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第2話 死の狭間と馬鹿力

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 場所は鉱山内部深層。

 採掘の最前線である。

 その大きな坑道の一つが落盤事故を起こし、『半人前』こと野架公平(仮)はそれに巻き込まれて、時間を負わずに死ぬ事になるであろう激しい損傷を負い、周囲にいたドワーフ達も『半人前』助からないだろうという判断を下して通路の傍に捨て置かれていた。

「くそー! すでに落盤から半日以上たっているというのに!」

「取り残されている奴らの生存確認音が聞こえなくなって、すでに数時間経っているぞ!」

「この大きくて固い岩、びくともしない! どうしたらいいんだ……!」

 すでに死んだ扱いの『半人前』こと野架公平(仮)は、布がかけられている。

 その状態で野架公平(仮)は目が覚めていた。

 ……体が痛い、すごく痛い……。命は助かったみたいだけど、すでに事故から半日以上経っているみたいだ……。僕の怪我はまだ完全どころかまだ全然治っていないみたいだし……。それくらい体の損傷が激しかったって事だろうか……。

 野架公平(仮)は、布をかけられた状態で体の確認をする。

 右腕は動くようだ。

 その腕で、左腕を確認すると肘の近くで折れており、変な方向を向いている、触るとすごく痛く、激痛が走った。

 右足甲も骨折しているのだろう、とても腫れているようだ。

 それにかなり激しい痛みがあり、動かすのもままならない。

 事故直後は内臓は破裂していたはずだが、今はかなり良くなっている感じがする。

 どうやら、半日経った間に、『大地の力吸収』とやらで、体の治療は確実にされているようであった。

 実際、頭の損傷はかなり治療されており、まだ出血はあり深手のようだが、死に至る程ではなくなっている気がする。

 このまま大人しく寝ていれば、回復してくれるかもしれない……。

 そんな野架公平(仮)は、もう少し、横になった状態で自然治癒を続けた方が良さそうだと判断していると、トンネル内のドワーフ達の危機感は最悪状態になっていた。

「駄目だ、中からの反応が完全に途絶えた……」

「もう時間がないぞ……。どうにかこの大岩を少しでも動かし空気が入る隙間さえ作れれば……」

「みんな、仲間が死にかけているんだ! どうにかしてこの大岩を少しでも動かすぞ!」

「「「おう!」」」

 ドワーフ達は、団結すると大岩に取り付く。

 そして、掛け声に合わせて力を込める。

 だが、大岩は全くぴくりとも動かない。

 馬鹿力で有名なドワーフ達が集まっても動かせないのだから、これは絶望的であった。

 とじ込まめられたドワーフ達は酸欠で窒息死かもしれない。

 そんな最悪の想像を誰もがした時であった。

 傍の死体に掛けられた布が浮く。

 いや、その下の死体が立ち上がったのだ。

「うわー!? 死体が動いているぞ!」

 傍に居たドワーフが悲鳴に近い声を上げた。

「何!? まさか死んで半日も経っていないのにゾンビ化したのか!?」

 他のドワーフ達もこれには驚いて大岩を動かす作業を止めて、動く死体、『半人前』こと野架公平(仮)に注意を向ける。

「まだ……、死んで……ない……!」

 野架公平(仮)はそう言うと右手で自分に掛けられた布を払いのけた。

 だがその見た目は、重傷者である事に変わりがなく、見た目から痛々しい。

「い、生きてたのか!? あの状態で半日も放置していたのに!?」

 死んだと思って放置していたドワーフの一人が驚いて聞く。

「……今はそれどころじゃ、……ない、でしょ……?」

 野架公平(仮)は、そう言うと、粉砕骨折しているであろう右足を引きづり、骨折してだらりと下がった左腕をぶらぶらさせたまま痛々しい姿で大岩へと歩いていく。

 言っておくが、その姿は成人した十八歳のドワーフには全く見えない十二歳くらいの人間の子供と変わらないから、見た目は弱弱しく、そんな体で何をしようとして動いているのか誰も想像がつかない。

「──警告。現在、その力の大部分を大きく損傷した体の治療に使用しています。無理に動くとギリギリ保っている命が維持できなくなる恐れがあります」

 野架公平(仮)の脳内でそんな謎の声が警告を発してきた。

「……時間がないんだ。今は、閉じ込められた仲間の命が最優先だ……!」

 野架公平(仮)は誰に発した言葉なのかわからないが、そう告げると大岩に右手をかける。

 その言葉は滑稽に聞こえなくもない。

 なぜなら、前世の記憶を取り戻す前に『半人前』は、その姿からドワーフ達からも仲間として受け入れられているとは言えない状態だからだ。

 子供時代はいじめに遭い、成人した今でもドワーフの特徴から掛け離れた姿に『半人前』と呼ばれ、半端者扱いされている。

 実際、ドワーフの特徴である馬鹿力や採掘能力、酒の強さに職人としての繊細さも中途半端で、人間よりは多少、力がある程度でもドワーフとしては物足りない能力しか持ち合わせていなかった。

 人とドワーフのハーフ、その血が悪い方向に出たと陰口を叩かれていたから、そんな同族のはずのドワーフからもまともな扱いをされていない『半人前』が、他のドワーフを仲間だと口にするのは、無理があったのである。

『半人前』こと野架公平(仮)は、大岩を掴む右腕に力を込めていく。

 他のドワーフ達は死にかけの『半人前』が何をしているのだと、それを呆然と見ていた。

「うぉぉぉぉ……!」

 野架公平(仮)は右腕だけでなく大岩に胸も当てて体で押すように力を加える。

 全身に力を込め、体中の血管が浮かび上がるのだが、それと同時に頭部や腹部、腕などの負傷した部分から血が噴き出す。

「は、『半人前』! それ以上は死ぬぞ!?」

 すでに死んだと思って放置していた相手に対し、その言葉こそ滑稽であったが、『半人前』が大岩を動かそうとしている事にようやく気付いて真剣に制止していた。

 その時であった。

 ずずっ……。

 明らかに大岩が少し動いたのである。

「「「!?」」」

 ドワーフ達は先程までその場にいた全員が力を込めてもびくともしなかった大岩が微かに動いた事に驚きの表情を浮かべた。

 しかし、一人では限界なのか元に戻った。

 だが、『半人前』は諦めない。

 負傷した体で自分の死を厭わず、大岩を動かそうと力を込め続ける。

「みんな! 『半人前』だけに無理をさせるな!」

 呆然としていたドワーフの一人が、そう言うと、大岩に取り付いて一緒に動かそうと力を込める。

 次々にドワーフ達は『半人前』の命を削る必死な姿に心動かされ、全員の心が一つになり、大岩に取り付くと一緒に力を込め始めた。

 ずずずっ!

 大岩が大きく動き塞いでいた通路に隙間が生まれる。

 そして、その隙間に空気が一気に吸い込まれていくのが分かった。

「や、やったぞ!この隙間なら、ドワーフの一人二人は通り抜けられそうだ!」

 ドワーフ達から歓声が上がる。

「『半人前』やったぞ!」

 誰かが声を掛けた時だった。

『半人前』こと野架公平(仮)は、限界を超えてしまったのか、その場で白目を剥くと気を失って倒れた。

「は、『半人前!?』」

 近くのドワーフが慌てて地面に倒れる寸前の『半人前』を抱きとめる。

「よくやったぞ、『半人前』! お前は仲間の命を救ったんだ! ありがとう!」

『半人前』を抱きとめたドワーフは泣きながら、このまま息絶えるであろうこの人間の子供のような姿であるドワーフに精一杯に感謝の言葉を掛けるのであった。
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