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第4話 『半人前』の名前
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『半人前』こと野架公平(仮)は、落盤事故から一か月後、ようやくドワーフの医者、ドクの「元の生活に戻っていい」という許可を得る事が出来た。
「本来なら全治一年近い怪我のはずなんだがな……。いや、そもそも生きているのが不思議な致命的な怪我だったから、ヤブ医者の儂には『半人前』の体の事は詳しくはわからんよ」
と、医者のドクが呆れて匙を投げる超回復ぶりであった。
とはいえ、元の生活に戻る事を許可されたものの、骨折した左腕と粉砕骨折の右足は添え木で固定されている事に変わりはなく、松葉杖を突く状態であったから、仕事に戻るのはもう少し先だろう。
「先生、ありがとうございました」
『半人前』の野架公平(仮)は一か月間お世話になったドクにお礼を言うと松葉杖を突いて粗末な作りの病院を出る。
すると表にはドワーフのダンカンが待っていた。
他にも八人のドワーフが、表で一緒に何か話していたが、『半人前』の姿を見るなり、神妙な面持ちで静かになる。
「『半人前』……! 改めて、こいつらを助けてくれてありがとう……!」
ダンカンがそう言うと、『半人前』に頭を下げる。
他のドワーフもそれ続くように次々と頭を下げていく。
他のドワーフ達は事故の時、奥に取り残され、死にかけた者達なのだ。
『半人前』が入院している間、お見舞いにも来ていたが、重体患者だったから、医者のドクがダンカン以外面会謝絶にしていたので、こうして事故後会うのは初めてであった。
「あの時は、みんなで力を合わせて大岩を動かしたので、僕以外の人のお陰かもしれないですよ?」
『半人前』こと野架公平(仮)は、当時の記憶が結構曖昧になっていて自信がなかったから、謙虚にそう答えた。
「いや、現場に俺はいたから自信をもって言えるぞ。大岩を動かせたのは『半人前』の力があったからだ。『ドワーフの火事場の馬鹿力』とはよく言うが、お前はそれを体現していたよ」
ダンカンはお前もちゃんとしたドワーフだ、と遠回しに褒めたのである。
「当時の状況を俺達は知らねぇ。だが、現場にいたみんなが口を揃えて、『半人前』がいたからお前らを助けられた、と言うから俺達も信じるよ。助けてくれてありがとう……」
彼らは一人前のドワーフとしての誇りがあり、髭も生えていない非力で弱い半端者であった『半人前』に命を助けられたと聞いて、信じられないのは仕方がない事であった。
だが、あの時、酸素が無くなり窒息状態で苦しみながら薄れゆく意識の中、死を覚悟した身としては、また、家族に会えた事が夢のようであった。
だから、その事を思うと感謝してもしきれないというのが正直な気持ちである。
「……その言葉だけで命を賭けて必死になった甲斐がありました……」
『半人前』こと野架公平(仮)にとって、自分がドワーフとして感謝されるのは非常に珍しく、とても嬉しい事であったから、素直に照れながら応じた。
「わははっ! あの絶望的な事故からほとんどのドワーフが助かったのは奇跡だよ。こうなると『半人前』をもう半人前扱いするわけにはいかないな!」
ダンカンがずっと言いたくて仕方なかった言葉を口にする。
成人前のドワーフを一人前として認めるには見た目などの条件もさることながら、複数の証人も必要なのだ。
これらもドワーフという種族の中の慣習の一つでしかないが、『半人前』は、その姿、能力から、本来の成人年齢である十六を越えた十八歳になった今でも、『半人前』扱いのままであったから、これを機にダンカンはみんなに『半人前』を一人前として認めさせたかったのである。
「……でも、僕はみんなのように筋骨隆々でも髭も生えてないですよ……」
『半人前』こと野架公平(仮)は前世の記憶を思い出したとはいえ、十八年間のドワーフ人生で根深く植えつけれらた決まり事によって抑圧され続けていたから、それが気になってしまった。
「ここにいる命を助けられたこいつらは、少なくともお前の事をもう『半人前』とは思っていないさ。見た目の事は気にするな、それはなんとでもなるさ。ここにいる奴らがお前を一人前として認めたんだから、一人前の証である名前を決めないとな。『半人前』、希望はあるのか?」
ダンカンはそう言うと、周囲を巻き込んで『半人前』の成人式を進める。
「コウ……、でいいですか?」
『半人前』こと野架公平(仮)は、前世の記憶からその名を選んだ。
「コウ……か。良い名だ。じゃあ、今日からお前はコウだ! ここにいるお前に命を助けられた連中がお前の成人を認める証人だ。みんなもいいよな?」
ダンカンはここぞとばかりに強引に話を進める。
「お、おう……」
「わかった……」
「認めるよ……」
ダンカンの強引な勢いに飲まれて他のドワーフ達も賛同する。
こうして、『半人前』こと野架公平(仮)は、ドワーフの一人前としてここに認められ、コウという名前を名乗る事を許されたのであった。
「よし、それじゃあ、成人の儀の締めである酒をみんなで飲みに行くぞ!」
ダンカンはそう言うと、コウを肩車で持ち上げる。
「ダンカン! コウはまだ、怪我が完治していないんだ、お酒は厳禁だぞ!」
一連の様子を窺っていたドワーフ医者のドクがここぞとばかりに注意した。
「ドク、ドワーフが成人の儀にお酒を飲まないでどうするよ? 今日はめでたいんだ、お前も来い!」
ダンカンはコウを肩車したまま、ドクの腕を掴んで引っ張る。
「……仕方ないな。コウは麦酒一杯までな?」
ドクもドワーフ、お酒は大好きである。
それにダンカンの言う通り、コウのめでたい日であったから、特別にコウの飲酒を制限付きで許可するのであった。
「本来なら全治一年近い怪我のはずなんだがな……。いや、そもそも生きているのが不思議な致命的な怪我だったから、ヤブ医者の儂には『半人前』の体の事は詳しくはわからんよ」
と、医者のドクが呆れて匙を投げる超回復ぶりであった。
とはいえ、元の生活に戻る事を許可されたものの、骨折した左腕と粉砕骨折の右足は添え木で固定されている事に変わりはなく、松葉杖を突く状態であったから、仕事に戻るのはもう少し先だろう。
「先生、ありがとうございました」
『半人前』の野架公平(仮)は一か月間お世話になったドクにお礼を言うと松葉杖を突いて粗末な作りの病院を出る。
すると表にはドワーフのダンカンが待っていた。
他にも八人のドワーフが、表で一緒に何か話していたが、『半人前』の姿を見るなり、神妙な面持ちで静かになる。
「『半人前』……! 改めて、こいつらを助けてくれてありがとう……!」
ダンカンがそう言うと、『半人前』に頭を下げる。
他のドワーフもそれ続くように次々と頭を下げていく。
他のドワーフ達は事故の時、奥に取り残され、死にかけた者達なのだ。
『半人前』が入院している間、お見舞いにも来ていたが、重体患者だったから、医者のドクがダンカン以外面会謝絶にしていたので、こうして事故後会うのは初めてであった。
「あの時は、みんなで力を合わせて大岩を動かしたので、僕以外の人のお陰かもしれないですよ?」
『半人前』こと野架公平(仮)は、当時の記憶が結構曖昧になっていて自信がなかったから、謙虚にそう答えた。
「いや、現場に俺はいたから自信をもって言えるぞ。大岩を動かせたのは『半人前』の力があったからだ。『ドワーフの火事場の馬鹿力』とはよく言うが、お前はそれを体現していたよ」
ダンカンはお前もちゃんとしたドワーフだ、と遠回しに褒めたのである。
「当時の状況を俺達は知らねぇ。だが、現場にいたみんなが口を揃えて、『半人前』がいたからお前らを助けられた、と言うから俺達も信じるよ。助けてくれてありがとう……」
彼らは一人前のドワーフとしての誇りがあり、髭も生えていない非力で弱い半端者であった『半人前』に命を助けられたと聞いて、信じられないのは仕方がない事であった。
だが、あの時、酸素が無くなり窒息状態で苦しみながら薄れゆく意識の中、死を覚悟した身としては、また、家族に会えた事が夢のようであった。
だから、その事を思うと感謝してもしきれないというのが正直な気持ちである。
「……その言葉だけで命を賭けて必死になった甲斐がありました……」
『半人前』こと野架公平(仮)にとって、自分がドワーフとして感謝されるのは非常に珍しく、とても嬉しい事であったから、素直に照れながら応じた。
「わははっ! あの絶望的な事故からほとんどのドワーフが助かったのは奇跡だよ。こうなると『半人前』をもう半人前扱いするわけにはいかないな!」
ダンカンがずっと言いたくて仕方なかった言葉を口にする。
成人前のドワーフを一人前として認めるには見た目などの条件もさることながら、複数の証人も必要なのだ。
これらもドワーフという種族の中の慣習の一つでしかないが、『半人前』は、その姿、能力から、本来の成人年齢である十六を越えた十八歳になった今でも、『半人前』扱いのままであったから、これを機にダンカンはみんなに『半人前』を一人前として認めさせたかったのである。
「……でも、僕はみんなのように筋骨隆々でも髭も生えてないですよ……」
『半人前』こと野架公平(仮)は前世の記憶を思い出したとはいえ、十八年間のドワーフ人生で根深く植えつけれらた決まり事によって抑圧され続けていたから、それが気になってしまった。
「ここにいる命を助けられたこいつらは、少なくともお前の事をもう『半人前』とは思っていないさ。見た目の事は気にするな、それはなんとでもなるさ。ここにいる奴らがお前を一人前として認めたんだから、一人前の証である名前を決めないとな。『半人前』、希望はあるのか?」
ダンカンはそう言うと、周囲を巻き込んで『半人前』の成人式を進める。
「コウ……、でいいですか?」
『半人前』こと野架公平(仮)は、前世の記憶からその名を選んだ。
「コウ……か。良い名だ。じゃあ、今日からお前はコウだ! ここにいるお前に命を助けられた連中がお前の成人を認める証人だ。みんなもいいよな?」
ダンカンはここぞとばかりに強引に話を進める。
「お、おう……」
「わかった……」
「認めるよ……」
ダンカンの強引な勢いに飲まれて他のドワーフ達も賛同する。
こうして、『半人前』こと野架公平(仮)は、ドワーフの一人前としてここに認められ、コウという名前を名乗る事を許されたのであった。
「よし、それじゃあ、成人の儀の締めである酒をみんなで飲みに行くぞ!」
ダンカンはそう言うと、コウを肩車で持ち上げる。
「ダンカン! コウはまだ、怪我が完治していないんだ、お酒は厳禁だぞ!」
一連の様子を窺っていたドワーフ医者のドクがここぞとばかりに注意した。
「ドク、ドワーフが成人の儀にお酒を飲まないでどうするよ? 今日はめでたいんだ、お前も来い!」
ダンカンはコウを肩車したまま、ドクの腕を掴んで引っ張る。
「……仕方ないな。コウは麦酒一杯までな?」
ドクもドワーフ、お酒は大好きである。
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