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107ロミジュリなオメガバース

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「ああオメガ! お前はどうしてオメガなんだ?」
「いいから早よ帰れ」

いつもベランダの階下から、芝居がかった口調で口説いてくる隣高のベータは幼馴染だ。

「ところで今日は部屋に入れてくんねーの?」
「そろそろヒートが来る時期だから帰れって言ったろ、バカめ」
「辛辣ゥ! だがそこがいい!」

どうして僕はオメガなんだって、自分でも思う。

親はベータだし、小綺麗ではあるが割と平凡な容姿をしているし、当然ベータになるものと思っていた。

「いっそお前がアルファだったらよかったのにな」
「それな」

茶化した口調だけど、ベータの視線は真剣だ。

僕がオメガだと知った母は、オメガにはアルファの許嫁を見つけてやらないとと張り切り、名家の子息と勝手に婚約させられてしまった。

僕は目の前のベータが好きなのに。

「じゃあまた、一週間後になー」

背を向けて帰っていくベータを追いかけたら、何か変わるだろうか。

いや、貧乏なのに一生懸命育ててくれた母に、迷惑はかけられないと、自分の気持ちに蓋をした。

婚約者として恥じないよう必死に勉強して、アルファが卒業した名門大学に入った。

初めて顔合わせをしたアルファには恋人がいた。

「私の恋人はベータなんだ。オメガでないと婚約者として認められないと親から言われてね。すまないが、卒業後一年ほど契約結婚してくれないか」
「一年経ったら、どうするんですか」
「君と離縁すると約束する。その間家内として振る舞ってもらえれば、慰謝料も渡す。私には新薬を開発するための地位と時間が必要なんだ」

ベータをオメガやアルファに変える薬を開発中らしい。

呆然としながら家に帰り、幼馴染ベータに全てを打ち明けた。

「契約結婚ってことか……お前はそれでいいのかよ?」
「いいも何も、もう決まったことだ」

それに、バース性を変化させる新薬ができたら、僕のオメガ性だってベータに変えられるかもしれない。

(そうすれば、もしかしたらコイツと……)
「なんだよ、もし本当に逃げるつもりなら、拐っていく覚悟をしてたのに……結局俺ばっかりがお前のこと好きだったんだな」
「ベータ?」
「もういい。お前のことなんて知らん」

ベータは僕と連絡を絶ってしまった。
メッセージを送っても、結婚式の招待状を出しても一向に返事はこない。

失意のままアルファとの結婚式を終えた。

アルファは恋人に誤解されたくないからと、新居には帰らず恋人の家に寝泊まりしている。

一人きりの広いマンションで、僕は孤独に過ごした。

やがて一年が経ち、無事に新薬は完成したようだ。

ベータがパートナーの力を借りて、オメガやアルファに変化できる夢のような薬だ。

けれどオメガをベータに変える薬はないらしい。

(当たり前か、彼はベータの恋人を幸せにしたかったんだもんな)

幸せそうな二人を見ても、恨む気持ちは湧いてこない。

ただどうしようもなく寂しかった。

手伝ってくれたお礼にと、高価な性別変換薬をもらってもちっとも嬉しくない。

離縁して、実家に帰るとなぜかベータが家の修理をしていた。

「……え?」
「オメガ? 久しぶりだな」

すっかり大人になった彼は、僕への恋心なんて忘れたように振る舞った。

グラグラと気持ちが揺れ動く中、適当に置いていた性別変換薬を、間違ってベータが飲んでしまう。

側にいたオメガに影響を受けて、アルファに変化しラット状態となった彼は、欲望の赴くままに僕を抱いた。

「好きだっ、ずっと好きだった……! 忘れられるはずがないだろう!」

(僕も、ずっと君のことだけが好きだったよ)

溢れた涙はきっと生理的なものではなく、歓喜によるものだ。
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