ツイノベ倉庫〜1000文字程度の短編集

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
110 / 126

110子連れBLの話

しおりを挟む
死んだ姉の三歳の子どもを引き取った。
両親はすでになく、親戚は俺一人しかいない。

子育てなんてやったことないけど、なんとかするしかない。

決意は固かったが、現実は厳しかった。

熱を出す度に仕事先に頭を下げ、夜中に母を呼び泣く子をあやし、かんしゃくに気を滅入らせていた俺は、同僚の前でぶっ倒れたらしい。

目を開けると、同僚が俺の家で子どもと遊んでいた。

「え、わ……ごめん同僚! 俺、倒れたのか?」
「ああ、もうちょっと休んでろよ。子どもは俺がみておくから」

申し訳ないと思いながらも、心からホッとした。

「こいつ可愛いなー。お前も無理すんな、俺でよかったら時々面倒見にくるから」

子ども好きな同僚は、休みの度に子どもに会いにくるようになった。

すごく助かると思う反面、申し訳なさが胸を締めつける。

「悪いな、いつも助かる」
「いいんだ。お前の力になれたら本望だ」

優しくて頼りになる彼のことを、俺はいつしか恋愛的な意味で好きになっていた。

けれど彼は社内でモテるし、彼女がいたこともあるという。

きっとノンケだろうと、自分の気持ちに蓋をした。

そんなある日、どうしても同僚くんと一緒にねんねしたい! と言ってきかない子どもの為に、同僚が家に泊まることになった。

「よろしく」
「ああ、入れよ……」

彼が家でシャワーを浴びている、パジャマを着ている、隣の布団に入っている……いちいちときめいてしまい、心臓が落ち着かない。

「じゃあ寝ようか、おやすみ」
「おやすみなさーい!」

子どもは、はしゃぎ疲れたせいかすぐに寝てしまった。

「今日はありがとうな、こいつのワガママを叶えてくれて」
「俺も楽しかったし気にするなよ。この子も寝ちゃったし、ここから先は大人の時間だな」

ソファでお酒を飲もうという話になった。

うっかり好きだと言うと目も当てられないから、同僚の前では飲まずにいたが、彼はかなりのハイペースで飲んでいる。

「そんなに飲んで大丈夫か?」
「ああ、うん。いざとなったら緊張しちゃってな。いやでも、酒ばっかり飲んでる場合じゃなかった。今日言うって決めたんだから」
「何の話だ?」

彼はあらたまって俺の腕を掴むと、一息で言った。

「好きだっ、つきあってくれ!」
「は、え?」

びっくりしすぎて言葉が出ない。

「お前は毎日子育てで大変すぎて、恋愛どころじゃないかもしれないが……愛情深くて頑張り屋のお前のことを、側で支えたくなっちまった」

これは夢だろうかと目を瞬く。
頬をパチンと叩いてみると痛い。

やはり夢ではないらしい。

試しに胸の中に飛び込んでみると、力強く抱きとめられた。

「……いいのか? 俺とつきあうと、もれなく子どももついてくるけど」
「望むところだ。あの子ごとお前のことを支えたい」

じわっと目尻が熱くなり、消え入りそうな声で返事をする。

「じゃあその、よろしく……」
「ああ、もっと頼ってくれよな。愛してる」

泣きたい時に、誰にも頼れなかった。
でもこれからはそうじゃないんだ。

心からの安堵と嬉しさで、涙がポロポロ溢れ出る。

彼は自分の服が濡れるのも構わずに、俺が泣き止むまで肩を抱いてくれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

二本の男根は一つの淫具の中で休み無く絶頂を強いられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...