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120スパダリアルファとつりあわないオメガの話
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オフィスの来客スペースで拾ったハンカチから、とんでもなくいい匂いが漂ってきた。
(運命の番の匂いだ)
本能で理解し、急いで持ち主を追いかけたが、すでに帰った後だった。
ハンカチを胸に抱きしめると、素晴らしくいい匂いが立ち上り、幸福な気分になる。
(僕のアルファ、一体どんな人だろう)
仕事をしていればそのうち会えるかと思ったが、なかなか機会は巡ってこない。
番と結ばれたいと、本能が切なく彼を求める。
ある日仕事帰りにバーで飲んでいると、天上の香りがした。
入店してきたスーツ姿の短髪美形と目があった、彼だ。
向こうもすぐ自分が番だと気づいたらしい、カウンターに隣同士腰かけて、熱く見つめあった。
「貴方がほしいです」
「僕も……」
惹かれあうままにホテルに向かい、熱い一夜を過ごした。
翌日になってやっと、お互いの名前を自己紹介した。
「え、この名前って」
なんとお相手は、雑誌で特集を組まれるような有名会社の取締役だった。
契約社員のオメガからしたら天上の人だ。
「私の運命の番……ずっと憧れていたんだ。こんなに可愛らしい人だったなんて。どうか結婚してほしい」
「えっ」
突然のことで気持ちが追いつかない。
身体ばかり疼いて頭も働かず、発情したオメガをアルファは情熱的に抱いた。
発情期が終わると頭が冴えてくる。
運命の番という漠然とした憧れが、実態をもった存在として目の前にいるのが恐ろしくなった。
(僕なんて釣り合わないよ)
彼のように素晴らしい人間ではないと、気づかれるのが恐ろしい。
それでも会いたくて、心は彼を求める。
「結婚は、その……難しいけれど。恋人、なら」
「ぜひ」
とりあえず恋人からはじめさせてもらった。
いつか彼が飽きて目を覚ますまでの間、夢を見させてもらおう。
いくら運命の番なんていっても、家事程度しかまともにできず、仕事も中途半端な自分では、彼とはつりあわない。
そう思ってつきあい始めたのに、一向に飽きられる気配がない。
(嬉しい……僕も頑張らなきゃ)
せめて彼にちょっとでも立場が近づけるよう、正社員を目指した。
けれど仕事を頑張りすぎて、彼と会う時間が少なくなってしまった。
(会いたい……だけど、頑張らないと)
忙しい中時間を合わせて会うと、彼は心配そうに目の下の隈を指先でなぞった。
「仕事、忙しいんだね」
「はい、頑張っています」
「身体にはくれぐれも気をつけて……そうまでしてやりたい仕事があるのか?」
「いえ、そうではなくて。貴方に釣り合う人になりたいんです」
「そんなの気にしなくていい。そのままの君がいいんだ」
そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、どうしても頷けない。
やっと正社員になれて、これで一安心と思ったのに今度は仕事が忙しくてなかなか会えなくなる。
アルファは会うたびに情熱的に愛してくれるけれど、すれ違いが続くと不安になった。
気がつけば、忙しさにかまけて三ヶ月も会っていない。
(こんなはずじゃなかった)
元々やりたいわけでもない仕事を、無理して頑張りすぎたストレスで、体を壊してしまう。
(なにやってるんだろう)
仕事を休業し静養していると、彼がお見舞いにやってくる。
じわっと涙が溢れた。
「ごめんなさい、僕」
「謝らないで。今までよくがんばったね」
アルファが肩を抱いてくれる。温かい、受け入れられている。
ひとしきり泣いて、立場にこだわっていたのは自分だけだったと腑に落ちた。
鼻をすすった後、情けない泣き顔のまま彼を見上げる。
「僕、なんにもないけど、貴方を愛する気持ちだけは人一倍あります。だから」
勇気を出して、そのままの自分で告白した。
「僕と、番になってください」
抱きしめる力が強くなる。掠れた声でささやかれた。
「もちろんだ。ずっと君と番になりたいと思っていた。私は君が笑っているだけで、幸せな気持ちになるんだ」
「毎日は笑えないかもしれません」
「そしたら笑って暮らせる方法を一緒に考えるよ。無理に毎日笑わなくていい、側にいてくれるだけでも嬉しいから」
自分を偽らなくなったオメガは、日々できることを丁寧にこなして、得意な家事や料理でアルファを癒している。
二人は番として結ばれ、笑顔溢れる満ち足りた生活を送っている。
(運命の番の匂いだ)
本能で理解し、急いで持ち主を追いかけたが、すでに帰った後だった。
ハンカチを胸に抱きしめると、素晴らしくいい匂いが立ち上り、幸福な気分になる。
(僕のアルファ、一体どんな人だろう)
仕事をしていればそのうち会えるかと思ったが、なかなか機会は巡ってこない。
番と結ばれたいと、本能が切なく彼を求める。
ある日仕事帰りにバーで飲んでいると、天上の香りがした。
入店してきたスーツ姿の短髪美形と目があった、彼だ。
向こうもすぐ自分が番だと気づいたらしい、カウンターに隣同士腰かけて、熱く見つめあった。
「貴方がほしいです」
「僕も……」
惹かれあうままにホテルに向かい、熱い一夜を過ごした。
翌日になってやっと、お互いの名前を自己紹介した。
「え、この名前って」
なんとお相手は、雑誌で特集を組まれるような有名会社の取締役だった。
契約社員のオメガからしたら天上の人だ。
「私の運命の番……ずっと憧れていたんだ。こんなに可愛らしい人だったなんて。どうか結婚してほしい」
「えっ」
突然のことで気持ちが追いつかない。
身体ばかり疼いて頭も働かず、発情したオメガをアルファは情熱的に抱いた。
発情期が終わると頭が冴えてくる。
運命の番という漠然とした憧れが、実態をもった存在として目の前にいるのが恐ろしくなった。
(僕なんて釣り合わないよ)
彼のように素晴らしい人間ではないと、気づかれるのが恐ろしい。
それでも会いたくて、心は彼を求める。
「結婚は、その……難しいけれど。恋人、なら」
「ぜひ」
とりあえず恋人からはじめさせてもらった。
いつか彼が飽きて目を覚ますまでの間、夢を見させてもらおう。
いくら運命の番なんていっても、家事程度しかまともにできず、仕事も中途半端な自分では、彼とはつりあわない。
そう思ってつきあい始めたのに、一向に飽きられる気配がない。
(嬉しい……僕も頑張らなきゃ)
せめて彼にちょっとでも立場が近づけるよう、正社員を目指した。
けれど仕事を頑張りすぎて、彼と会う時間が少なくなってしまった。
(会いたい……だけど、頑張らないと)
忙しい中時間を合わせて会うと、彼は心配そうに目の下の隈を指先でなぞった。
「仕事、忙しいんだね」
「はい、頑張っています」
「身体にはくれぐれも気をつけて……そうまでしてやりたい仕事があるのか?」
「いえ、そうではなくて。貴方に釣り合う人になりたいんです」
「そんなの気にしなくていい。そのままの君がいいんだ」
そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、どうしても頷けない。
やっと正社員になれて、これで一安心と思ったのに今度は仕事が忙しくてなかなか会えなくなる。
アルファは会うたびに情熱的に愛してくれるけれど、すれ違いが続くと不安になった。
気がつけば、忙しさにかまけて三ヶ月も会っていない。
(こんなはずじゃなかった)
元々やりたいわけでもない仕事を、無理して頑張りすぎたストレスで、体を壊してしまう。
(なにやってるんだろう)
仕事を休業し静養していると、彼がお見舞いにやってくる。
じわっと涙が溢れた。
「ごめんなさい、僕」
「謝らないで。今までよくがんばったね」
アルファが肩を抱いてくれる。温かい、受け入れられている。
ひとしきり泣いて、立場にこだわっていたのは自分だけだったと腑に落ちた。
鼻をすすった後、情けない泣き顔のまま彼を見上げる。
「僕、なんにもないけど、貴方を愛する気持ちだけは人一倍あります。だから」
勇気を出して、そのままの自分で告白した。
「僕と、番になってください」
抱きしめる力が強くなる。掠れた声でささやかれた。
「もちろんだ。ずっと君と番になりたいと思っていた。私は君が笑っているだけで、幸せな気持ちになるんだ」
「毎日は笑えないかもしれません」
「そしたら笑って暮らせる方法を一緒に考えるよ。無理に毎日笑わなくていい、側にいてくれるだけでも嬉しいから」
自分を偽らなくなったオメガは、日々できることを丁寧にこなして、得意な家事や料理でアルファを癒している。
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