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これは治療、ただの治療だから……!

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 静樹は寝台の上で裸の尻を晒して高く上げ、悩ましげな声を上げた。

「く、うぅ……っ」
「これは治療、これは治療、ただの治療だから……」
「あ、あの……やっぱり自分で」
「ううん、俺のせいでシズキが怪我したんだから! 俺に責任を取らせて! お願い、友達でしょ⁉︎」
「……わかりました、お願いします……っ、うぁ、染みる……っ」

 軟骨を塗られる度にじわじわと痛いような熱いような感覚が臀部から広がり、声を上げずにはいられない。

 果たして本当に友達にこんなことまで頼むものだろうかと疑問は残しつつも、友達だから手当てをさせてほしいと懇願されて受け入れてしまった。

 お尻を出したあたりで、番になりたいと言われた相手にこれはマズいのではと頭に過ったものの、すぐに薬を塗られてしまい止めようがなかった。

 タオの鼻息は静樹の髪を揺らすほど荒かったものの、手つきはあくまでも薬を塗るだけの紳士的な対応を見せた。

 いや、一回だけどこが痛いのと尻全体を手のひらで包まれたけれど、驚いて叫ぶと止めてくれた。

「ふう、ふう……終わったよ……いや待って、もう少し全体を眺め……じゃなくて、確認してから」
「もういいです、ありがとうございました」

 タオの理性がブチブチと千切れていく幻聴を耳にして、静樹は慌てて身を起こし服を元通りに直した。青い瞳は据わったままで、タオは寝台の上に乗り上がってくる。

 すでに理性の綱は切れてしまったのかと、己の迂闊なお願いを後悔しながら青くなっていると、彼は吐息がかかりそうな距離で静樹を責めた。

「ずるい」
「え?」
「今日会ったばかりの雑技団の子には、普通に話していたのに。なんで俺にはよそよそしい口調なのかな?」
「それはその……」
「友達なら、普通に喋ってよ」

 それだけ言うと、タオは拗ねたように瞳を逸らして胡座をかいた。ぼすん、ぼすんと尻尾の先も怒りを表すようにシーツに叩きつけられている。

(あ……反応してる)

 彼が寝台の上に座った角度で、股の間が盛り上がっているのがわかってしまった。

 こんなにも静樹を求めているのに、それでも友達でいいと言いながら拗ねているタオを前にして、今までに感じたことのない情動が湧いてくる。

(なんていじらしい人なんだろう)

 心を打たれた静樹は未だ危機的な状況にいることも忘れて、彼に向かって身を乗り出し顔をのぞきこんだ。恐ろしい牙が眼前に迫り、少し身を引きながらも声をかける。

「タオ……大丈夫?」
「何が?」
「えっと……いや、なんでもない。そろそろお腹空いたね、何か食べる?」

 窮屈そうだねと言いかけて、別の言葉に切り替えた。薮を突いてしまったら、蛇の頭を出してしまいそうだったので。

 タオは静樹の言葉遣いが変わったのを聞いて、機嫌を直したらしい。ぱたぱたと大きく尻尾が左右に振れる。

「そうだね、一緒にご飯を作って食べよう。先に手を洗ってきてくれる?」

 なんで、などと余計なことは言わずに、台所に置いてある水を張ったタライの前にしゃがみ込むと、ゆっくり丁寧に手を洗った。

 料理の手伝いは、日を追うごとに少しずつできることが増えている。今回は調味料の配分を任せてくれて、美味しく作ることができた。

 ほとんど静樹が一人で作った鶏肉と野菜の炒め物を、タオは大袈裟に褒めながら頬張った。

「すごいよ、めちゃくちゃ美味しい! 静樹には料理の才能がある」
「そうかな……? ありがとう」

 タオは基本的に嘘をつくことがないので、静樹は安心して言葉通りの意味で受け取ることができた。人の言葉の裏を読むのは苦手だから、タオの真っ直ぐな気質は好ましく映る。

 鶏肉は捌けないしかまどの火起こしもまだまだだけど、できることが着実に増えてきていて嬉しくなった。

 買ってきた服は少し袖が長かったので、タオが裾上げしてくれるらしい。

「あの、僕がやってもいい? 今度は指に針を刺さないよう、気をつけるから」
「これは俺にやらせて! 大丈夫、すぐ終わらせるから」

 肉球のついた手じゃ針を使いにくいだろうに、タオは服を抱えて自室に全て持っていってしまった。

(……一回失敗してるし、しょうがないか)

 心配性なタオのことだから、静樹が怪我をするかもしれないのにやらせたくないのだろう。

 料理まで手伝わなくていいと言われないように、より一層怪我に注意しようと決意した。
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