って、ダンカンさん達髭無し集団も、選ばれていない事を考えると問題児扱いで避けられている気がしてきた……!」
コウはいつでも旅立てる準備は出来ていたのだが、ドワーフの数が毎回減っていく集会で、ポツンと一人端っこで呼ばれるのを待っているのであった。
「自分で言っておいてなんだが、ここまで来るとコウ、俺達も含め、他のドワーフ達から髭剃りアピールが問題視されて、後回しにされている気がしてきたぜ……」
集会の最中、ダンカンがコウの横にやって来てそう漏らした。
ダンカンはコウを励ます為に言った事であったが、自分達まで名前を呼ばれない状況に不安を覚えていてそう漏らした。
「ご迷惑おかけしてすみません……」
コウは自分の為に色々してくれているダンカンと髭無しドワーフの友人達にお詫びする。
「いや、呼ばれないのは仕方がないな! 俺も仲間のドワーフ達がこの街からかなり減って不安を覚えちまったが、俺達も新天地に向かうんだ、楽しみが少し先に延びたと思って待つとしようか! わははっ!」
ダンカンは改めてコウを励ますと、笑うのであった。
話し合いの場所は鉱山の街であるマルタ郊外にあるドワーフ居住区の一角にある広場だ。
「やはり、ここはリーダーであるヨーゼフが先にみんなを率いて指揮してもらうしかないだろう?」
「いや、こっちの事も考えないといけない事が多いぞ? 誰がこの街の長に次回以降の契約を断りつつ、この居住区の土地の整理をするんだ? うまく調整できる人物じゃないと揉めるぞ」
「それなら、言葉数は少ないが、リーダーの側近でもある『太っちょイワン』に先遣隊を任せていいんじゃないか? 細かい部分については補佐に誰か付ければいいだろ」
「……そうだな。新天地は城壁もなく魔物もいる土地だから、イワンが先に行って安全を確保してくれるとありがたいかもしれん。第二陣以降は、引っ越しの準備が出来た者から隊を組んで送り出せばいい。ヨーゼフにはリーダーとして事後処理や女子供を新天地に導いてもらうというのが、一番じゃないか?」
主だったドワーフ達がそれぞれ意見を出し合う。
その間、ヨーゼフは黙ってみんなの話を聞いている。
ちなみにコウは、広場の一番端っこで、この話を聞いていた。
みんなの話す場所から少し離れているので、聞き逃さないように必死だ。
「……わかった。新天地への先遣隊はイワンに任せよう。補佐には土地購入の際に俺に同行していた連中を付ける。──イワン。あっちに着いたら、先ずはやる事はわかっているな?」
ヨーゼフは意見を聞き終わって、ようやく口を開いた。
「……ああ。みんなの住むところの確保だな? 資材調達はみんなに任せて俺は力仕事と周辺の魔物を討伐してみんなを守る」
『太っちょイワン』はコウを除けば、一番の力持ちであり、戦斧を持たせたら、一番の戦士でもあったから、誰もが頼りにしており、この人選は間違っていないだろう。
「ああ、頼む。──それではみんな、ここに残りたい者がいたら、自由にしてくれ、強制はしない。こちらに友人、知人がいる者もいるだろうし、慣れ親しんだ土地を離れたくない者もいるだろう。そして、何もない新天地に不安を感じる者もいるだろう。残るかどうかの判断は各自に任せる。──だが、ドワーフだからと差別され、安い給料で働かされた日々も、君達の判断次第でもうすぐおさらばできる。数か月後、生活は今より厳しくなるかもしれないが、誰に気兼ねする事なく生きられる土地で自由に暮らそうじゃないか!」
ヨーゼフが広場に集ったドワーフ達に演説する。
すると、
「そうだ! 新天地で自由に生きよう!」
「俺はヨーゼフを信じるぞ!」
「私もよ!」
「新天地でドワーフが差別されない場所を作ろう!」
と色んな前向きな声が上がった。
コウも同じドワーフとして差別されてきたから、この土地から解放されるのは嬉しい。
そういう意味では新天地は、バラ色の人生しかないと思えたから、コウは先遣隊に希望するつもりでいるのであった。
「……と夢に見ていた時期もありました……」
コウは少し落ち込んでいた。
それは、先遣隊メンバーから漏れてしまったからだ。
集会ではその後、先遣隊メンバーの選出が行われたのだが、大体は戦士としての実績がある者や、職人、大工仕事ができる者など技術を持っている者が中心に選ばれていった。
コウはイワン以上の力持ちではあるが、残念ながら技術者としてドワーフ内では実績が皆無だったから、選ばれなかったのである。
とはいえ、コウには怪力以外にも、魔法収納持ちだから、役に立てそうだが、それについてはまだ、みんなに秘密にしていたので、自分の有用性をアピールする事が出来ないでいた。
「まあ、焦るなコウ。俺達も先遣隊からは漏れた口だが、第二陣以降にも役目はあるぞ。荷物を運ぶ力持ちも必要になって来るし、それにリーダーのヨーゼフが指名されたように最後は事後処理をする者達が必要だ。最後の隊が女子供も多くなるだろうからその護衛も必要だしな」
髭を剃ってつるつるした顔のダンカンが、落ち込んでいるコウの背中を叩いて励ました。
他の髭無しドワーフ達もダンカンの言葉に頷いて、コウを励ます。
そして、ダンカンは続ける。
「もしかしたら、ヨーゼフが敢えてお前の事は先遣隊から外したのかもしれないな」
「え?」
コウは思わず聞き返した。
「考えてみろ。イワンよりも力持ちのお前が戦力でないはずがないだろう? それに、この街のドワーフのほとんどが、引っ越しするとなったら、大事なのは、先遣隊と事後処理をする最後の方まで残るメンバーだろう。先遣隊にイワンとコウを一緒にしたら、最後が不安にならないか? 問題が起きた時に対応できるのがヨーゼフだけで、腕っぷしの強い連中が残っていなかったら、最後に移動する大多数の女子供が危険になるかもしれない。そうならない為に、コウは切り札として最後まで残る事になるかもしれないぞ」
ダンカンはコウを励ます為に大袈裟にそう言ったのであったが、これが的中して先遣隊が旅立ってから、続々と第二陣、第三陣と出発する中、コウの名前が呼ばれる事はないのであった。
「……本当に、選ばれないなぁ……。ダンカンさんの言う通り、頼られているのか、忘れられているのか……。って、ダンカンさん達髭無し集団も、選ばれていない事を考えると問題児扱いで避けられている気がしてきた……!」
コウはいつでも旅立てる準備は出来ていたのだが、ドワーフの数が毎回減っていく集会で、ポツンと一人端っこで呼ばれるのを待っているのであった。
「自分で言っておいてなんだが、ここまで来るとコウ、俺達も含め、他のドワーフ達から髭剃りアピールが問題視されて、後回しにされている気がしてきたぜ……」
集会の最中、ダンカンがコウの横にやって来てそう漏らした。
ダンカンはコウを励ます為に言った事であったが、自分達まで名前を呼ばれない状況に不安を覚えていてそう漏らした。
「ご迷惑おかけしてすみません……」
コウは自分の為に色々してくれているダンカンと髭無しドワーフの友人達にお詫びする。
「いや、呼ばれないのは仕方がないな! 俺も仲間のドワーフ達がこの街からかなり減って不安を覚えちまったが、俺達も新天地に向かうんだ、楽しみが少し先に延びたと思って待つとしようか! わははっ!」
ダンカンは改めてコウを励ますと、笑うのであった。
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