上 下
107 / 126

107ロミジュリなオメガバース

しおりを挟む
「ああオメガ! お前はどうしてオメガなんだ?」
「いいから早よ帰れ」

いつもベランダの階下から、芝居がかった口調で口説いてくる隣高のベータは幼馴染だ。

「ところで今日は部屋に入れてくんねーの?」
「そろそろヒートが来る時期だから帰れって言ったろ、バカめ」
「辛辣ゥ! だがそこがいい!」

どうして僕はオメガなんだって、自分でも思う。

親はベータだし、小綺麗ではあるが割と平凡な容姿をしているし、当然ベータになるものと思っていた。

「いっそお前がアルファだったらよかったのにな」
「それな」

茶化した口調だけど、ベータの視線は真剣だ。

僕がオメガだと知った母は、オメガにはアルファの許嫁を見つけてやらないとと張り切り、名家の子息と勝手に婚約させられてしまった。

僕は目の前のベータが好きなのに。

「じゃあまた、一週間後になー」

背を向けて帰っていくベータを追いかけたら、何か変わるだろうか。

いや、貧乏なのに一生懸命育ててくれた母に、迷惑はかけられないと、自分の気持ちに蓋をした。

婚約者として恥じないよう必死に勉強して、アルファが卒業した名門大学に入った。

初めて顔合わせをしたアルファには恋人がいた。

「私の恋人はベータなんだ。オメガでないと婚約者として認められないと親から言われてね。すまないが、卒業後一年ほど契約結婚してくれないか」
「一年経ったら、どうするんですか」
「君と離縁すると約束する。その間家内として振る舞ってもらえれば、慰謝料も渡す。私には新薬を開発するための地位と時間が必要なんだ」

ベータをオメガやアルファに変える薬を開発中らしい。

呆然としながら家に帰り、幼馴染ベータに全てを打ち明けた。

「契約結婚ってことか……お前はそれでいいのかよ?」
「いいも何も、もう決まったことだ」

それに、バース性を変化させる新薬ができたら、僕のオメガ性だってベータに変えられるかもしれない。

(そうすれば、もしかしたらコイツと……)
「なんだよ、もし本当に逃げるつもりなら、拐っていく覚悟をしてたのに……結局俺ばっかりがお前のこと好きだったんだな」
「ベータ?」
「もういい。お前のことなんて知らん」

ベータは僕と連絡を絶ってしまった。
メッセージを送っても、結婚式の招待状を出しても一向に返事はこない。

失意のままアルファとの結婚式を終えた。

アルファは恋人に誤解されたくないからと、新居には帰らず恋人の家に寝泊まりしている。

一人きりの広いマンションで、僕は孤独に過ごした。

やがて一年が経ち、無事に新薬は完成したようだ。

ベータがパートナーの力を借りて、オメガやアルファに変化できる夢のような薬だ。

けれどオメガをベータに変える薬はないらしい。

(当たり前か、彼はベータの恋人を幸せにしたかったんだもんな)

幸せそうな二人を見ても、恨む気持ちは湧いてこない。

ただどうしようもなく寂しかった。

手伝ってくれたお礼にと、高価な性別変換薬をもらってもちっとも嬉しくない。

離縁して、実家に帰るとなぜかベータが家の修理をしていた。

「……え?」
「オメガ? 久しぶりだな」

すっかり大人になった彼は、僕への恋心なんて忘れたように振る舞った。

グラグラと気持ちが揺れ動く中、適当に置いていた性別変換薬を、間違ってベータが飲んでしまう。

側にいたオメガに影響を受けて、アルファに変化しラット状態となった彼は、欲望の赴くままに僕を抱いた。

「好きだっ、ずっと好きだった……! 忘れられるはずがないだろう!」

(僕も、ずっと君のことだけが好きだったよ)

溢れた涙はきっと生理的なものではなく、歓喜によるものだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...