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図書館に行きたい
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日陰で人気が少ない通りをおっかなびっくりついていくと、店の前までびっしりと服が並べられた一角があった。
「こんにちはー、人間用の古着ってありますか?」
タオが声をかけると、気の強そうな顔つきの猫獣人が何着か抱えて持ってきてくれた。
「あんまり数はないけど、これでどう?」
「シズキの気にいる物はある? わあ、これなんて素敵じゃないかな? 南方で流行している服らしいよ」
示された紺色の服はシャツのように前開きの服だが、ボタン部分が結び帯で飾られていて、華やかな印象だ。カンフー着みたいだという印象を受けた。
服装には拘らないから、寒くなければ何でもいいんだけどなと困り顔で見上げてみると、期待のこもった視線を送られた。
「すごく似合いそうだよ! ほら」
歪みが強い鏡に映った自分を見ても、似合っているか判断がつかない。しかしタオはとても気に入ったようで、静樹の肩に衣装を当てて満足そうに微笑む。
「やっぱり、すごくいい!」
「えっと……じゃあ、これにします」
「毎度あり!」
タオの服より余程高価そうな衣装に恐縮しながらも、三着ほど買ってもらった。これから冬が来るからと、足元まで全身を覆える綿入りの袍も買い揃えてくれる。
「あの、こんなにお金を出してもらっても、僕返せないです」
「いいよ、気にしないで」
「でも……」
「気になるっていうなら、冬の間だけでもいいから俺と一緒に住んでよ。シズキに俺のいいところをたくさん紹介するから!」
番になりたいアピールに余念がないタオの様子に、静樹はアハハとに苦笑いをする。
(その気もないのに一緒に住んでたら、脈があるって誤解されそうだなあ。友達としては最高によさそうな人なんだけどな……)
友達になりたいという申し出であれば、悩むことなくお願いしますと即答したのに。
でもそうではないから、やはり長い間お世話になり続けるのはお互いのためによくなさそうだ。静樹にできる仕事があるのか、町にいる間に探してみようと思った。
服屋から出ると、静樹は図書館に行きたいと主張した。
「としょかん?」
「はい。本がたくさんあるところなんですけれど……」
まさか無いのではと、タオの反応を見て額に汗が浮かぶ。彼はうーんと唸った後、ポンと手を打った。
「ああ、いっぱいじゃないけど本が売ってるお店ならあるよ」
そして彼が案内してくれたのは、まさかの質屋だった。雑多に高価な物が並んでいる店内をのぞきこむと、フクロウの店主が出迎えてくれる。
「何をお探しかね」
「本を探してるんだって。あるかな?」
「あるとも。今持ってこよう」
フクロウの鳥人が差し出してくれたのは、たった五冊きりの本だった。しかも何が書いてあるか読めない。
「こ、これだけですか」
「不満かね?」
「い、いえ……あの、他にもっと本がある場所はありませんか」
「富豪や貴族の屋敷なら保管されているだろうが、平民ではなかなか見る機会はなかろうて」
「そう、ですか」
(困ったな、図書館がなくて字も読めないなら、司書の仕事なんて絶望的にできなさそうだ)
他にできそうなのは計算仕事だけれど、店番を兼ねているからコミュニケーション能力が必須らしい。肉食獣人にいちいち怯えていたら接客はままならないだろう。
「シズキがどうしても仕事がしたいって言うなら、俺の家の仕事を手伝ってくれたらいいよ! 今日だってスープを一緒に作ってくれて助かったし」
質屋を出た後当てもなく歩いていると、タオが励ますように声をかけてくれた。
「料理……できるようになったらいいんですが」
「なるよ、シズキなら大丈夫! 一緒にがんばろう」
片想いされている相手の好意にいつまでも甘えてはいけないと思うのに、優しく応援されると縋りたくなってしまう。
答えあぐねていると、活気のある声が広場の方から聞こえてきた。
「みなさーん! 国中で大好評公演中のマーロン雑技団が、ついにチェンシー町にもやってきました!」
「何か催し物をやってるみたいだ、行ってみよう」
タオの揺れるしましま尻尾を追いかけながらついていく。
「こんにちはー、人間用の古着ってありますか?」
タオが声をかけると、気の強そうな顔つきの猫獣人が何着か抱えて持ってきてくれた。
「あんまり数はないけど、これでどう?」
「シズキの気にいる物はある? わあ、これなんて素敵じゃないかな? 南方で流行している服らしいよ」
示された紺色の服はシャツのように前開きの服だが、ボタン部分が結び帯で飾られていて、華やかな印象だ。カンフー着みたいだという印象を受けた。
服装には拘らないから、寒くなければ何でもいいんだけどなと困り顔で見上げてみると、期待のこもった視線を送られた。
「すごく似合いそうだよ! ほら」
歪みが強い鏡に映った自分を見ても、似合っているか判断がつかない。しかしタオはとても気に入ったようで、静樹の肩に衣装を当てて満足そうに微笑む。
「やっぱり、すごくいい!」
「えっと……じゃあ、これにします」
「毎度あり!」
タオの服より余程高価そうな衣装に恐縮しながらも、三着ほど買ってもらった。これから冬が来るからと、足元まで全身を覆える綿入りの袍も買い揃えてくれる。
「あの、こんなにお金を出してもらっても、僕返せないです」
「いいよ、気にしないで」
「でも……」
「気になるっていうなら、冬の間だけでもいいから俺と一緒に住んでよ。シズキに俺のいいところをたくさん紹介するから!」
番になりたいアピールに余念がないタオの様子に、静樹はアハハとに苦笑いをする。
(その気もないのに一緒に住んでたら、脈があるって誤解されそうだなあ。友達としては最高によさそうな人なんだけどな……)
友達になりたいという申し出であれば、悩むことなくお願いしますと即答したのに。
でもそうではないから、やはり長い間お世話になり続けるのはお互いのためによくなさそうだ。静樹にできる仕事があるのか、町にいる間に探してみようと思った。
服屋から出ると、静樹は図書館に行きたいと主張した。
「としょかん?」
「はい。本がたくさんあるところなんですけれど……」
まさか無いのではと、タオの反応を見て額に汗が浮かぶ。彼はうーんと唸った後、ポンと手を打った。
「ああ、いっぱいじゃないけど本が売ってるお店ならあるよ」
そして彼が案内してくれたのは、まさかの質屋だった。雑多に高価な物が並んでいる店内をのぞきこむと、フクロウの店主が出迎えてくれる。
「何をお探しかね」
「本を探してるんだって。あるかな?」
「あるとも。今持ってこよう」
フクロウの鳥人が差し出してくれたのは、たった五冊きりの本だった。しかも何が書いてあるか読めない。
「こ、これだけですか」
「不満かね?」
「い、いえ……あの、他にもっと本がある場所はありませんか」
「富豪や貴族の屋敷なら保管されているだろうが、平民ではなかなか見る機会はなかろうて」
「そう、ですか」
(困ったな、図書館がなくて字も読めないなら、司書の仕事なんて絶望的にできなさそうだ)
他にできそうなのは計算仕事だけれど、店番を兼ねているからコミュニケーション能力が必須らしい。肉食獣人にいちいち怯えていたら接客はままならないだろう。
「シズキがどうしても仕事がしたいって言うなら、俺の家の仕事を手伝ってくれたらいいよ! 今日だってスープを一緒に作ってくれて助かったし」
質屋を出た後当てもなく歩いていると、タオが励ますように声をかけてくれた。
「料理……できるようになったらいいんですが」
「なるよ、シズキなら大丈夫! 一緒にがんばろう」
片想いされている相手の好意にいつまでも甘えてはいけないと思うのに、優しく応援されると縋りたくなってしまう。
答えあぐねていると、活気のある声が広場の方から聞こえてきた。
「みなさーん! 国中で大好評公演中のマーロン雑技団が、ついにチェンシー町にもやってきました!」
「何か催し物をやってるみたいだ、行ってみよう」
タオの揺れるしましま尻尾を追いかけながらついていく。
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